釧路川は北海道の東に位置します。源流部は阿寒国立公園に始まり、下流部は釧路湿原国立公園を流れる自然豊かな川です。源流の屈斜路湖は約4万年前にできたカルデラ(火山活動によってできた凹み)です。徐々に水がたまって今の姿になりました。緩やかな山並みを背景に望む湖の周囲は約54km。森に囲まれ、静かにたたずみます。
その屈斜路湖を起点として始まる釧路川は、川を下るカヌーの視点から見ると、森の中を流れる源流部、酪農地帯の標茶地域、釧路湿原の中を下る下流部に分かれます。源流部は流れが速く、カーブもきつく倒木などが川底にあり、川幅も狭く原始そのままの味わいを見せてくれます。続く中流の標茶地域では、牛とのゆったりとした時間を楽しむことができます。そして緩やかに大きく湿原を蛇行する下流部の釧路湿原へと、それぞれに東北海道らしい風景が広がります。最後に川は太平洋へ注ぎ、緩やかな流れの154kmの水の旅は、源流部から河口まで、途中でダムに遮られることもなく終わります。
7月の東北海道は平均気温が約18℃、最高気温が25℃を上回る日はほとんどなく一年で一番過ごしやすい季節を迎えます。動物の子育て、緑の成長期と躍動感あふれる時でもあり、川下りに最高のシーズンです。
釧路川の源流部である屈斜路湖から船を出し、水の感触を楽しみながら釧路川の入り口に進みます。すると湖の静水から、スーと水が動き出す感覚に変わるところがあります。ここからが釧路川の始まりです。カヌーは水と対話する乗り物なので、川の流れを見ながらパドルで船の方向を決めて進みます。流れが速いため、あまり油断すると川にせり出した木の枝や倒木などが目の前に迫ってくるのでリラックスのしすぎは禁物です。カーブもきつく左右に大きく曲がり方向感覚がなくなりそうですが、それだけ景色も変化していきます。
カヌーの目線は水面と一体感がでる高さなので、普段は気付かなかった風景が展開していきます。見上げると川岸は木々に囲まれ、川を下っているのに森林浴でもしているような感覚。水の中を覗くと、産卵期を迎えたエゾウグイがお腹を赤くして群れをなして泳いでいる姿を見ることができます。川底は堆積している石・砂の色により様々な色彩の表情を見せてくれます。気温が上がってくるとエゾハルゼミの大合唱が鳴り響き、時には水の音さえもかき消してしまいます。「キキキキー・キキキキー」と騒がしく鳴くのはヤマセミです。どこかに巣でもあるのでしょうか?あまり驚かしてはいけないのでそっと進んでいきます。
自然に耳を傾けるとさまざまな発見があります。釧路川源流部は生命観あふれる感動が味わえる場所なのです。
釧路川源流の原始的な風景は、ただ成り行きで現在の姿になったのでしょうか?阿寒国立公園の公園計画図をみると、この釧路川源流部は第2種特別地域(注)に指定されています。つまり、法令で開発や利用を制限し、自然を守っていることになります。確かに国立公園外に出ると、川は蛇行しているものの、周辺環境が変わり人との生活の接点が近くなります。釧路川の源流部、1934年に阿寒国立公園が指定された当時から、水を中心に、周辺の森・動植物とつながり、そして大切に守られているのです。
釧路川略図
((財)自然公園財団 川湯支部 藤江 晋)
(注)国立・国定公園では、自然景観を保護するため、公園内をゾーンに区分し、開発や利用を規制しています。陸域では、規制が厳しい順に、以下5つのゾーンが設けられています。
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