当財団の中でいちばん南にある高千穂河原支部にも水道は凍り、雪が降る冬がやってきました。新燃岳の噴火後4年が過ぎようとしています。何もかも火山灰に埋もれ、枯れた赤松や緑のない風景、中岳に近い「中岳中腹路」はまるで砂浜のような景色が広がり、あちこちに枯れたミヤマキリシマがサンゴのように立っていました。
時が経つにつれ、その枝や埋もれた地面の横から新しい枝が生まれ、昨年の春はピンク色に染まった御鉢や中岳中腹路が帰ってきました。1959年の噴火の後、植生が見事に復活しているのを考えると今回も自然の力に期待するしかないのかもしれません。
高千穂峰、御鉢の山肌は新燃岳噴火前に戻りつつあり、赤茶けた斜面や緑がみえる景色が帰ってきています。登山は登りやすくなった半面、下りが難しくなってきたようです。頂上から見る景色も変わってきましたが、新燃岳、中岳は今も灰色のまま噴火後とあまり変わっていません。枯れた常緑木が今も立っています。紅葉の季節に赤色や黄色の中に混ざって見えます。緑がないのにふと気づきました。
ミヤマキリシマの酸性質の土壌への相性の良さは今の状態をみれば歴然とわかりますが、もう一種おもしろいのがウリハダカエデです。噴火後1年目から幼木があちこちに確認できました。今年もウリハダカエデのプロペラをたくさんつけた種子を観察できるのをみると、この先少し楽しみになります。温暖化がすすむ中、南国の地で紅葉を楽しめる所である高千穂河原としてはこのまま大きく育ってほしいと思います。
この秋に落ち葉と火山灰の入り混じった土からツルニンジン、ツクシコウモリ、リンドウ等の植物たちも確認できるようになりました。大木が枯れて、場所によっては太陽の光があたるようになりました。自然の変化で植物たちがどんな植生を形成していくのか夢が広がります。
この4年間でミヤマキリシマの群生地にも変化がみえてきました。高千穂河原は例年5月中旬あたりからミヤマキリシマの見頃になります。群生地として人気があるのは中岳中腹路、神宮の森の東屋付近、あとは御鉢の斜面全体から高千穂峰までつづきます。
日当たりを好むミヤマキリシマにしたら、灌木等のない御鉢や高千穂峰は聖地であるのかもしれません。御鉢の南斜面からピンク色に山肌が染まっていくのは実に圧巻です。
御鉢と中岳の鞍部にあたる鹿ヶ原と呼んでいる場所があります。昔から知る人ぞ知る群生地。そこもたくさんの火山灰が堆積し、ミヤマキリシマを含めほとんどの植物が埋もれました。その一帯にまたミヤマキリシマが咲きほこる群生地が戻りつつあります。これらの群生地をどう守っていくか、手助けが少しは必要なのかもしれません。
ミヤマキリシマには、キシタエダシャクという蛾の幼虫(毛虫)がつきます。春先芽吹いた葉を食べ、新芽を食い尽くすと花の蕾も食べつくします。そうなると花はまったくみられなくなってしまいます。
ススキがこの秋から目立つようになってきました。まだ小さいミヤマキリシマをすっぽり包んでしまいました。まだ虫の確認はしていませんが、その環境に卵を産み付けます。虫の数が少ないときは問題ありませんが、多量に発生すると厄介です。ましてや今のミヤマキリシマの株の大きさではまったく花が見られなくなる可能性もあります。
そこで私たちはこの毛虫を撲滅するのではなく、必要以上に多量に発生させないようにする対策を講じることにしました。
例年、高千穂河原支部では中岳中腹路の刈払い作業をしています。約16ヘクタールの敷地を11月中旬あたりから3月の初め頃まで実施します。今年は噴火後初めての刈払い作業の最中です。ミヤマキリシマに少しだけ手助けをしているつもりですが、なかなか私たちの人員では大変なお手伝いです。先はまだ長いようです。
中岳中腹路のミヤマキリシマは1年で1ミリ太くなるそうです。20年株、30年株ぐらいになると、その剪定作業を行う庭師がついています。ホソキリンゴカミキリという長い名前のカミキリ虫の仲間です。古い幹を穴だらけにして枯らしてしまいます。茂り過ぎて根元の循環が悪くならないようにする働きがあるのです。また根元から新しい幹が伸び始めるので心配ありません。彼らが私たちの仲間になるにはまだまだ先の話です。
中岳、新燃岳にはまだ登山規制がかかっています。新燃岳のキリシマミツバツツジを確認をすることはできませんが、壊滅的な状況と聞きました。
自然保護の難しさは現場にいると時々感じることがあります。どこまでやったらいいのかわからないことだらけです。ただ彼らからみれば「ほっといてくれ」と思っているのかもしれません。
文・写真:一般財団法人自然公園財団 高千穂河原支部 中之薗 勝信
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