22,000ヘクタールにも及ぶ広大な阿蘇の草原は、長い間、人の手によって維持されてきました。四季折々の自然の変化とともに、地域の人々により採草・放牧・野焼きなど草原を利用・維持管理の営みが続けられることにより、阿蘇ならではの草原の風景が作り出されます。
3月の野焼きで真っ黒になった山肌は、春から夏は緑のじゅうたんのような草原に、そして秋から冬にかけてラクダ色に変化していきます。その間、春先のキスミレやハルリンドウに始まり、可憐な草花が次々に開花して草原を彩ります。
一方、野焼き後の原野に草が芽立ち、青々としてくる5月には牛馬の放牧が始まります。秋は、草原を利用する農家の人々にとって大変忙しい季節です。冬場に備えての刈り干し切りや来春の野焼きのための防火帯づくり(輪地切り)など、寒い冬を乗り越え春を迎えるための準備に追われます。
秋、ススキの穂が風にそよぐ頃になると、草原のあちこちで採草作業(刈り干し切り)が行われます。刈り取った野草は冬の間、畜舎で牛馬を飼うための飼料や敷き料、野草堆肥づくりなどに使われます。採草作業は、かつては大ガマで、その後は刈り払い機の使用が中心でしたが、今は大型機械による採草がほとんどです。また、機械化に伴い草の保存方法も草小積みからロールベイルやコンパクトベイル(以下、「ロールやコンパクト」とする)【*】へと変化してきました。
秋の草原では、ロールべーラーなど大型機械による採草作業や、草の束を積んだトラックが行き来する様子をよく見かけます。機械で刈った草は数日乾燥してからロールやコンパクトにまとめて車で持ち帰ります。
この時期、米塚周辺の採草地では、刈った草の畝模様や点々と転がるロールやコンパクト、草を刈った場所と谷など草が残る場所がつくる模様など、一面パッチワークのように美しい草原模様が浮かび上がります。
草小積みは、刈り取って束ねた干し草を小高く積み上げたもので、野草を冬場の牛馬のエサなどに利用するための保存方法のひとつです。かつては、秋になると農家総出で草原に出かけ余すことなく草を刈り草小積みが作られていました。秋から冬の草原に草小積みのある風景は阿蘇の風物詩として親しまれてきましたが、大型機械による採草が中心になり、草小積みを作る農家は姿を消しつつあります。
そのような中、野草利用とともに育まれてきた草原文化、先人の技を引き継いでいこうと、今秋、村山牧野組合(高森町)では、草小積み景観を復活させる活動を行っています。10月中旬に阿蘇地区パークボランティアの会の協力を得ながら作った草小積みは、南阿蘇ビジターセンターや国道265号沿いなどに設置され、訪れる人々の目を楽しませています。
防火帯づくり(輪地切り)は、来春の野焼きを安全に行うための大事な作業です。森林境など延焼防止の必要がある箇所の草を帯状に刈り取り、さらにそこを焼くこと(輪地焼き)により安全な防火帯が出来上がります。阿蘇地域内の輪地切りの総延長は500km以上と言われ、急斜面で刈り払い機を使う作業は危険を伴う重労働です。地元の人々の高齢化などにより、現在は支援ボランティアの人々も協力して行われています。
阿蘇谷や南?谷から外輪山や中央火口丘周辺の草原を見渡せば、森林境などに防火帯のラインが確認できます。草原に描かれた幾何学的なラインは春を待つ草原を象徴するもの。雪が降れば防火帯に積もる雪の線がくっきりと見え、野焼き後は黒い大地と茶色く残る防火帯のコントラストが印象的です。
(一般財団法人 自然公園財団阿蘇支部 所長 村上 渡)
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