今年の降雨の状況は、一度に降る雨の量が増え、かつ同じ地域へ集中して降る頻度も増しています。東京都や千葉、神奈川などでは排水できる限界を超え、冠水被害は過去に例のないエリアに拡がり、ハザードマップ外でも水害が起きています。
森林の保水力や「田んぼダム」は一定の抑制機能を持ちますが、限界はあります。昔から上流域で暮らす人々は林業や農業、地域内の共同作業などを通じて山や川と共生し、自然と「川の守人」として保全の機能を果たしていました。しかしその担い手たちが減少しており、今ある森林や農地をすべて同じ形で維持することはできなくなっています。
保全が必要なエリアは、人口の減少に比例して減少するわけではなく、むしろ点検頻度は増える一方のため、整備が追い付いていません。
これからは流域全体を俯瞰しつつ、上流域に人と資金を投入するマネジメントが必要です。
埼玉県西部に位置する秩父市は群馬県、長野県、山梨県、東京都と接し、奥秩父や外秩父山地などに囲まれた荒川の源流のまちです。市の面積の87%を森林が占めるなど豊かな自然を持つほか、旧石器からの遺跡をはじめ貴重な歴史と文化資源を有する観光都市でもあり、観光のピーク時期になると三峯神社の駐車場は満車の日が多く、数時間の待ち時間が発生することもあります。
秩父市を中心とする1市4町(小鹿野町・横瀬町・皆野町・長瀞町)の秩父地域は、2015年時点の人口は約10万1千人でしたが、2050年には5万4千人まで減少すると予測されており、実際に2025年現在の人口統計でも約8万9千人と減少傾向にあります。

荒川源流を確認する清野市長
秩父市の清野和彦市長は人口減少や森林の荒廃、野生鳥獣対策などの問題は、一つの自治体では解決できないとして、流域に焦点を当てた「荒川流域圏構想」を打ち出しました。
秩父市を水源とする荒川は、埼玉県の中央部を西から東へ抜け、首都東京に流れ下ります。その流域には77市区町村に約1,000万人が暮らしています。
古くより流域の人々は物流や文化、信仰などで強く結びついていました。荒川の水は江戸の農業や日常生活を支え、木材は筏で江戸へ運ばれて巨大都市のまちづくりに活用されるなど、上流域は、下流域の暮らしに必要な資源や物資の供給地として密接に結びついていたのです。下流域の人々も、札所巡礼などで秩父を訪れた際に苗木を寄付するなど、源流域の森林保全を支え、上下流は相互に支え合う関係にありました。
しかし生活様式が変化した現代では、観光やレジャーで上流域を訪れることはあっても、人々が普段の生活において川のつながりを実感する機会が減少しています。
2026年は秩父市内4つのダムが渇水となりました。荒川の水は流域2,940km2の暮らしや産業を支える大切な財産です。水源保全や流域全体での治水対策、環境への配慮が求められ、源流域の役割は一層重要になってきています。
そこで清野市長は、最上流で災害にも強いと言われる秩父が果たすべき役割は、荒川流域の約1,000万人の共生共栄に貢献することであるとの結論に達したのです。

渇水の危機を乗り越えたダム
秩父市は現在、上下流が互いの立場や課題を共有し支え合うため、森林の適切な管理に努めるとともに、流域自治体や住民、企業との連携を深め、防災や環境学習など幅広い分野で協働を広げています。
豊島区とは「としまの森・ちちぶ」をフィールドとした連携事業として、植樹や下草刈り、萌芽更新等の森林整備や「秩父・環境交流体験ツアー」などの環境交流事業を行っており、この森林活動によって得られたCO2吸収量は、「埼玉県森林CO2吸収量認証制度」による認証を受けた上で、豊島区が区内でのCO2排出量とオフセットしています。
足立区も秩父地域1市4町と防災・治水協定を締結し、ダムや堤防を新設する従来型治水とは異なる、上下流連携による流域治水の考え方に基づいた取組を進めています。具体的には、下流の都市である足立区が、森林環境譲与税の一部を活用して秩父地域の森林整備の負担金を拠出し、流域全体の水害抑制を図るものです。さらに、秩父地域の森林整備で発生する間伐材で作った鉛筆を足立区内の小学生に配布し、次世代への環境教育にも役立てています。また、大規模災害が発生した場合には、食料品や飲料水等の提供、避難者の一時収容施設の提供、職員の派遣等を相互に行う災害時応援の仕組みも構築されています。古より荒川が人と人、地域と地域を結んできたように、源流域としての責任と誇りをもち、流域圏の自治体、そして人々と支え合い共に発展していく社会を築いていく指針が「荒川流域圏構想」なのです。
清野市長は「流域は古来より文明の基礎で、水や自然、産業、文化を共有し、共感を生み出す共同体であり、一つの生態系(エコシステム)として捉えれば、行政区域を越えてつながる最も適した単位です。荒川の最上流に位置する秩父市には、政治的・経済的中枢である首都東京を含む荒川流域に対し大きな役割があると信じています。 荒川流域圏構想は、東京一極集中という我が国が抱える課題の解決に貢献し、新たな社会をつくるという気概を持って取り組んでいきたい」と語りました。

三峯神社

秩父第3番札所 常泉寺
流域圏は上流と下流がそれぞれ互いに責任を持ち合うことが大切です。
私は現在、『悪水の行方』という小説をNoteで連載しています。悪水という地域に必要ない水の行方を探るところから、「上下流の人々の関係性が希薄となり、誰もが無関心になっていった経過を描きつつ、上流域は流れてしまえば後のことは知らない」「中流域は水道や灌漑に必要な水さえ得られて、水害が起きず下流へ流れてくれたら後のことは知らない」「下流域は上流域の水の恩恵を受けているが、そこの住民のことなど思いながら水を飲む者はいない」という中で、子どもたちが「みんなの水なら、困るのもみんなじゃないと変」と考え、「水が行きたがる場所」という地図を作りました。同じ流域でも、“見えない者は住民ではない”の常識から、関係者は皆住民であるというところに落ち着きます。
流域圏の上下流の環境は『誰もが住民』とする地域づくりです。それは単なる自然環境ではなく、水を通した共生です。文化を共有する仲間なのです。
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