短い夏が過ぎ、上高地では早くも秋の気配が漂い始めています。
9月も末になると朝の気温は2℃くらいまで下がります。稜線からは初雪の便りが届き始め、紅葉は涸沢や槍沢を通過していよいよ上高地の谷へと下ってきます。ビジターセンター周辺ではオコジョが白い冬毛に変わり、ヒメネズミたちはせわしなく貯食を始めます。
そんな秋の上高地で、冬の眠りにつく前の自然が見せてくれる色彩の輝きをいくつかご紹介します。
秋風の吹く上高地では、シーズン最後の花となるサラシナショウマやノコンギクが遊歩道を飾ります。生命力に満ちてさざめきあう春の花々に対して、これら秋の花は厳しい冬が近づいていることをまるで悟っているかのような静かな佇まいです。この花たちもほどなく結実して小さな種へと変身をとげ、あるものは風にのって飛び、あるものは弾け、またあるものは動物の毛に絡みついて次第に散らばり消えてゆきます。
すっかり日も短くなった秋のたそがれ時、夕焼けに染まる穂高を眺めに、ひとり、ふたりとどこからともなく河童橋へやってくる人影があります。期待していたような色が出ないまま幕が下りてしまう日もあれば、躍動する雲を真っ赤に染める台風の置き土産を、思いがけず目の当たりにすることもあります。
夕暮れの上高地は日中の喧騒が嘘のよう。梓川と静かな時間だけが、ただゆっくりと流れてゆきます。
紅く色づく葉の少ない上高地の秋は、紅葉というよりも“黄葉”と表現されます。そのクライマックスともいうべきカラマツの黄葉は、10月の下旬、河童橋周辺で楽しむことができます。色の出方は年によって少しずつ異なりますが、六百山から昇る朝日に照らされた瞬間の黄金色に輝くカラマツは、思わず息をのむほどの眩さです。
最高の色が見られるのは、わずか1日か2日と言われます。幸運にもたまたまその日の朝に訪れた人だけが目にすることのできる光景です。
氷点下の朝、全てが凍りついた上高地では、氷の花が咲きます。更に?5℃まで下がった無風状態の朝には、枯れたコウシンヤマハッカの根元に不思議な形をした薄氷の羽が付きます。もう見るものは無いと思われがちな季節ですが、白い息を吐きながらゆっくりと歩いてみれば、路傍は夏以上の驚きと感動に満ちています。
黄葉の見頃を迎えた上高地に秋の雨が降る時、3000mの稜線はみぞれや雪になっています。そして迎える快晴の翌朝、新雪を頂いた穂高は青空を背に神さびて、昨日までとは全く別の表情を見せます。夏の間その懐に花を咲かせ登山者を遊ばせていた穂高が、容易には人を寄せ付けない冷たい岩の塊に変貌します。
この穂高を眺めつつ、上高地では閉山に向けての準備が着々と進められます。
11月15日、河童橋で閉山式を終えると、上高地は来春まで、5か月間の長い眠りにつきます。
(自然公園財団上高地支部 元川里美)
今までに3回ほど訪問しました。どの季節もその季節ならではの上高地を味わうことができてすてきです。
インフォメーションセンターやビジターセンターの人が丁寧に教えてくれて、よかったです。ガイドの案内などもあり、楽しめました。
(2013.09.11)
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.