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「地域の健康診断」バックナンバー

0052012.04.03UP集落の元気を生産する「萩の会」

過疎の村をゆるがす事件

萩原集落
萩原集落

 浜田市・太田市とあわせて石見三田と呼ばれる島根県益田市は、県内で最も広い面積を有する西部の中心都市です。「万葉集」の代表的歌人・柿本人麿の生誕終焉の地、水墨画家で禅僧の雪舟終焉の地といわれ、2つの柿本神社や雪舟の墓所、雪舟の手がけた庭園があります。

 平成16年に益田市へ編入合併した匹見町は、JR益田駅から40分ほど車で移動した山間地にあります。さまざまな滝やシャクナゲの群生、珍しい渓流魚や鳥が見られる西中国山地国定公園の「匹見峡」が有名です。
 面積の9割が山林で、かつて7550人が暮らしていましたが、昭和38年の記録的豪雪を契機に「挙家離村きょかりそん【1】が行われ、人口が激減し「過疎発祥の地」と言われました。
 過疎化は進んでいたものの、匹見町は昔から特産品開発の得意な町で、わさび漬けからメロン、ヤマメ、栃餅、ゆべし、自然薯、せんべい、餅など50品目の特産品を全国に宅配していました。
 ところが小泉内閣時代に、住民にとっては事件ともいうべき郵政民営化が行われ、地元産品を手がけてきた「ゆうパック商品」を、匹見郵便局で扱ってもらえなくなったのです。さらにチラシの印刷や遠方へのカタログ無料配布ができなくなったのに加え、審査や手続きが煩雑になりました。
 物量でコストを下げる大企業と違い、山間地の少量物流にとっては経費がかさみ、小さな集落やグループにはかなりの負担となりました。

限界集落が全員加入の生涯現役会社へ

 現在、匹見町の中心部からさらに奥に入ったところにある萩原集落は、19世帯20人(平成23年2月現在)が暮らす、高齢化率57%の限界集落です。
 高齢化が進み農地の荒廃がみられだした平成10年3月、「集落から灯りの消える家を出さないために何かできないか?何かをやろう!」と何回も話し合いを重ねて、集落民全員加入で全員が主役という、集落任意組織『萩の会』を結成しました。

萩の会の女性たち
萩の会の女性たち

萩原集落をまるごといただく
萩原集落をまるごといただく


 最初に手をつけたのは、集落に一軒だけあった空き家でした。平均年齢70歳以上の女性6人(現在7人)が、そこを借りて農家民宿「雪舟山荘」を開業。男性陣は遊休田を耕し、食器をつくり、山菜収穫やイノシシ捕獲などで自給食材の確保をするなど裏方のサポートをしました。そしていつしか、自分たちの都合でお客さんを泊める「わがままばあちゃんの宿」と呼ばれる名物宿になりました。
 平成13年には町から遊休地のブルーベリー園を引き受け、年間6千本の注文が入る人気のジャムも誕生。そして、平成17年頃には経営が安定し、利益分配や税金の問題が出てきたため、仲間からソォねえさんと慕われる齋藤ソノさん(現在87歳)を代表取締役に「株式会社 萩の会」を設立してしまったのです。
 まあとにかく、集落の女性たちが元気なんですね。

 ところが平成18年、「雪舟山荘」の家主がUターンしてくることに。定住者の増加を目標にしてきた活動なので、歓迎しても困るとは言えません。やむなく民宿は閉鎖することにしました。
 しかし女性たちの落ち込みを見た男性陣が「活動がここで途絶えてはいけない」と、ほぼ手づくりで新たな拠点「萩の舎(やど)」をがんばって作ったのです。
 こうした取り組みが認められ「萩の会」は、男女共同参画社会づくり内閣官房長官表彰や地域づくり国土交通大臣表彰ほか、数々の栄誉を手にしています。
 活動の原動力は、集落の良さを子どもたちに語り継ぎたい、良い形で次の世代に引き継ぎたいという思いですが、全員で話し合いをして合意していくまとまりの良さに加え、ボランティアでなくキチンとビジネスとして成立させ、就労の場を確保するという考え方が徹底しているのです。
 過疎地域でも高齢者ばかりでも、すごいことができるという見本です。

食品加工工房を併設した特産品販売所「萩の舍」
食品加工工房を併設した特産品販売所「萩の舍」

(株)萩の会代表取締役 齋藤ソノさん
(株)萩の会代表取締役 齋藤ソノさん


注釈

【1】挙家離村
 ダム建設などでそこの住民が立ち退かなければならなくなったとき、一家(集落民全員)で都市部などに引っ越すこと。

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このレポートへの感想

エコナビ編集部です。
ご指摘ありがとうございました。
本文を「…昭和63年の記録的豪雪を契機に…」から、「…昭和38年の記録的豪雪を契機に…」に訂正の上、お詫び申し上げます。
今後ともEICネットおよびエコナビをよろしくお願い申し上げます。
(2016.11.18)

詳しい説明ありがとうございます。
昭和63年の記録的豪雪と上記されていますが1963年の間違いではないですか?
(2016.11.09)

こんなとこあるなんて、素敵です。ひとは、いくつになっても、人の役に立っていたいですよね。私も前向きに人生いきていきたいです。
(2013.12.22)

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  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
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  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
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  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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