高千穂峰(標高1574m)は、九州南部にある霧島屋久国立公園・霧島地域の南部に位置します。韓国岳(からくにだけ)に次いで標高が高く、東部に御池、西部にお鉢(火口)を従え、この国立公園の中で最も山容の美しい山です。山頂には天の逆鉾(注)が天空を望み、太古より山岳信仰の地として参拝者も多く、比較的登頂しやすいので、四季を通して登山客が多いことでも知られています。
1886年に、坂本龍馬が妻のおりょうさんと新婚旅行で高千穂峰に登った紀行が残っています。それには、「お鉢の登り道がきびしく泣きそうになった」とか「馬の背では恐ろしくて手をとり合った」、山頂にある「天の逆鉾を二人で引っこ抜いた」などと記されていて、二人の人間味あふれる行動が思い浮かぶ、歴史とロマンの山でもあります。
除夜の鐘が鳴り始めるころ、冷え込みの厳しい山麓のお社には、どこから集まってきたのかと思うほどの人波があふれかえります。参拝をすませて登山基地・高千穂河原へと車で移動し、ご来光の時間に合わせて登頂まで自家用車の中で時間の調整を行います。山道のところどころには闇夜を照らす照明灯が配置されて来訪者を迎えているのが、遠目からもみてとれます。
新年の祈願で天候の安泰までお願いしたので急激な変化はなさそうです。うす雲に星が見え隠れして、山に向かう足取りも何となく快く感じられます。
高千穂河原を登り始めてから1時間半余りで登頂となります。真冬の登頂では、夏場の軽装とは異なり、防寒対策と登山にふさわしい装備はどうしても必要です。登山基地から石畳の歩道を20分程登ると、溶岩の風化がすすんだ赤茶けたガレ場が始まります。足場を確保しながら一歩一歩登ると40分余りでお鉢の縁に着き、ここで一息いれることができます。この斜面からは高千穂河原駐車場周辺を眺めることができ、闇夜に登山者が灯す明かりが延々と連なる様は神秘的で、高千穂河原の新春の風物詩でもあります。
お鉢の馬の背越えと呼ばれる狭隘(きょうあい)な場所では、火口へ引き込まれるような恐怖感を強く感じます。闇間では火口が見えないので恐ろしさは薄れますが、風雨の強い日は慎重な歩行が必要です。この地点を過ぎると高千穂峰とお鉢の鞍部になります。遠い昔、お宮が祀られていたとのことで小さな祠と鳥居が復元されています。ここで登頂の安全祈願を済ませ、ご来光の時間を調整しながら山頂まで一気に登ることになります。
いよいよ天孫降臨の山、高千穂峰の頂上です。身を刺すような寒さですが、さえぎるもののない360度の大パノラマ。
薄暗い中にふんわりとした雲海が次第に明るくなり、素晴らしいご来光が始まります。思わず万歳をする者、静かに合掌する者、熱心に写真を撮る者、三者三様ですがご来光に祈願したみんなの願いは天空まで届けられるような気がします。
((財)自然公園財団 えびの・高千穂河原支部 所長 満田宗雄)
(注)天の逆鉾(あまのさかほこ)
高千穂峰山頂にある神代の旧物。
天孫「ニニギノミコト」が降臨に際して地面に突き立てたとされる鉾。
なお「天孫」とは、天照大神(アマテラスオオノカミ)の孫に当たる「ニニギノミコト」のことで、山麓にある霧島神宮ではご神体として祀られている。
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