9月。長いようでやっぱりあっという間だった夏休みが終わりを迎え、子どもたちが学校で日焼け自慢をしているころ、家族連れで連日賑わいをみせていた鳥取砂丘は少しだけ静けさを取り戻します。夏のような暑さはまだまだ去ってはくれませんが、真夏には吹くことのなかった涼やかな風が吹き始め、砂丘にも秋の足音がすぐ近くまで聞こえてきます。
ちょっぴり涼しくなった砂丘で、初秋の楽しみを探しに出かけてみませんか。
砂丘を訪れる人の多くは、入口階段正面に見える砂の丘、通称「馬の背」(第二砂丘列)の頂上を目指して砂の壁に挑みます。サラサラと細かな砂に体をとられ、息を上げながら最後の急な斜面を登りきった時に浴びる潮風の爽快感はたまりません。ここで一息、と腰を下ろしたいところですが、この時期のお勧めはもう少し西側へ歩いたところにあります。
人の足跡が少ない馬の背の西に向かって歩くと、目の前に一面のさざ波模様が広がります。風速毎秒5?10mの風が描く「風紋」です。風によって細かな砂が飛ばされ、粗い砂がその場に残ることで風紋の凹凸模様がつくられます。風が砂粒のふるい分けをしているのです。
冬に向かって徐々に風が強くなり始める秋は、春と並んで風紋ができやすい季節で、あまり人が訪れることのない馬の背の西側・東側では、しばしば一面の風紋を楽しむことができます。少し足を伸ばして、涼やかな風が私たちの足元に残してくれた、とっておきのプレゼントを探してみましょう。
サハラ砂漠やゴビ砂漠といった乾燥地帯にできる「砂砂漠」とよく混同されますが、鳥取砂丘は河川の働きで海岸部に砂が運ばれ、発達した「海岸砂丘」で、「砂砂漠」とは別物です【1】。年間降水量は約2000mmと多く、様々な砂丘植物を見ることができます。今回はクマツヅラ科の落葉低木「ハマゴウ」を紹介します。
真夏に青紫色の花を咲かせたハマゴウは秋になると実をつけます。この実を見つけたらぜひ香りをかいでみてください。諸説あるハマゴウの名の由来のひとつに「浜香」という説があるほどその香りは強く、またハーブのような良い香りがします。昔は乾燥させた実を消臭剤としてタンスに入れたり、枕の実として利用したりしていたそうです。葉っぱを指先でこするだけでも十分香ります。目だけではなく五感で楽しむことができる、秋にお勧めの植物です。
秋に開花する植物にはハマニガナ、ウンラン、ハマベノギクなどがあります。砂丘という厳しい環境で生きる植物たちにもご注目ください。
さて、足元の砂丘を満喫したら、今度は空を眺めてみませんか? 砂丘の魅力のひとつに「空」があります。見上げれば、いつでもどこでも目にすることができる空ですが、砂丘の上空に広がる空から、いつもとは一味違った色を感じてみてください。
春の青空はやさしく、夏の晴天はまぶしく、冬の雪雲はどっしり重厚。そして、秋の空はより高く、雲が自由でどこか絵になります。秋を代表するうろこ雲は空に描かれたもうひとつの風紋です。なにも考えず、ただそこにある空気にひたるのも、砂丘ならではの過ごし方かもしれません。
((財)自然公園財団 鳥取支部 阿部 千春)
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