中国の武漢市から始まった新型肺炎は、春節の大移動で拡大していきました。中国から多数の訪日客が訪れるシーズンと重なった日本の観光地では、来るはずの客が来ないことで閑古鳥が鳴く地域も発生し、悲鳴を上げています。
先日までオーバーツーリズムでうんざりするような大混雑だった京都も例外ではなく、多くの中国人が訪れる嵐山や著名な神社仏閣も静かな状況で、本来の冬の京都といった趣です。
京都に限らずクルーズ船の誘致で血道を上げていたエリアも、捕らぬ狸の皮算用どころか新型肺炎の恐怖に首をすくめている状況でしょう。
日本を訪れた外国人旅行者数は2018年に3119万人となり、国内消費額も4兆5千億円となりました。アジア諸国を中心に訪日ビザの発給要件を緩和したり、LCCなど航空路線の拡充などを追い風にしたりして急速な伸びをみせてきたわけですが、今回の騒動だけで日本の観光産業は1400億円の損失が見込まれると国連が発表するなど、2020年は様々な経済損失で暗雲が立ちこめています。
観光客が一人でも増えれば、お金が地方に落ち、経済も多少は潤うかもしれませんが、観光客は地域にとってリスクであり、住民生活でのコストだと考えてこなかったことが問題です。
インバウンド狂騒の裏で、著名観光地は国内の観光客を減らしてきました。こうした偏りのある観光収入に左右される施策は、地方観光の未来に何を残し、何を創るのかという視点が感じられないのが残念でなりません。
地域は海・山・里の自然や独自の食文化と深い歴史文化という最大の武器を有しています。
国内観光客も健康や食の安全・安心や地域の豊かな文化や景観、生活風土を守り、生活をしている場の価値を見直しはじめています。しかし同時に少子・高齢化によって地域自体が老化しはじめており、最大の武器を持続させることが困難になりつつあります。
いち早く地域資源を活用した地域でも、観光で消費し続けると、いつかは資源が消費され、枯渇に至ります。収穫したらお礼の堆肥を入れて土を元気にする、木を切ったら植林をするのは当たり前です。観光資源が消耗し、陳腐化すると見向きもされなくなるのです。地域資源が本当に何もなくなった地域は魅力もなくなり、住む人も消えるということを理解してください。
大切なのはイベントやインバウンドで人を集めることではなく、コトに共感し、助けてくれる新たな価値創造なのです。短期間の滞在でも一人ひとりの関係性を深め、地域独自の暮らしに浸らせる工夫は欠かせません。それは自分たちの暮らしぶりの観光化ですが、生業や暮らしにどっぷり浸かれる「暮らしたくなる旅」を企画提案し、地域資源を消費する関係から、ここに自分の居場所があると感じてもらうことが大切です。
そのためには住民が安心で楽しく暮らせる生活環境を創ることが一番です。何よりも住民自身が、自分のまちの誇りと感じる施策を講じることができれば、現状を打破する糸口になるばかりか、いずれ訪日観光客に響く地域となるに違いありません。
もう「量」の時代は終わっています。「量」は「良」ではないのです。
グローバル経済のスケールメリットにはない田舎では、自然や食、文化の多様性に加え、温かな人々の笑顔と無垢なもてなしが、地域にシンパシーを感じ、リピーターやサポーターとなるきっかけになります。
環境保全やエコロジーが叫ばれる現代において、森を育て、良い水を作り、食料を生産し、エネルギーを供給しているのは農山漁村であり、その営み自身がSDGsです。
ディープな日本を求める訪日客も現れているのは、地元では何でもないと思っていた景観や食、風土に根ざしたコトが旅人にとってはミステリアスな空間と見ているからです。
観光は今回の流行病や災害一つで一瞬に客が消えてしまう「水もの産業」です。日本全体の観光が危機的状況の今こそ、訪日客に経済的依存している政府の観光施策に左右されることなく、まずは国内観光客向けに極上の経験をしてもらうシステムづくりを進めましょう。
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