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「地域の健康診断」バックナンバー

0112013.09.03UPアートで地域を元気にする

3年毎の催し、“トリエンナーレ” ──アートによる地域活性化の先達

中山間地域の越後妻有(松代町の棚田)
中山間地域の越後妻有(松代町の棚田)

 全国各地でアートによる地域活性化が盛んです。今年の最大規模の芸術祭は香川県を中心に瀬戸内海に面する県が共同開催する「瀬戸内国際芸術祭2013」でしょう。私が関わる山口県宇部市では、1961年の「野外彫刻展」を起源とする「UBEビエンナーレ」が隔年で開催。一般公募コンテストを行い、受賞作は市が買い上げて市街地や公園に常設され、いつでも見ることができます。
 このアートを地域活性化のツールとして確立させ、追随するアートプロジェクトの先達となった「大地の芸術祭・越後妻有(えちごつまり)アートトリエンナーレ」は、アートディレクターの北川フラム氏が総合プロデューサーとなり、760平方キロメートルもの広大な地域でアート作品が野外展示され、世界でも類をみない規模と質を持つ芸術祭です。
 トリエンナーレとは、イタリア語で「3年毎の催し」のことで、ミラノ・トリエンナーレや隔年開催のベネツィア・ビエンナーレなどから、日本国内でもアートの催しで同様の言葉を使うことが多くなっています。

地域住民とアーティストの協働、これに全国から訪れるボランティア「こへび隊」も参画

 大地の芸術祭の「妻有方式」と呼ばれる取組は新潟県の支援事業が発端です。当時、十日町広域行政圏(十日町市・川西町・中里村・松代町・松之山町・津南町)は合併を目指しており様々検討を重ねる中で、里山や自然などの地域資源・文化などをアートによって発信し、地域の元気を取り戻すプロジェクト「越後妻有アートネックレス整備構想」を策定しました。その実施事業として(1)越後妻有8万人のステキ発見、(2)花の道、(3)ステージ整備、(4)大地の芸術祭を立ち上げたのです。
 「人間は自然に内包される」という基本理念が注ぎ込まれた芸術祭は2000年にスタートし、その後3年ごとに開催され、2012年の芸術祭では50日間開催で102の集落参加、作品数367、49万人弱の観光客を動員しています。
 この芸術祭は構想段階で、先に揚げた事業のうち前3つの成果を地域住民とアーティストが協働し合い、地域の価値を掘り起こし、魅力を高め、内外に発信する場として企画されました。ゆえにその作品はアーティストだけが勝手に作るのではなく、住民や外部ボランティアの共同制作が基本です。「大地の芸術祭」が外部依存のイベントではなく、住民自ら行動し交流することの意義をしっかりと共有していることが窺えます。さらに成功で忘れてはならない存在が『こへび隊』と称するボランティアです。『こへび隊』は世代・ジャンル・地域を越え、中高生から高齢者まで様々な人々が、首都圏を中心に全国から訪れています。

脱皮する家:彫刻刀で古民家の内部を全て1cm程度の長さで彫り上げている(大地の芸術祭の里・越後妻有)
脱皮する家:彫刻刀で古民家の内部を全て1cm程度の長さで彫り上げている(大地の芸術祭の里・越後妻有)

うぶすなの家:陶器作家とのコラボで古民家修復(大地の芸術祭の里・越後妻有)
うぶすなの家:陶器作家とのコラボで古民家修復(大地の芸術祭の里・越後妻有)

地域住民の多様なネットワークを形成し、住民自らが未来を見据えた通年の活動に昇華させた

田島誠三:絵本と木の実の美術館(新潟県十日町市)
田島誠三:絵本と木の実の美術館(新潟県十日町市)

 この成果を持続する地域づくりとすることを目的として、平成20年2月に『NPO法人越後妻有里山協働機構』が設立。ずっと芸術祭に関わってきた若者たちが十日町市や松代町の山村集落に移住して協働機構のスタッフとなり、開催期間中でない時も施設や作品メンテナンス、ツアー企画、宿泊所運営などの業務を行いながら次回開催の調整事務を行っています。
 豪雪地帯で過疎化・高齢化する現状を少しでも食い止めようと策定された「越後妻有アートネックレス事業」から生まれたアートプロジェクトは、地域住民の実践的な活動や内外の多様なネットワーク形成を促し若者を引きつけました。とかく単発イベントで参加者○万人集めたと、全く意味をなさない成果を強調する自治体が多い中、越後妻有地区の取組は、未来を見据え住民自らが通年の活動に昇華させた理想的な地域づくりと言えます。

 瀬戸内芸術祭も北川フラム氏の総合プロデュースで、「こへび」ならぬ『こえび隊』によるサポート体制を取っており、瀬戸内の島々に『こえび隊』の足跡を残していますが、プロデューサー+チャレンジャー+スポンサーが手を取り合った時のパワーは、地域全体を活性化させる起爆剤になることを『大地の芸術祭』が証明しています。

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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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