鹿児島県にある霧島錦江湾国立公園は、平成24年3月16日に霧島屋久国立公園から屋久島地域が分離独立して今の名前に変更されました。日本で初めての国立公園の一つであり、来年の3月16日に80周年を迎えます。
高千穂河原はその国立公園の中にある谷間の小平地です。標高970mには高千穂河原ビジターセンターがあり、そこを基地に高千穂の峰への登山、霧島神宮の森や中岳探勝路の散策、昔の霧島神宮の跡地である古宮跡への参拝など、毎年多くの登山者・観光客が訪れています。
平成23年3月に新燃岳が300年ぶりの大噴火をしてから、2年4カ月が過ぎようとしています。この時、数日間で軽石や火山灰数千万トンが地上に降りました。もちろん、高千穂河原もその被害を受け、当時は辺り一面に噴出物が6cm以上積りました。そして今もまだ、登山道や森の散策路にはそれらの噴出物が残り、歩く者の行く手を鈍らせ、動植物たちの生活に影響を与えています。
しかし、そんな環境下でも、たくましく生き続ける植物たち。その中でもちょうど5月の中旬が見頃となったミヤマキリシマに、今回はスポットライトを当ててみました。
新燃岳の噴火以降、ずっと立入禁止となっていた中岳には、今年(平成25年)の4月27日から入山できるようになりました。しかし、入れるのは中腹まで。新燃岳の火口から2km以内は今も立ち入りが禁止されています。
中岳中腹の探勝路周辺では大量の噴石やガス等により樹木が倒れ、登山道が崩壊・埋没しています。その影響はミヤマキリシマも例外ではありません。
【ミヤマキリシマ】(つつじ科)
半常緑の低木で、花は淡紅紫色を中心に微妙な色合いの違いがあり、白花もあります。幅5?長さ15?ほどと葉が小さいのが特徴です。葉の先端に3?5個の花を咲かせます。おしべは5本持っています。
九州の、雲仙や阿蘇や久住や霧島の山々に生息します。どれも1,000m級の高山で、火山礫(溶岩などの破片)に覆われ 、しかも強風にさらされるという厳しい環境下です。しかしミヤマキリシマはそんな住みにくい場所にあえて生育する植物です。むしろ、そうした環境下だからこそ、自分たちの生育スペースを確保し、生き残ってこられたのかもしれません。
(参考:霧島の花ごよみ・霧島の花 南日本新聞社)
ミヤマキリシマの名言で、『逆境は人も育てるが、名花も育てる』 というものがあります。
言葉の通り、ミヤマキリシマは噴火による被害も乗り越え、今年、高千穂河原周辺をピンク色に染めてくれました。特に御鉢の山肌に咲き誇ったものは、今までの歴史の中で、今年が一番素晴らしいのではないかと言われています。
植物は人のように住む場所を変えることはできません。根付いた場所に辛抱強く住み続けるしかないのです。そしてただ一心に綺麗な花を咲かせます。ミヤマキリシマのたくましさを私たちも見習いたいと感じました。
ですが、やはり噴火による影響で枯れてしまっている部分もあり、噴火前と同じ様な姿、完全復活にはまだ至っていません。
これから先もミヤマキリシマはどんなふうに逆境を乗り越えていくのか、どんな成長を見せてくれるのか、その様子を見ていくのも楽しみです。それは、他の植生にも言えます。そんな様子を見られるのも噴火の被害にあった高千穂河原だからこそ! 噴火は恐ろしいものですが、貴重なものを私たちに残してくれました。
来年、再来年と、高千穂河原は今年とはまた違う顔を私たちに見せてくれるでしょう。
(自然公園財団 高千穂河原支部 田村理江)
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