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「国立公園Walker」バックナンバー

0562014.01.07UP八幡平 雪の世界

静けさただよう初冬

根雪になった大沼。ヨシの枯草が雪原に映える。
根雪になった大沼。ヨシの枯草が雪原に映える。

 北東北・秋田と岩手の県境にある八幡平の観光シーズンは山岳道路・アスピーテライン【1】が開通している4月下旬?11月上旬です。アスピーテラインが冬期通行止めになると、観光客の往来が徐々に減り、八幡平秋田県側の国立公園利用拠点・八幡平ビジターセンターも冬期閉館し、スタッフは山を下ります。ビジターセンターに隣接し、シーズン中多くの観光客を迎え入れた大沼自然研究路は根雪となり、一息ついたかのように静寂に包まれます。雪面にのびる湿原植物の枯草の影、結氷した沼に景色が映り込む様子など、深い雪に覆われる前にしか見ることのできない魅力的な情景をいろいろ探すことができる時期です。

冬期の自然探勝基地「秋田八幡平スキー場」

 11月下旬、ビジターセンターと入れ替わるように秋田八幡平スキー場がオープンし、ウィンターシーズンを待ちかねたスキーヤー、スノーボーダーでゲレンデ周辺がにぎわいを取り戻していきます。標高1000?1200mにあるこのスキー場は、ブナ森(標高1206m)という山の西斜面にあり、リフトは1本、ゲレンデも2コースと小規模ですが、良質のパウダースノーが降ることから根強いファンがいる魅力的なスキー場です。1月中旬?3月中旬までは土日祝日のみの営業となりますが、樹氷探勝やスノーシュー散策を楽しみたい登山者にとっても心強い冬期の自然探勝基地です。

秋田八幡平スキー場レストハウス
秋田八幡平スキー場レストハウス

周囲にブナ林が広がる美しいゲレンデ。
周囲にブナ林が広がる美しいゲレンデ。

厳冬期のハイライト ?心ひかれる神秘の樹氷?

 冬の八幡平で有名なのは、なんといっても「樹氷」(アイスモンスター)【2】です。蔵王、八甲田とならぶ「日本三大樹氷」と言われていますが、八幡平には山頂付近にアクセスするゴンドラ等はなく、苦労して雪の中を歩いた登山者しかその神秘的な姿を見ることができません。
 八幡平の樹氷を見に行くルートはいくつかありますが、現在は秋田県側から秋田八幡平スキー場のリフトを経由していく方法が、もっとも容易で、利用者も比較的多いのでおすすめです。登山の方法は、スキーもしくはスノーシュー。スキー場リフト終点から、アスピーテラインに向けていったん下り、そのあと登山道に沿うようなルートで山頂目指して登ります。所要時間はコンディションにもよりますが、3時間前後。標高差500m程度の行程です。2月中旬以降は、地元山岳会によって道標(竹竿にピンクテープをまいたもの)が数十m間隔でつけられています。
 樹氷の見頃は2月上旬?3月上旬。高気圧に覆われたおだやかな日に当たれば、最高の樹氷探勝を楽しむことができます。時間に余裕があれば、山頂部にある避難小屋陵雲荘を起点に、樹氷の間を縫い、その造形を堪能しながら、雪原となった八幡沼やガマ沼、湿原の上をゆっくり歩いてみてください。写真や映像を見ただけはわからない感動を味わえます。一方天気が悪い日は、数m先が見えないホワイトアウトと共に、冬の季節風が激しく頬に打ちつけてきます。このような厳しい自然があればこそ美しい樹氷が成長するわけですが、この様な日の散策は困難を極め、遭難の危険もあるので、樹氷探勝は断念するのが賢明です。

※地元の鹿角市山岳会による「八幡平樹氷ツアー」が毎年開催されていて、今冬も3月2日に予定されています。また、八幡平の樹氷については国立公園Walker035「歩いて楽しむ雪の八幡平」でも紹介していますのでご覧ください。

八幡平の広大な樹氷原へ
八幡平の広大な樹氷原へ

毎年行われている道標設置の作業
毎年行われている道標設置の作業

ブナ森でスノーシュー散歩

 山頂部にくらべ気象条件が比較的ゆるやかな秋田八幡平スキー場周辺でのスノーシュー散策も冬期おすすめの自然体験です。スキー場があるブナ森も散策スポットの1つ。ゲレンデから一歩森の中に入ると美しいブナ林が広がっています。
 ブナ森でおすすめの散策方法は、リフト【3】に乗り、スキー場上部から森の中をスノシューで下ってくるという方法です。所々急なところもありますが、雪がクッションになってくれます。ふかふかの深雪を楽しみながら、冬の森の景色や野生動物の痕跡、積雪期しか見ることのできない秘密の沼を見ることができるのが魅力です。
 寒さ厳しい冬の八幡平ですが、防寒対策さえしっかりすれば、森の中は不思議と暖かく感じられます。自然公園財団八幡平支部では、「後生掛スノーシューハイキング」「大谷地・菰ノ森スノーシューハイキング」、半日行事の「冬のスペシャルガイドウォーク」、夜のプログラム「モモンガに会いに行こう」、「巨木に登ろう?ツリークライミング体験?」などさまざまなガイドツアーを企画しています。冬の森は道標などがないので、始めて冬の八幡平に訪れる方はこれらのツアーも活用していただければ安心かつ楽しく散策できると思います。ご参加いただければ幸いです。

