日本を代表する山々の風景が広がる上高地は、中部山岳国立公園の南部に位置します。
清流梓川の変化に富んだ流れと穂高連峰を始め急峻な山々に抱かれた景色が最大の魅力です。日本に近代登山を伝えたウォルター・ウェストンが明治時代に訪れ、上高地の素晴らしさを広く伝えたことで、近代登山発祥の地としても知られています。
長い冬の眠りから覚めた4月の終わり、新緑は川辺から始まり、やがて山あいの平坦部、そして山の斜面を上っていきます。雪解けをまち、何種類もの植物がいっせいに花を咲かせます。一年のうちで最も美しく躍動感に満ちあふれる季節です。ここではケショウヤナギとニリンソウを紹介しましょう。
上高地の新緑を代表する木がケショウヤナギです。氷河期には広く分布していた種ですが、現在、日本では北海道の一部と、ここ梓川の流域など限られた地域にしか残っていない珍しい種です。若い木の幹や枝が白くおしろいで化粧をしたように見えることからその名がつきました。大木になると枝の先端で多数枝分かれし、こんもりとした樹形を作ります。上高地では、田代橋(上高地のシンボル河童橋から徒歩20分ほど)から上流に分布し、川辺では成長した群落、中洲では若い群落を見ることができます。
河童橋の両側にある大木のケショウヤナギは、5月上旬に芽吹き、梓川の碧い流れ、残雪の穂高連峰を望む景観をより美しくしています。新緑の時期、雪解けで水量豊富な梓川の中ほどで孤立した大木のケショウヤナギが、流れにさらされ打ち勝つようすは、まさに氷河期の生き残り、生命力の強さを感じます。
河童橋から小梨平キャンプ場を通り明神へ向けて、新緑の林の中を自然と対話しながら歩いてみましょう。ときには立ち止まり耳をかたむけ、ときにはしゃがみこみ、じっくりと見てみると、今まで気がつかなかった発見や出会いがまっているでしょう。
のんびりと歩くこと60分、ニリンソウの群落に出会います。白色のきれいな花が二輪咲くのでニリンソウです。よく見ると三輪、四輪と花を付けたり、花びら(実はがく片)も5枚や7枚、9枚のものまで、それから、緑色の花も見つかります。明神分岐から徳沢へ向けて、歩くこと30分。見渡す限り一面、どこまで行っても緑と白のじゅうたんを敷きつめたようなニリンソウの大群落! それは、森の白い妖精が舞い降りてきたようです。
ここ上高地では、5月中旬から6月上旬にかけて、小さく可憐な花々が、新緑の葉に光をさえぎられる前にと競争でもしているように、さまざまな姿で咲き誇ります。
上高地ビジターセンター(河童橋から徒歩5分)では、今どこで、どんな花が咲いているか一目でわかる開花情報があります。ぜひ、立ち寄って最新の情報交換をしましょう。
((財)自然公園財団 上高地支部 若林 浩之)
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