瀬戸内海は、入り組んだ入江や湾が特徴の閉鎖性海域で、古くから漁業が盛んな地域です。
しかし、高度経済成長期には人口集中と工場の増加、臨海部の埋立てが進んだことで水質が悪化し、赤潮の発生が増加。結果、多くの魚介類が死滅する深刻な事態が発生しました。
1970年代には水質汚濁による「富栄養化」が深刻化。1978年の水質汚濁防止法及び瀬戸内海環境保全特措法の改正により水質総量削減制度が導入され、環境の回復に取り組んでいます。
魚介類の生育地や渡り鳥の休息地として重要な藻場や干潟は埋立て等によって大きく減少してきました。藻場のうちアマモ場については、1960年度から1989-90年度までに約7割、干潟については1989年度から2015-2017年度までに約5割が消失しました。
一度損なわれた美しい海の景観と豊穣なる海を完全に取り戻すには、いまだ多くの困難が横たわっております。
近年、広島湾では山から海へ養分供給を行うため「漁民の森づくり」を行っています。一方で、藻場の消失による磯焼け、さらに海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックの流入が、湾内の生態系に深刻な影響を及ぼしています。
広島県は、日本屈指の牡蠣の産地として知られています。その養殖においては、ホタテ貝の殻に牡蠣の種苗を付着させ、筏から吊るすための「スペーサーパイプ」と呼ばれる長さ21~24cm、内径1cmほどのプラスチック製の器具が用いられてきました。広島湾では、およそ3億本にのぼるプラスチック製パイプが使用されていると見られ、破損や事故によって海中へ流出し、漂流・漂着ごみとして大きな問題となっています。
広島かき生産対策協議会は、流出して海岸に漂着したプラスチック製パイプを一定価格で買取る制度を設けていますが、道具の劣化や廃棄の管理不足により流出が後を絶たず、課題は根深いものがあります。しかも、これらのプラスチックは、自然環境下で分解されるまでに400年から1000年を要するとされ、世界的にも喫緊の環境課題と位置づけられております。
筆者はこうした“見えざる”海のプラスチック汚染の実態を初めて知り、新たな解決策が早急に必要だとの思いを強くしました。
2021年4月、「里山」と「里海」の環境再生と資源循環を目指して「山海環(さんかいかん)」が設立されました。その活動は、竹と炭を活用して里山と里海をつなぐ循環型社会の構築を掲げ、次の3つの柱を中心に取り組んでいます。
① 牡蠣養殖用プラスチックパイプの「竹」への転換
② 廃棄された牡蠣いかだの竹材の「炭化」
③ 広島県産竹材の養殖資材としての「普及拡大」
現在、海中で使用されているスペーサーパイプは、いかだ1台あたり約24,000本。広島県内には約12,000台のいかだが存在し、合計でおよそ3億本にのぼるパイプが使用されている計算になります。
「山海環」では、このプラスチックパイプを自然由来の「篠竹(しのだけ)」に置き換える試みを開始しました。篠竹は河川法面や河川敷に繁茂し、防災上問題視されることもある一方で、生分解可能で、使用後には焼却や炭化も可能な資源です。この竹を24cmにカットし、節を抜きパイプとして再利用。地元の養殖業者と連携し、実証実験を進めています。
ただし、篠竹の安定供給や耐久性、コスト面に課題があるため、さらに持続可能な素材開発が模索されています。
「山海環」は現在、炭化技術を応用し、使用済みの竹や木材を粉砕・成形した「再生型パイプ」の開発に着手。プラスチックに竹炭や竹パウダーを25%配合した「バイオプラスチック」製品を開発し、2023年から実証実験をスタートしています。
また、現在は野焼き処分されている廃いかだを竹炭として再利用し、当面年間24トン程度のバイオ炭を生成し、将来は年100トンの焼成を目指すとともに竹炭や竹パウダーの配合比率を高めた生分解性バイオプラスチックとして、真の循環型システムの構築に向けて動き出しました。
「山海環」は、猛暑のなかでも炭を焼き続けながら、未利用資源の活用と環境保全に全力で取り組んでいます。プラスチック依存から脱却し、自然と共生する持続可能な養殖業の未来を切り開くこの挑戦は、瀬戸内海の再生と日本の環境モデルに大きな希望をもたらすことが期待されます。
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