吾妻小富士がシンボルになっている磐梯朝日国立公園(福島県側)の吾妻山・浄土平は、今なお噴気を上げる一切経山(いっさいきょうざん)を間近に望み、荒涼とした火山風景が見所のひとつとなっています。
山麓の福島市街から車で1時間ほどの浄土平は標高1580mに位置し、登山の起点として、また観光道路、磐梯吾妻スカイラインの休憩地点として、4月?11月半ばのシーズン中30万人以上の来訪者があり、観光地の賑わいをみせます。ビジターセンターやレストハウス、天文台などがある駐車場から登山道を10分ほど登ると気軽に火口に立てる吾妻小富士をはじめ、ぜひ一度は訪れてほしいエリアですが、ここでは栂平(つがだいら)をご紹介しましょう。
浄土平から南の桶沼(おけぬま)、土湯峠(つちゆとうげ)方向に約1km進むと、キャンプ場利用者のための兎平(うさぎだいら)駐車場があります。ここが栂平への入口です。鬱蒼としたオオシラビソ林へ一歩足を踏み入れるだけで賑わいと火山荒原の風景が一変し、野鳥の声と針葉樹の芳香に包まれる森林浴体験ができます。6月から7月にかけて、和名が印象的なゴゼンタチバナ、鶴が羽を広げたような葉の形をしているマイヅルソウなど様々な高山植物がいっせいに開花します。その大部分が白い花を咲かせる種であることが興味深い点です。
足元から視線の高さ、頭上にいたるまで瑞々しい緑と白い花の群落を観賞しながら森の中の登山道をゆるやかに上り、背後に浄土平や吾妻小富士が見えてきたら、ほどなく栂平に到達します。兎平駐車場から片道20分ほどです。
東吾妻山の東側の裾野に位置する栂平は、木道が整備された湿原と、ベンチと散策路がある園地に分かれます。澄んだ水をたたえる湿原の中の小さな池にはサンショウウオの卵なども見つかります。リスに出会うこともあり、規模は大きくありませんが野生動物の楽園でもあります。クマとの遭遇には十分注意しましょう。
栂平で特筆すべきは7月初旬、湿原を埋め尽くして開花するコバイケイソウの大群落です。円錐状の大型の花をたくさん咲かせるため、一度いっせいに開花すると、その後数年間は花が少ない休養期間となりますが、湿原一面が白色に染まる光景は忘れられない印象を残すに違いありません。
浄土平周辺の残雪が消え、新緑の森歩きが楽しめるのは5月下旬以降になります。栂平は浄土平の間近にありながら訪れる人も少なく、ゆったりと静かな散策をするには最適な場所です。
それぞれの花の開花状況には変動がありますので、満開のコバイケイソウが見たい!など、お目当ての植物に出会うためには、事前に浄土平ビジターセンターで確認してから訪問するとよいでしょう。
栂平周辺地図
((財)自然公園財団本部 西村真一)
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