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「国立公園Walker」バックナンバー

0102010.02.23UP知床の流氷

白に染まる海

 知床は北半球で流氷が分布する最も南の地域です。
 1月の中旬になると知床の海は流氷で覆いつくされます。それまで青かった海は真っ白な大雪原に変身し、はるか地(水)平線は地球が丸いことを私達に教えてくれます。
 所々にできる氷の隙間(ポリーニア)にはシノリガモなどの水鳥や、魚をねらうオジロワシ、オオワシが集まります。時には丸い頭のアザラシが水面から顔を出すこともあります。そして流氷の下には、北国の海とは思えないほど色鮮やかな世界が広がり、スキューバダイビングにとりつかれる若者も少なくありません。
 知床国立公園の入り口にあたるウトロ周辺では、どこでも流氷を身近に見ることが出来ますが、特にプユニ岬付近【1】フレペの滝(別名「乙女の涙」)【2】からの眺めは圧巻です。

漂う流氷の上で羽を休めるオオワシ
漂う流氷の上で羽を休めるオオワシ

流氷の隙間からぽっかりと丸い頭を出すゴマフアザラシ
流氷の隙間からぽっかりと丸い頭を出すゴマフアザラシ

流氷の下は幻想の世界のよう
流氷の下は幻想の世界のよう

プユニ岬から見た流氷原。
プユニ岬から見た流氷原。沖合いに目を転じると地球が丸いことを実感できます

流氷のふるさと

 ほとんどの流氷のふるさとは、オホーツク海の北西海岸のようです。特に、サハリン北方のシャンタル諸島付近の海域は、アムール川から流れでる大量の淡水が、浅いオホーツク海の上層に低塩分層を作るため、そこに吹きおろされる、シベリア大陸からの強烈な寒風をうけて凍りやすく、次々と海氷【3】が生まれては風や海流によって、オホーツク海のほぼ全域に広がって行くといわれております。
 最近の研究によると、知床にくる流氷は、サハリン中部の東海岸にある、テルペニア湾付近で生まれたものが多いこともわかってきましたが、いずれにしても、北国から訪れる冬将軍の使者であることには間違いありません。

流氷の恵み

 流氷は漁を困難にするため、かつて漁民から生活の糧を奪う厄介者と見られてきました。しかし、流氷と一緒に運ばれてくるアイス・アルジー(植物プランクトン)は知床の海の豊かさを保つために欠かせない存在であることが今ではわかっています。
 春、3月の雪解けの頃になると、流氷も北へ帰る日が近づきます。陽光を受けて水温が上がるとアイス・アルジーは氷の下で大繁殖し、それを食べるオキアミ(動物プランクトン)が大量発生します。オキアミはスケソウダラなどの魚類ばかりでなく、ハシボソミズナギドリやミンククジラの餌となり、さらにスケソウダラはトドやオジロワシ・オオワシの餌となります。
 自然の営みのほか、2月上旬から3月下旬にかけてウトロの氷上を舞台に、かつて知床の夜空を真っ赤に染めたオーロラ【4】を再現するイベントが開催され、流氷原を舞台に異国情緒に満ちた世界が繰り広げられます。
 流氷は旅の終着駅知床で、多様な生き物と人々の暮らしを豊かにする重要な役割を果たしているのです。

港の中の流氷
港の中の流氷。出来たばかりのころは互いにぶつかりあってハスの葉の形をしています。もちろん漁船はすべて陸上に引き上げられています。

氷上で繰り広げられる観光イベント「オーロラファンタジー」
氷上で繰り広げられる観光イベント「オーロラファンタジー」。毎年2月上旬から3月下旬まで。

周辺地図
周辺地図(クリックするとPDFファイルが開きます)


((財)自然公園財団 知床支部所長 金盛典夫)

用語解説

【1】プユニ岬付近
国道沿いから最も手軽に流氷の世界を堪能できます。
【2】フレペの滝(別名「乙女の涙」)
知床自然センターからフレペの滝まで往復90分。天候や注意事項があるので自然センターには必ず立ち寄って説明を受けてください。ここでスノーシューを借りることが出来ます(有料)。
【3】海氷
海水が凍って、海上で浮遊している氷
【4】知床のオーロラ
昭和33年(1958年)、知床の夜空に本物のオーロラが現れたことがあります。このオーロラを再現しようと、斜里町ウトロ温泉流氷自然公園で「オーロラファンタジー」というイベントを行っています。

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このレポートへの感想

「旅の終着駅知床」という台詞が旅情をかきたてますね。オーロラもすごい!
寒いところは苦手なのですが、行ってみたくなりました。
(2010.02.26)

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