全国各地でアートによる地域活性化が盛んです。今年の最大規模の芸術祭は香川県を中心に瀬戸内海に面する県が共同開催する「瀬戸内国際芸術祭2013」でしょう。私が関わる山口県宇部市では、1961年の「野外彫刻展」を起源とする「UBEビエンナーレ」が隔年で開催。一般公募コンテストを行い、受賞作は市が買い上げて市街地や公園に常設され、いつでも見ることができます。
このアートを地域活性化のツールとして確立させ、追随するアートプロジェクトの先達となった「大地の芸術祭・越後妻有(えちごつまり)アートトリエンナーレ」は、アートディレクターの北川フラム氏が総合プロデューサーとなり、760平方キロメートルもの広大な地域でアート作品が野外展示され、世界でも類をみない規模と質を持つ芸術祭です。
トリエンナーレとは、イタリア語で「3年毎の催し」のことで、ミラノ・トリエンナーレや隔年開催のベネツィア・ビエンナーレなどから、日本国内でもアートの催しで同様の言葉を使うことが多くなっています。
大地の芸術祭の「妻有方式」と呼ばれる取組は新潟県の支援事業が発端です。当時、十日町広域行政圏(十日町市・川西町・中里村・松代町・松之山町・津南町)は合併を目指しており様々検討を重ねる中で、里山や自然などの地域資源・文化などをアートによって発信し、地域の元気を取り戻すプロジェクト「越後妻有アートネックレス整備構想」を策定しました。その実施事業として(1)越後妻有8万人のステキ発見、(2)花の道、(3)ステージ整備、(4)大地の芸術祭を立ち上げたのです。
「人間は自然に内包される」という基本理念が注ぎ込まれた芸術祭は2000年にスタートし、その後3年ごとに開催され、2012年の芸術祭では50日間開催で102の集落参加、作品数367、49万人弱の観光客を動員しています。
この芸術祭は構想段階で、先に揚げた事業のうち前3つの成果を地域住民とアーティストが協働し合い、地域の価値を掘り起こし、魅力を高め、内外に発信する場として企画されました。ゆえにその作品はアーティストだけが勝手に作るのではなく、住民や外部ボランティアの共同制作が基本です。「大地の芸術祭」が外部依存のイベントではなく、住民自ら行動し交流することの意義をしっかりと共有していることが窺えます。さらに成功で忘れてはならない存在が『こへび隊』と称するボランティアです。『こへび隊』は世代・ジャンル・地域を越え、中高生から高齢者まで様々な人々が、首都圏を中心に全国から訪れています。
この成果を持続する地域づくりとすることを目的として、平成20年2月に『NPO法人越後妻有里山協働機構』が設立。ずっと芸術祭に関わってきた若者たちが十日町市や松代町の山村集落に移住して協働機構のスタッフとなり、開催期間中でない時も施設や作品メンテナンス、ツアー企画、宿泊所運営などの業務を行いながら次回開催の調整事務を行っています。
豪雪地帯で過疎化・高齢化する現状を少しでも食い止めようと策定された「越後妻有アートネックレス事業」から生まれたアートプロジェクトは、地域住民の実践的な活動や内外の多様なネットワーク形成を促し若者を引きつけました。とかく単発イベントで参加者○万人集めたと、全く意味をなさない成果を強調する自治体が多い中、越後妻有地区の取組は、未来を見据え住民自らが通年の活動に昇華させた理想的な地域づくりと言えます。
瀬戸内芸術祭も北川フラム氏の総合プロデュースで、「こへび」ならぬ『こえび隊』によるサポート体制を取っており、瀬戸内の島々に『こえび隊』の足跡を残していますが、プロデューサー+チャレンジャー+スポンサーが手を取り合った時のパワーは、地域全体を活性化させる起爆剤になることを『大地の芸術祭』が証明しています。
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