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「地域の健康診断」バックナンバー

0412021.01.26UP二人の未来は続いてゆく-今治市大三島-

愛媛県今治市大三島

胎内くぐりを連想させる巨樹

胎内くぐりを連想させる巨樹

 瀬戸内海の中央に位置する大三島(おおみしま)は面積65.63km2で、古くは海上交通の中心でした。広島県と愛媛県を繋ぐ「しまなみ海道」が開通し、美しい橋梁の織り成す景観を自転車で探訪できるようになり人気を集めています。
 また2600年以上の歴史を持つ大山祇(おおやまづみ)神社には多くの国宝、重要文化財があり、多くの善男善女が訪れています。近くにもパワースポットになりそうな不思議な木があり、まだまだ潜在資源が山ほどありそうで「神の島」と呼ばれることに納得するばかりです。
 今治市役所の大三島支所に電話すると、保留音で「島から島へと二人の未来は続いてゆく♪」流れます。爽やか歌声なので尋ねるとトワエモアの「あの橋を渡って」と教えてくれました。
 通常、高速道路が開通すると「ストロー現象」が起き、若者がふるさとを離れて都市部へ移住するのですが、「しまなみ海道」の影響は逆に、転入を促進する他地域とは逆の現象が発生しています。


鍋島悠弥さん

鍋島悠弥さん

 2018年12月に私は友人(ずいぶん年下だけど)の鍋島悠弥さんが開業したゲストハウス「さかりば」にお邪魔しました。大学院在籍中に農村観光に関わる中で、「もっと地域に溶け込んで、地域づくりがやりたい」と思い始め、卒業と同時に地域おこし協力隊として大三島へ移住しました。
 島民を助けたいとの一方通行の思いは、人間関係が皆無であり、スタートから躓きます。意思疎通ができない中、やりたいことは島民との軋轢を生むばかりで空回りの連続でした。地域住民も「協力隊」という妙な存在に、どう扱えば良いのか困っていたのです。
 これは他県に入った隊員がしばしば陥ることで「任期途中で夢破れ」の最大要因です。
 そこで鍋島さんは自分のやりたいことを封印し、島暮らしを最優先に活動していると、ようやく島民から地域の困り事を相談されるようなりました。
 島民に寄り添いながら信頼関係を築いていった鍋島さん。任期満了の頃になると協力隊の3年間を「人間的に成長させてくれた」と思えるようになりました。
 自分の存在意義は「ここに住んでいること」と気づかされた若き隊員は、協力隊の任務を終えたが、最北端にある盛という集落に居を構え、園地を借りて安全な無農薬レモン栽培を始めました。それは「島民と同じ土俵で話がしたい」との考えからでした。
 どうせやるなら体験型にしよう、そうすると宿泊施設も必要だと、地道に自前でリノベーションし、ゲストハウス「さかりば」を開業するに至ったのです。盛集落内でも信頼を得る中で、自治会の使丁(こづかい)という役を任され、さらに他地域の地域づくりコンサルティング、愛媛県への移住支援を行う「えひめ暮らしネットワーク」の副代表とマルチな活動で活躍しています。順風満帆なスタートでしたが、本格営業開始年の西日本豪雨災害に、今年はコロナ禍と苦難の連続ですが、培ったネットワーク仲間や周りの人に支えられ頑張っています。

ゲストハウス「さかりば」客室

ゲストハウス「さかりば」客室

無農薬のグリーンレモン

無農薬のグリーンレモン


続々と移住が進む大三島

移住者が始めた居酒屋

移住者が始めた居酒屋

 大三島に入った地域おこし協力隊の卒業生11名は全員が定住し、起業しています。カフェや自家焙煎珈琲、ラーメン店、ゲストハウス経営、イノシシ革のクラフト、農業経営、パン屋と多彩な仕事づくりで島の活性化に寄与しています。
 さらに協力隊以外の移住者も多く、地ビール工房、カフェ、ブドウ栽培から醸造まで行うワイナリー、農業などこちらも様々な仕事を創り頑張っており、その刺激を受けた地元の若者も、本業の傍らでシェハウスの経営、農家レストランの開業などに取り組むなど、移住者の増加が、良い方向に作用し共鳴しだしたようで、人の循環がどれほど重要かということを実証しました。
 イカ釣船のような強烈な光を出す光源が無くても、住民全員が蛍のように光り出すことが理想だと思える好事例でしょう。


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」-今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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