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「国立公園Walker」バックナンバー

0222011.03.01UP阿蘇の野焼き

草原を守る人々

 「おーい!向こうから煙があがったぞー!」
 「よーし!こっちもそろそろ火ば入れよーか!」
 「風が出てきたけんが、もっと上からがいいばい!」
 草原を守る人たちの声が山に響き、今年も阿蘇に春を告げる「野焼き」の季節を迎えます。
 朝の集合時には寒さで鼻を赤くして少し緊張した面持ちも、無事に野焼きを終えると、髪はバサバサ、頬は熱で赤く焼け、服はススで黒くなり、やれやれといった満足そうな笑顔に変わります。

野焼き野焼き
野焼き

火消し棒を使って火を叩き消す
火消し棒を使って火を叩き消す

 2月下旬から3月の土日を中心に、阿蘇地域全体で約16,000ヘクタール【1】もの広さの野焼きが行われます。
 野焼きはたくさんの人手が必要で、命がけの大変な作業です。炎は斜面を走り、風を起こして勢いを増すと、予想もつかない方向に数十メートルも火柱をあげることがあります。全体の指揮をとる人は、天候や風向きをみながらの臨機応変な判断が必要とされます。火を引く人【2】には、地形を熟知し風を読んで火を操り、火引き人同士の「あうんの呼吸」ができる信頼関係も必要です。誰かが速すぎても遅すぎても事故になりかねません。また焼き込んではいけない山林沿いなどには、火消し棒係りや20キロもの水ポンプを背負うジェットシューター係りが配置され、燃え広がりを防ぎます。

野焼きボランティアの皆さん
野焼きボランティアの皆さん

 阿蘇の人々は昔から草原を利用し、農畜産を生業としてきました。草が青い季節は牛馬を放牧し、秋になると冬支度の草採りが行われます。冬になると牛馬を里の畜舎に連れて帰り、採った草を敷床や餌として利用します。そして春を迎える前に、枯れた草を焼き払うことで新しい草の芽生えを助け、森林化を抑えています。これが野焼きです。こうして人の手で守り継がれた草原は、農畜産業の場としてはもちろんのこと、生物多様性保全の場として、すばらしい景観として、文化を生み出す場としてなど、たくさんの恵みをもたらしてくれます。阿蘇の人々の営みは、草原とともにあるといえるでしょう。
 しかし近年、農畜産業の衰退や生活様式の変化などにより、草原の利用が減り、野焼きも人手不足に悩まされています。このままだと、草原は次第に藪(森林)に変わっていってしまいます。
 そこで今、阿蘇の草原を応援したい、守りたいという気持ちで、年間約2,000人ものボランティア【3】が熊本県内をはじめ日本全国から集まり、野焼きや防火帯づくり作業に参加し、活躍してくれています。

野焼きシーズンの楽しみ方

野焼き後の草原でみつけたウサギの糞
野焼き後の草原でみつけたウサギの糞

  • 野生動物もそわそわ…
     野焼きの最中にウサギなどの小動物が驚いて、草原から飛び出してくることがあります。また、飛び出してくる小動物を狙って、猛禽類が煙をよけながら低空飛行する姿にも出会うことができます。
     野焼き後の黒い野では、動物の巣穴や糞が簡単に見つかり、野生動物を身近に感じることができます。
  • 洗濯物などにはご注意?
     野焼きが行われる時は、外に布団や洗濯物を干さないのが常識です。
     数センチもある草の原形をとどめた炭のような灰が、風に乗ってフワリと降ってきます。手でつかむと一瞬で粉々に消え、黒い粉が手に残ります。
     カフェの入口に、「本日は野焼きのためテラスはご利用なれません」と書かれていることも。灰は、露天風呂にも降ってきます。
     この季節の阿蘇ならではの体験です。
  • 色の変化を楽しむ
     野焼き前の枯れた草原は淡い茶色。赤い炎と白い煙をあげて野焼きが行われ、真っ黒になります。真っ黒な野は、春の日差しをいっぱいに浴びて、地下と地表で出番を待っていた植物たちが力強く芽吹きだします。日毎に黒い野は淡い緑へと移り変わり、かわいらしいキスミレなどが目を引きます。

いのちあふれる草原の魅力

黒い野に目を引くキスミレ
黒い野に目を引くキスミレ

 阿蘇の景観を代表する美しい草原は、多くの人々の労力をかけて維持されています。そこには農畜産を営む人と牛馬の姿があり、たくさんの動植物の命が育まれ、素晴らしい景観に魅了された人々が毎年数多く訪れています。
 生命力あふれる早春の阿蘇を、ぜひ楽しみにいらしてください。


阿蘇周辺地図
阿蘇周辺地図
(クリックするとPDFファイルが開きます)

((財)自然公園財団 阿蘇支部 村上 渡)

用語説明

【1】野焼き面積
 阿蘇の草原総面積は約22,000ヘクタール
【2】火を引く人
火を引く人
火を引く人
 野焼きを実施する場合、点火して火を誘導する「火引き係」、燃えすぎないように火消し棒で鎮火する「火消し係」、ジェットシューターと呼ばれる大型の消火器を持って延焼を防ぐ「ジェットシューター係」などを配置します。
【3】ボランティア数
 野焼きボランティアと防火帯(輪地)づくりボランティアへの参加延べ人数

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このレポートへの感想

季節を伝える風物詩なのはわかりますが・・・近所では洗濯干しや布団干しをしないのが常識でもちょっと離れれば天気が良い日は布団を干すのが常識です。
もう少し広く告知していただければありがたいと今回感じました。
(2011.03.13)

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