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「地域の健康診断」バックナンバー

0342019.05.28UP日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み-愛媛県伊予町-

青色発光ダイオードを開発した中村修二氏が生まれた町

 伊方町は、宇和海と瀬戸内海に挟まれた日本で一番細長い佐田岬半島に位置します。半島の背骨を貫く国道197号は、メロディーラインと呼ばれ、車の走行振動で「みかんの花咲く丘」などを奏でます。三方を海で囲まれ半島の両側に急速に海に落ち込む地形で、朝は瀬戸内海から宇和海へ霧が流れ、夕方は逆から雲が半島を越える姿を見ることができ、天気が良ければ本州や九州を望むことはできます。
 青色発光ダイオードを開発した中村修二氏が生まれた町は、2005年に伊方町、瀬戸町、三崎町の三町合併があり、人口1万人を超えていましたが、現在は4,587世帯人口9262人で65歳以上4,279人と少子高齢化が進んでいます。
 主な産業は柑橘類栽培の農業とシラス漁をはじめ岬アジや岬サバ、伊勢エビほか多種多様な魚介を水揚げする漁業です。
 昔は冬期に担ぎ売りの行商や伊方杜氏として酒造りの出稼ぎを生業としていましたが、現在は四国管内の電力の約4割以上を供給する伊方原発が、町の雇用や原発作業員の宿泊、消費で町の消費を支えており、昨年10月に再稼働を容認した町も税収が原子力発電所から生じる恩典を受け、潤沢な町財政となっているため、他県の立地自治体と同様で表だって原発反対を言いません。
 一方で、地元唯一の三崎高校の分校化と言った話題も出るなど、少子高齢化が顕著であり、原発に依存する自治体の将来の不安が見え隠れしています。

佐田岬の流れる雲

佐田岬の流れる雲

防風垣に囲まれたみかん畑

防風垣に囲まれたみかん畑

奇岩・梶尾鼻

奇岩・梶尾鼻


日本のアマルフィ ―名取集落

日本のアマルフィと言われる名取

日本のアマルフィと言われる名取

 ほぼ傾斜地は、海洋性気候も相まって98%が柑橘畑です。海から吹き上げる潮風のお陰で柑橘が甘くなると言われ、温州みかんを始め伊予柑、清見タンゴールなど柑橘類を栽培しています。しかしその潮風が強く栽培の影響を受けやすいため、防風石垣と防風垣で畑をグルリと囲っており余所では見たことの無い景観が拡がっています。この景色を数年前に初めて見たとき「世界農業遺産」並みだと感じたことを覚えています。防風垣は主に杉や槇の木ですが、果樹木より手入れが大変で、農家の方の苦労は計り知れません。半島で一番高い標高413.6mの伽藍山の頂上にある展望台に登りましたが、ロケーションは良いのですが、風が強く柑橘栽培で風よけは不可欠と感じました。
 旧三崎町名取集落は、家々が宇和海側の斜面中腹に張り付いて並び、イタリアの町を連想させるところから、“日本のアマルフィ”と呼ばれています。
 集落の家々は石垣を組んだ上に建てられています。その石垣は青や緑、茶、白など色とりどりの石が平積みか矢羽根積み工法で積まれており、類を見ない風景が広がります。歴史ある石垣で、かつては「エバサン」と呼ばれる専門の石工職人が組んでおり、崩れることなく今の姿を留めていましたが、「エバサン」が居なくなると経年劣化は止めようがなく、毎年の風雨で石垣が崩れ、現在は集落の人たちで補修をしています。石工の技術がどれほど大切であったかを物語るものでしょう。
 今回は名取にUターンし、柑橘栽培をしながら地域活動をしている宮部元治さんにご案内いただき、集落内の坂を徒歩で上り下りしながら、石垣を見て歩きました。
 故郷に帰った宮部さんは、子どもの時には普通と思っていた歴史ある石垣の大切さに気づき、ワークショップを開催したり訪問客を案内したりしていたところ、「もっとみかん栽培に力を注げ」と先輩から言われました。それでも徐々に取組に賛同する住民が増え、今では石垣が集落の大切な宝と認識が拡がり、多くの仲間と石垣の保全管理ができるようになりました。
 宮部さんは「佐田岬半島の自然や文化・歴史を後世にいかに繋げて行くのかを考え、自分が出来ることをやるだけ」と、その魅力を感じるようなフットパスコースを整備しマップ化する「佐田岬フットパス構想」を進めながら、それを対外的に発信することを地域活動の一環として行いつつ、宮城県名取市と名取集落との相互交流事業を行っています。
 国内でも稀な景観を守るため、集落の人たちや外部の人たちを巻き込み我がふるさとを育む活動は、一人でもできる本物のSDGsではないでしょうか。


名取の石垣

名取の石垣

宮部さんと名取の石垣

宮部さんと名取の石垣


見事な石積みが続く

見事な石積みが続く

住民による石垣の補修

住民による石垣の補修


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」-愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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