全国で小中学校の様々な廃校活用の事例がありますが、最近は都道府県の中では中高一貫教育校やSSH(スーパーサイエンススクール)など、新たな特色を出して生き残る道を探るところがあります。ただ、高校の統合などで、休廃校が高校という大型の教育施設に及ぶ状況になっています。
高校再編は生徒数の減少が最大要因であり、少子化による統廃合は今後も進捗するでしょう。
しかし統廃合しても県は大規模な遊休施設を保有する事実は変わらず、地元自治体に払い下げを提案するものの、明確な利活用がない市町村から受け取りを拒否されています。
民間などに転貸・売却するにも使いづらいことが一番の課題です。さらに小中学校と違い「おらが学校」いう意識は地元にないため、施設を残して利活用しようとの動きも出ません。
遊休資産を活かして地域に企業や人を呼び込めば、必ずその地域は元気になるとは考えられ、地域再生となり得る貴重な財産です。多様な有効活用を模索することが重要ですが、大型施設案件をこなせるプロデューサーがいないところも多く、県財政を圧迫する負動産となりつつあります。
こうした大規模遊休校舎の利活用に関して、山形県の事例調査を行いましたので、紹介します。
山形市の市街地にある第一小学校は老朽化によって2004年4月、隣接地に小学校を新設したことで、国有形文化財である施設が空いてしまいました。
いわゆる少子化で児童数の減少に困り、統合・閉校したケースではありません。
第一小学校は昭和2(1927)年、県内初の鉄筋コンクリート造りで、ノスタルジーを感じるアール・デコ調の学校建築で国の有形文化財にも登録されています。
山形市は30年にわたる国際ドキュメンタリー映画祭をきっかけに「ユネスコ創造都市ネットワーク」への加盟を認められたことで、市では映像文化をはじめとする多様な文化を重要な地域資産と捉え、産業、観光、教育振興に繋げようと「創造都市やまがた」のビジョンを掲げ、地元の企業、大学、団体などとともに展開していました。
そこで、小学校の保存活用策を検討でも芸工大の教授や関係者と建築設計を行う方々が当初より運営までを睨んで参画しており、「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」の運営母体となる新会社を設立。2010年4月に「旧一小」から愛称Q1(キューイチ)として、「創造都市やまがた」の認知度を高めるための拠点施設として位置付けられ、生まれ変わりました。
Q1は、山形市と東北芸術工科大学の公民連携で産まれたもので、公民連携プロジェクトのモデルでもあり、同じ山形県村山市の旧県立楯岡高校をリノベーションし、活動するLink MURAYAMAにも影響を与えています。
公設民営の運営は通常、指定管理制度が多いのですが、Q1はテナントスペースとレンタルスペースを自ら賃借し、テナントへの転貸や利用者に使用させ、1階の一部と地下1階のスペースや共用部分は、管理業務を受託し維持管理費を市に負担してもらう一方で、施設全体からの事業利益はその7割を市に納める利益還元方式を採用しています。安定した経営基盤を創ると共に、できるだけフリーハンドの裁量を利かせられるようにしました。
地下1階・地上3階建てで、コの字型廊下の片側に教室が並び、地元のショップやアートギャラリーなどクリエイティブ系を中心に幅広く、リコーグループの国内販売会社であるリコージャパンや隣接する天童市に本拠を置くサッカーJ2のモンテディオ山形など、地域に根差す企業も入居していました。
施設で一番驚いたのが3階です。
1階は綺麗な白漆喰でリノベーションされていましたが、2階・3階は真逆で、天井や壁は躯体が荒々しく剥き出しとなっており、昭和初期のコンクリートに触れることができます。このギャップがアートとしても面白く、Q1を印象付ける効果を与えています。
5類に分類された新型コロナは日常の中でステルス化したことで、ビデオ会議やテレワークによる在宅勤務などのワークスタイルは終焉し、コロナ禍前の勤務形態に逆戻りしてしまいました。
「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせたワーケーションを期待し、施設整備を行った地方ですが、企業もワーケーションを拡げる動きは少なく、在宅勤務と会社のハイブリッド・ワークが定着し、世の中を動かすムーブメントとはなりませんでした。
地方では需要が見込みづらいサテライト・オフィスは、キチンとしたビジョンを持っているところや、企画段階から参画者を巻き込んだり、地域を理解し、人的ネットワークが豊富なコーディネーターを確保できた施設は順調に推移しています。
廃校やその他遊休施設の活用は、地域に本当に必要なコトは何かを突き詰めながら、負のスパイラルに歯止めをかけるために企業や人材が育つ環境づくりが大切だと感じました。
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