知床は北半球で流氷が分布する最も南の地域です。
1月の中旬になると知床の海は流氷で覆いつくされます。それまで青かった海は真っ白な大雪原に変身し、はるか地(水)平線は地球が丸いことを私達に教えてくれます。
所々にできる氷の隙間(ポリーニア)にはシノリガモなどの水鳥や、魚をねらうオジロワシ、オオワシが集まります。時には丸い頭のアザラシが水面から顔を出すこともあります。そして流氷の下には、北国の海とは思えないほど色鮮やかな世界が広がり、スキューバダイビングにとりつかれる若者も少なくありません。
知床国立公園の入り口にあたるウトロ周辺では、どこでも流氷を身近に見ることが出来ますが、特にプユニ岬付近【1】とフレペの滝(別名「乙女の涙」)【2】からの眺めは圧巻です。
ほとんどの流氷のふるさとは、オホーツク海の北西海岸のようです。特に、サハリン北方のシャンタル諸島付近の海域は、アムール川から流れでる大量の淡水が、浅いオホーツク海の上層に低塩分層を作るため、そこに吹きおろされる、シベリア大陸からの強烈な寒風をうけて凍りやすく、次々と海氷【3】が生まれては風や海流によって、オホーツク海のほぼ全域に広がって行くといわれております。
最近の研究によると、知床にくる流氷は、サハリン中部の東海岸にある、テルペニア湾付近で生まれたものが多いこともわかってきましたが、いずれにしても、北国から訪れる冬将軍の使者であることには間違いありません。
流氷は漁を困難にするため、かつて漁民から生活の糧を奪う厄介者と見られてきました。しかし、流氷と一緒に運ばれてくるアイス・アルジー(植物プランクトン)は知床の海の豊かさを保つために欠かせない存在であることが今ではわかっています。
春、3月の雪解けの頃になると、流氷も北へ帰る日が近づきます。陽光を受けて水温が上がるとアイス・アルジーは氷の下で大繁殖し、それを食べるオキアミ(動物プランクトン)が大量発生します。オキアミはスケソウダラなどの魚類ばかりでなく、ハシボソミズナギドリやミンククジラの餌となり、さらにスケソウダラはトドやオジロワシ・オオワシの餌となります。
自然の営みのほか、2月上旬から3月下旬にかけてウトロの氷上を舞台に、かつて知床の夜空を真っ赤に染めたオーロラ【4】を再現するイベントが開催され、流氷原を舞台に異国情緒に満ちた世界が繰り広げられます。
流氷は旅の終着駅知床で、多様な生き物と人々の暮らしを豊かにする重要な役割を果たしているのです。
((財)自然公園財団 知床支部所長 金盛典夫)
「旅の終着駅知床」という台詞が旅情をかきたてますね。オーロラもすごい!
寒いところは苦手なのですが、行ってみたくなりました。
(2010.02.26)
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.