秋田県と岩手県の県境にある八幡平は、広大なエリアにブナとアオモリトドマツを主体とする自然林が広がり、雪解け水をたたえる湿原や湖沼が点在しています。また、いまでも火山活動が活発なので、噴気、噴湯、泥火山などさまざまな火山現象が見られ、その恩恵で温泉を楽しむことができます。
春から夏まで、新緑や紅葉そして身近に咲く高山植物を見にたくさんの人が訪れますが、観光道路であるアスピーテラインが冬季閉鎖(11月?4月)になってからは、歩いてしか山頂に行けなくなります。
山麓にあるスキー場からスキーをはいて3?4時間歩くと、山頂部に広がる樹氷原に着きます。ここは、体力と気力を備えた人だけが見ることのできる銀世界です。
日本百名山を著した深田久弥は、「蔵王や八幡平の樹氷群の…(中略)…魂を揺さぶるような景観に接することなく一生を終える人こそ不幸なるかな」と述べています。晴れた日に、純白の斜面の中に林立する樹氷を見ることができれば、その神秘的な美しさに感動すること間違いありません。
樹氷(アイスモンスター)は、日本海を渡って水分を含んだ空気が、山越え時に急激に冷やされ、過冷却となった水分がアオモリトドマツの葉につき、成長してできるもので、日本海側の、標高1,000?1,500mに分布するアオモリトドマツ林帯でしか見られない、地域限定、期間限定の稀少な自然現象です。
蔵王や八幡平のほか、八甲田山や吾妻山も有名ですが、八幡平の樹氷の特色は、湿原や湖沼など多様な地形に加えて、風の影響によってアオモリトドマツが大小さまざまであることから、非常に変化に富んだ樹氷原となっていることです。
冬の八幡平は、魅力たっぷりの銀世界ですが、天候が悪いときは白一色の世界になるので、ルート選定に経験が必要です。初めての方は、案内人と一緒に行くことをおすすめします。
地元の鹿角山岳会で毎年2月下旬に樹氷ツアーを企画しているので、それに参加すれば、初めての方でも樹氷原を見ることができる可能性が高いでしょう。
体力や装備の面で、山頂まで行くことは無理という方におすすめなのが、山麓の標高1,000m付近にある大沼や、後生掛火山噴気地帯を巡るスノーシューツアーです。
大沼周辺では、雪の時期にしか歩けない湿原や林のなかを自由に歩くことができ、ブナやキタゴヨウマツの巨木とも出会えます。冬の厳しい寒さを克服する植物たちの越冬の様子や、ウサギやカモシカ、テンなどの動物たちの足跡も見ることができます。さらに、昨秋、クマが冬眠に備えて食い溜めした跡であるクマ棚もたくさん目撃することができ、雪の中での豊かな動植物の営みが体感できます。
後生掛の火山噴気地帯を巡るコースでは、積雪と地熱が作り出す独特の凹凸地形が見られ、日本一の泥火山も間近に見ることができます。気温が低いこの時期は噴気も活発で、雪と火山活動のせめぎ合いが独特の雰囲気をつくり出しています。運が良ければ、青空の下で綺麗に輝く霧氷【1】が迎えてくれるでしょう。雪の中を歩いてから入る温泉は、さらに心身とも温まります。
ただし、積雪・噴気地帯では、ルートを外れると危険なので、ルートをわかっている人に案内してもらうことをおすすめします。
自然公園財団八幡平支部では、1月?3月にスノーシューで歩くガイドウォークを毎週1?2回計画しており、団体での申し込みには随時応じています。コースや日程については、自然公園財団八幡平支部のブログ(アスピーテ日誌)を参照して下さい。
(一財)自然公園財団八幡平支部 所長 岡野 治
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