福島県の山岳観光道路、磐梯吾妻スカイラインの中間点にある浄土平(じょうどだいら)は、福島市街地から車で1時間程度で到達できる磐梯朝日国立公園・吾妻山(あづまやま)の利用拠点です。
広い駐車場が整備され、吾妻小富士(あづまこふじ)登山、湿原散策など多くの観光客、登山客でにぎわう昼間の表情も浄土平の一面ですが、今回は知る人ぞ知る、夜の浄土平の魅力をご紹介します。
蓬莱山(ほうらいさん)の陰に日が沈むと、一切経山(いっさいきょうざん)の中腹から立ち昇る噴気が逆光に照らされて輝きます。日没後の広々とした空や雲の色、光の変化は都会では味わうことのできない、空気の清浄な山岳地ならではのものです。昼間はあれほど賑わっていた駐車場の車も徐々に減って、山に本来の静けさが訪れます。
日が翳ると急に気温が下がったように感じられ、浄土平の夜は真夏でも肌寒くなります(平地より約10℃気温が低いため服装に気をつけてください)。午後7時を過ぎて周囲が暗くなってくると、やがて見上げる夜空に怖いくらい星が見え始めます。肉眼で見える6等星以上の星の数は約6,000個ですが、浄土平では条件の良い夜はひょっとするとそれ以上見えるかもしれません。
天頂から南側には、天の川が桶沼に注ぎ込むように、いて座?さそり座方面に流れ落ちています。流星群の活動が活発な夏には流れ星にも必ず会える場所です。下界が曇りや雨でも、浄土平付近だけは雲の上になって晴れていることもあります。あきらめないでください。
標高約1,580mの浄土平は四方を山に囲まれ、市街地の明かりが遮られることから星空観察の好適地です。美しい星空を見るには都市“光害”の影響が少なく、大気中に塵や埃、水蒸気などが少ない場所が適していると言われますが、浄土平はそれらの条件が整っています。夜間もマイカーで出入りできますし、一般公開されている福島市浄土平天文台もあって、星空を楽しむには理想的な環境にあります。
また、天文ファンにとって浄土平は特別な意味をもっています。1976年から1984年【1】までこの場所で星仲間が集う星まつり「星空への招待」が毎年夏に行なわれていました。インターネットもメールも普及していなかった時代に、多いときには全国から2千?3千人もの天文ファンが集まり、満天の星空を夜通し満喫しました。10年間続いた、この「星空への招待」は、『星になったチロ』で有名な北海道犬のチロ(白河天体観測所の天文台長)が呼びかけるものでした。開催当時に学生だった参加者が父親、母親となって家族連れでふたたび浄土平を訪問されることもあります。
時代とともに浄土平にも“光害”の影響は押し寄せつつありますが、全国の天文ファンからも愛される星空の美しさは世代を超えて引き継いでいかなければならない大切な自然景観のひとつです。
福島県内の観光有料道路3路線(磐梯吾妻スカイライン、磐梯山ゴールドライン、磐梯吾妻レークライン)は東日本大震災からの復興を図るため今シーズンは無料開放されています(平成24年11月15日の冬期通行止まで)。
吾妻山・浄土平周辺の自然は震災前と変わらず私たちを迎えてくれますが、原発事故による風評被害を払拭するにはどれだけ時間がかかるのでしょうか。南東北に位置する福島は、新幹線や高速道路を利用すれば首都圏から意外に近く、ともすれば通過点になりがちですが、ぜひゆっくり滞在して浄土平周辺の自然や星空を体験していただきたいのです。
吾妻山周辺には温泉が豊富で、計画を立て始めると、どこに泊まろうかと迷ってしまうほど各地域、宿泊施設には恵まれています。浄土平には入浴施設はありませんが、原生林に囲まれた清閑なキャンプ場と山小屋があります。
放射線量を心配される方もいらっしゃいますが、各所できめ細かく測定されており、浄土平でも0.1マイクロシーベルト/h程度でまったく心配ない数値です。一方、火山性ガスが風向きによっては浄土平付近に滞留する場合があります。通常は問題ないレベルですが、念のため火山性ガスに対する注意を忘れないでください。
一般財団法人自然公園財団 浄土平支部 西村真一
■参考図書
・『星になったチロ ?犬の天文台長?』藤井 旭著(ポプラ社)
・パークガイド『浄土平・裏磐梯』(自然公園財団)
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.