ふかふかの深雪の中をスノーシューで散策
ふかふかの深雪の中をスノーシューで散策

八幡平 冬の雪上散策エリアMAP
八幡平 冬の雪上散策エリアMAP


(一財)自然公園財団八幡平支部 馬越尚夫

注釈

【1】アスピーテライン
 岩手県と秋田県の両県を繋ぐ山岳道路。正式名称は県道23号線大更八幡平線。昭和45年有料道路として開通したが、平成4年に通行料の徴収が廃止されている。愛称の「アスピーテ」は昔の火山用語で楯状火山の意。アスピーテ型火山は粘性が低い玄武岩質の溶岩によってできており、楯を伏せておいたようになだらかなにすそ野を広げた形状が特徴。ハワイのキラウエア火山などがそれにあたる。山頂部の地形が平坦な八幡平はアスピーテ型の火山とされていたが、近年の研究では、内部の構造は、溶岩の粘性が高く、アスピーテ型火山には当てはまらないことがわっている。
【2】樹氷(アイスモンスター)
 日本の日本海側の高地でしか見られない現象で世界的にも珍しい。樹氷(アイスモンスター)を形成するのは、八幡平山頂部の代表的な樹木オオシラビソ(アオモリトドマツ)。八幡平はこのオオシラビソの群生密度が日本一といわれているが、平坦地形を特徴とする八幡平山頂部の広大な雪原に樹氷がどこまでも続く景色は、ここでしか見ることができない独特の樹氷景観。八幡平の樹氷に魅せられる人は多く、古くは昭和26年高松宮殿下が冬の八幡平をスキー縦走で岩手県側から秋田県側に歩いたという歴史もある。
【3】リフト
 秋田八幡平スキー場ではスノーシューの利用者でもリフトに乗ることが可能。乗車の際はスノーシューは装着せず、ザックにくくり付けるか、手に持つようにする。

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  1. 001「新緑の上高地」 -花々との競演-
  2. 002「白色に染まる栂平(つがだいら)」
  3. 003「釧路川をカヌーで下る」
  4. 004「美笛の滝を訪ねる」
  5. 005「小田代原の草紅葉」
  6. 006「草津白根の秋」
  7. 007「みちのくのリゾートで湯治」
  8. 008「高千穂峰のご来光」
  9. 009「冬の瞰湖台(かんこだい)を歩く」
  10. 010「知床の流氷」
  11. 011「箱根仙石原 ススキ草原を守る野焼き」
  12. 012「迫力満点の鳴門の渦潮を見る」
  13. 013「宮崎・えびの高原のミヤマキリシマ」
  14. 014「新緑の中で足湯」
  15. 015「大山の高山植物群落を訪ねる」
  16. 016「洞爺湖有珠山ジオパークの魅力」
  17. 017「秋の砂丘をゆく」
  18. 018「秋の雲仙」
  19. 019「川湯のハイマツ」
  20. 020「冬の大沼国定公園」
  21. 021「阿寒湖氷上のスノーシュー散策」
  22. 022「阿蘇の野焼き」
  23. 023「吾妻の春を告げる雪うさぎ」
  24. 024「青い水がめ・支笏湖(しこつこ)」
  25. 025「奥日光ののんびりスポット」
  26. 026「仙石原湿原の初夏」
  27. 027「雲海と夕景と朝日・夏の十和田湖」
  28. 028「知床五湖・転換期のメッセージ」
  29. 029「秋の鳴門」
  30. 030「高千穂河原周辺情報」
  31. 031「上高地の野鳥」
  32. 032「草津の森をスノーシューで歩く」
  33. 033「新燃岳噴火を乗り越えて…冬のえびの高原」
  34. 034「冬の登別観光」
  35. 035「歩いて楽しむ雪の八幡平」
  36. 036「春遠し 摩周湖」
  37. 037「鳥取砂丘の地形・地質を楽しもう!」
  38. 038「カルデラ地形を望む 阿寒岳の登山!」
  39. 039「大沼国定公園のもう一つの魅力」
  40. 040「浄土平でスターウォッチング」
  41. 041「ジオパークを目指す箱根」
  42. 042「大山(だいせん)のお楽しみ」
  43. 043「秋の阿蘇草原」
  44. 044「支笏湖が創る芸術作品「しぶき氷」」
  45. 045「奥日光で「雪」を楽しむ!」
  46. 046「冬のTOYA(洞爺)」
  47. 047「雲仙の春」
  48. 048「春の大沼国定公園の楽しみ方」
  49. 049「阿蘇の草原とあか牛」
  50. 050「火山×ミヤマキリシマ in 高千穂河原」
  51. 051「阿寒カルデラで楽しいのって、いつなの?  今でし…!? いいえ通年です」
  52. 052「白根山でリンドウを楽しもう。」
  53. 053「上高地、色彩の秋から初冬へ」
  54. 054「見どころ溢れる秋の十和田湖」
  55. 055「知床五湖の原生林と開拓の歴史?自然保護の歩み」
  56. 056「八幡平 雪の世界」
  57. 057「冬こそ!砂丘へ行こう!」
  58. 058「雄大な鳴門海峡の自然現象」
  59. 059「大山の森を巡って」
  60. 060「「南北海道国立・国定公園巡りスタンプラリー」にご参加を。」
  61. 061「箱根は隠れた鳥の楽園!?」
  62. 062「『今だけ』がいっぱい!戦場ヶ原ハイキングのススメ」
  63. 063「霧降高原は今…」
  64. 064「晩夏の普賢岳新登山道を歩く」
  65. 065「洞爺湖有珠山ジオパークのサイト維持活動」 -旧とうやこ幼稚園の価値を、自分たちで守ろう!-
  66. 066「秋の浄土平」
  67. 067「阿寒国立公園指定80周年」
  68. 068「高千穂河原からの便り」
  69. 069「上高地の開山準備」

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