北東北・秋田と岩手の県境にある八幡平の観光シーズンは山岳道路・アスピーテライン【1】が開通している4月下旬?11月上旬です。アスピーテラインが冬期通行止めになると、観光客の往来が徐々に減り、八幡平秋田県側の国立公園利用拠点・八幡平ビジターセンターも冬期閉館し、スタッフは山を下ります。ビジターセンターに隣接し、シーズン中多くの観光客を迎え入れた大沼自然研究路は根雪となり、一息ついたかのように静寂に包まれます。雪面にのびる湿原植物の枯草の影、結氷した沼に景色が映り込む様子など、深い雪に覆われる前にしか見ることのできない魅力的な情景をいろいろ探すことができる時期です。
11月下旬、ビジターセンターと入れ替わるように秋田八幡平スキー場がオープンし、ウィンターシーズンを待ちかねたスキーヤー、スノーボーダーでゲレンデ周辺がにぎわいを取り戻していきます。標高1000?1200mにあるこのスキー場は、ブナ森(標高1206m)という山の西斜面にあり、リフトは1本、ゲレンデも2コースと小規模ですが、良質のパウダースノーが降ることから根強いファンがいる魅力的なスキー場です。1月中旬?3月中旬までは土日祝日のみの営業となりますが、樹氷探勝やスノーシュー散策を楽しみたい登山者にとっても心強い冬期の自然探勝基地です。
冬の八幡平で有名なのは、なんといっても「樹氷」(アイスモンスター)【2】です。蔵王、八甲田とならぶ「日本三大樹氷」と言われていますが、八幡平には山頂付近にアクセスするゴンドラ等はなく、苦労して雪の中を歩いた登山者しかその神秘的な姿を見ることができません。
八幡平の樹氷を見に行くルートはいくつかありますが、現在は秋田県側から秋田八幡平スキー場のリフトを経由していく方法が、もっとも容易で、利用者も比較的多いのでおすすめです。登山の方法は、スキーもしくはスノーシュー。スキー場リフト終点から、アスピーテラインに向けていったん下り、そのあと登山道に沿うようなルートで山頂目指して登ります。所要時間はコンディションにもよりますが、3時間前後。標高差500m程度の行程です。2月中旬以降は、地元山岳会によって道標(竹竿にピンクテープをまいたもの)が数十m間隔でつけられています。
樹氷の見頃は2月上旬?3月上旬。高気圧に覆われたおだやかな日に当たれば、最高の樹氷探勝を楽しむことができます。時間に余裕があれば、山頂部にある避難小屋陵雲荘を起点に、樹氷の間を縫い、その造形を堪能しながら、雪原となった八幡沼やガマ沼、湿原の上をゆっくり歩いてみてください。写真や映像を見ただけはわからない感動を味わえます。一方天気が悪い日は、数m先が見えないホワイトアウトと共に、冬の季節風が激しく頬に打ちつけてきます。このような厳しい自然があればこそ美しい樹氷が成長するわけですが、この様な日の散策は困難を極め、遭難の危険もあるので、樹氷探勝は断念するのが賢明です。
※地元の鹿角市山岳会による「八幡平樹氷ツアー」が毎年開催されていて、今冬も3月2日に予定されています。また、八幡平の樹氷については国立公園Walker035「歩いて楽しむ雪の八幡平」でも紹介していますのでご覧ください。
山頂部にくらべ気象条件が比較的ゆるやかな秋田八幡平スキー場周辺でのスノーシュー散策も冬期おすすめの自然体験です。スキー場があるブナ森も散策スポットの1つ。ゲレンデから一歩森の中に入ると美しいブナ林が広がっています。
ブナ森でおすすめの散策方法は、リフト【3】に乗り、スキー場上部から森の中をスノシューで下ってくるという方法です。所々急なところもありますが、雪がクッションになってくれます。ふかふかの深雪を楽しみながら、冬の森の景色や野生動物の痕跡、積雪期しか見ることのできない秘密の沼を見ることができるのが魅力です。
寒さ厳しい冬の八幡平ですが、防寒対策さえしっかりすれば、森の中は不思議と暖かく感じられます。自然公園財団八幡平支部では、「後生掛スノーシューハイキング」「大谷地・菰ノ森スノーシューハイキング」、半日行事の「冬のスペシャルガイドウォーク」、夜のプログラム「モモンガに会いに行こう」、「巨木に登ろう?ツリークライミング体験?」などさまざまなガイドツアーを企画しています。冬の森は道標などがないので、始めて冬の八幡平に訪れる方はこれらのツアーも活用していただければ安心かつ楽しく散策できると思います。ご参加いただければ幸いです。
(一財)自然公園財団八幡平支部 馬越尚夫
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