大山には西日本最大級のブナの原生林が広がり、多くの動植物や昆虫が生育しています。春には大山の固有種でもあるダイセンキスミレが可憐に色付き、夏になるとダイセンオトギリやダイセンクワガタなどの高山植物を見ることができます。冬になると、動物たちの姿を見かけることも少なくなり、植物も雪に埋まってしまい、見ても面白くないと思う人も居るかも知れません。でも冬の時期だけの楽しみ方もたくさんあります。
大山には初心者から上級者まで幅広く楽しめるコース設定のスキー場があり、晴れた日の頂上からは米子市、日本海、島根半島が一望できます。もちろん、スキーやスノーボードだけでなく、最近では冬の森の中を歩くスノーシューも人気です。鳥取支部大山事業地でも「冬芽観察」「昆虫観察」「アニマルトラッキング」「巨木観察」などスノーシューを使っての観察会を定期的に行っています。スノーシューの履き方から始まりますので、大人から子どもまで、冬の大山は初めてと言う方でも、楽しんで貰えるようプログラムを組んでいます。
木と同じ高さに立ち、間近で枝先を手にとれば、小さな芽が寒さに耐える工夫をしながら春を待つ姿が見えてきます。これらの冬芽は個性的で、面白い形や不思議な形をしたものなど様々です。同じ種や個体であっても、一つとして同じものはありません。人にも個性があるように、植物も個性を持っています。
野鳥たちのさえずりに耳を澄まし、雪原を駆ける動物の足跡や痕跡を探してみましょう。急斜面を登ろうと苦労した跡、急な方向転換、寝床から這い出た跡、木の冬芽や小枝を噛み切った跡や、近くには動物の落とし物があったりします。姿は見えなくても、その様子を想像しながら辿ってみましょう。何の動物かわからなくても、足跡や痕跡を見つけると嬉しいものですが、それが誰のものか特定できるとより一層楽しいと思いませんか。
冬の森の中を歩いていると、一際目立つ薄緑色をした不思議な物体に出合うことがあります。これは、ヤママユガ科のガの繭で、秋に羽化した後に残る空繭です。葉が生い茂る夏の時期はほとんど見つけることができませんが、落葉時期が終わると、枝先につく薄緑色の美しい繭を遠くからでも見つけることができます。
夏の間は、多くの昆虫がいるのに、冬の間はどこにいるのか不思議に思ったことはありませんか。暖かいところへ移動する昆虫もいれば、地中や樹木の洞や樹皮の下で冬眠をするなど、様々な方法で冬を過ごしています。全ての昆虫が移動や冬眠をするのではなく、中には真冬に活動する昆虫たちもいます。木の根元や幹の間を見てみると、体長1?3mmほどの翅のない小さな虫、トビムシたちが雪の上を飛び跳ね活発に動き回っています。河原に出て雪の上を観察すると、川の上流を目指して歩くクロカワゲラに出合う事があります。普段何気なしに見ている場所も、よく観察してみれば、また違った発見があることでしょう。
真っ白な雪に覆われていた山並みも、雪解けが進みにつれて、黒い地肌が見え始めます。木の周りには、ぽっかりと空いた穴。根開きと言われる現象で、森の木々が日差しを浴びてその体温を上げ、木の周りの残雪をどんどん解かしていきます。
早春、まだ残雪があるうちに咲く黄色いマンサクの花が、いち早く春の訪れを告げてくれます。つい数日前までは固く蕾を閉じていた、ダンコウバイ、タムシバなどの花も開き始め、雪の下からはフキノトウが顔を出します。サクラの開花にツバメの飛来、多くの動植物たちも動きだし、少しずつ日差しも暖かく感じられるようになり、春が来たのを実感することができるようになります。
(一財)自然公園財団鳥取支部(大山事業地)椎木 麻希
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