雲仙は長崎県島原半島の中央にそびえる火山群の総称で、昭和9年3月、日本で最初の国立公園に指定され、今年80周年を迎えました。主峰の普賢岳(1,359m)は、平成2年から約4年半続いた噴火によって広く知られ、その際にできた溶岩ドームは「平成新山」(1,483m)という新しい山として、今では長崎県の最高峰であるとともに、国の天然記念物にも指定されています。
平成新山一帯は崩落の危険があるために立ち入りが厳しく制限されていますが、一昨年の5月、普賢岳の新登山道が開通し、この平成新山を間近に望むことができるようになりました。
普賢岳新登山道の入り口となる鬼人谷口(きじんだにぐち)は、駐車場のある仁田峠から、あざみ谷方面に歩いて45分ほどのところにあり、ここから鳩穴分かれまでは、鬼人谷に沿って比較的緩やかな登りとなります。
鬼人谷はミソサザイやオオルリなどの渓谷を好む野鳥が多く、美しい声が谷全体に響き渡ります。また植物では、8月にはクサアジサイやホツツジ、9月にはオオマルバノテンニンソウ(ツクシミカエリソウ)などの花が登山者の目を楽しませてくれます。特筆すべきは鬼人谷の地名を読み間違えて名付けられたオニビトノガリヤス(ウンゼンノガリヤス)で、種子植物では雲仙唯一の特産種とされ、世界でもこの鬼人谷一帯にしかない貴重な植物です。
暑さの厳しい8?9月、ぜひ足を休めてほしいスポットが「西の風穴」と「北の風穴」です。これらの溶岩洞窟の中は夏でも温度が4℃以下に保たれており、洞口から溢れ出てくる冷気は、登山で火照った体を心地よく冷やしてくれます。真っ白な冷気が一帯に広がる様子を目で見て体感できるのも、気温が高いこの時期ならではです。
北の風穴と、そこからほど近い鳩穴分かれは眺望が素晴らしく、よく晴れた日には島原半島の北東部から諫早湾・有明海を経て、対岸の多良岳や大牟田方面を望むことができます。
普賢岳新登山道唯一の難所(?)である鳩穴分かれからの石段を15分ほど登り、尾根に出ると、間もなく立岩の峰に到着します。眼前には雄大な平成新山がそびえ、所々から立ち上っている水蒸気からは大地の息吹が感じられます。
平成新山の迫力を十分に満喫したら、霧氷沢へと下ります。9月に岩壁一面に咲き誇るダイモンジソウは、5月のヒカゲツツジと並ぶ霧氷沢の名物です。また、ツクシコウモリやフクオウソウなど多くのキク科植物が咲いており、彩りを添えています。
晩夏?初秋の草花を楽しんだら、あとはほぼ平坦な道を10分少々歩くと普賢岳に到着します。山頂にある「普賢岳」と書かれた標柱から平成新山を見ると、その左下には立岩の峰が見え、つい先ほど歩いてきた道程を振り返ることができます。上空を見上げると、やがて南へと渡っていくツバメやアマツバメが飛び回っています。
秋へと移ろう空を感じた後は、森林浴の森100選にも選ばれているあざみ谷へと下ります。ソバナやウンゼンアザミの花が道沿いに点々と咲き、野鳥の水飲み場ではヤマガラやシジュウカラなどの可愛らしい姿が見られるでしょう。ここから緩やかなアップダウンを20分ほど歩くと、スタート地点の仁田峠です。
文・写真:(一財)自然公園財団 雲仙支部 中薗 洋行
登山道のポイント毎に、特色ある動植物の情報が散りばめられていて、とても参考になりました。また登りたくなりました。
(2014.08.15)
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