私が20年来言い続けてきた食や文化、地域のなりわい、風土を観光資源とする「風土ツーリズム」が地域活性化の嵐の中で、ようやく認識されつつあります。
豪華絢爛の旅は伊勢講など庶民の旅として流行りだした江戸時代からの始まりですが、大阪万博と高度経済成長がもたらした昭和時代の団体旅行は、第2期観光成熟期と言われました。ただ、どこに行っても同じような会席料理が並び(今でもある)、どこでも飲めるメーカーのビールで乾杯していました。
しかしバブル崩壊以後、バスを連ねた団体旅行というマスツーリズムから小グループや家族単位に大きくニーズが変化し、国内の著名観光地は空洞化・衰退していきました。そして健康や食の安全・安心や地域の豊かな文化や景観、生活風土を守り、生活をしている場が新たな社会の価値観として顕れました。
概念としてのガストロノミー・ツーリズムやフードツーリズムは平成に入って出てきましたが、昨今のインバウンドや地方創生事業で現在、脚光を浴びつつあります。元来、旅での食事はプライベートでもビジネスでも、旅行者のほとんどが楽しみにしているものです。
皆さんも、「◯◯に行ったら◯◯を食べたい地酒を飲みたい」という願望をお持ちだと思います。当然、地域ならではの美味しい料理や新鮮な素材が食せるなら必然的に旅の目的として成立するわけです。極端な話、蕎麦一杯を食べるために車で数百キロを移動するのは当たり前になっています。
ガストロノミーは生産地の食文化や風土が重要な要素です。例えば「うどん県」を標榜する香川県でも、その地域のうどんは出汁から違います。
観音寺市では瀬戸内海の「いりこ漁」が盛んなため、出汁のベースは「いりこ」ですが、高松市にいけば「鰹出汁」がベースとなります。全国には「ご当地うどん」が存在します。小麦粉を使用する点では同じでも、各県で開発した小麦も相まって香りや麺の太さ、硬さ、形が違います。
江戸時代から続く「一本うどん」(京都・東京・埼玉に老舗が残る)など不思議な感覚ですし、昔からお伊勢参りの旅人に食された「伊勢うどん」などは、御師の歓待で飲み疲れた胃腸に優しいグダグダなうどんですね。
前述の観音寺市には早朝から店を開ける「モーニングうどん」がありますが、各地に「朝ラーメン」とか「朝カレー」など地域生活の実情に合わせた食文化もあります。特産品とか伝統料理などでないと客を呼べないというのは地元で価値を理解していない証拠です。
事ほどさように「ところ変われば品変わる」のが、地域における食の醍醐味であり地域観光の核となるのです。
インバウンドで日本を訪れる外国人が2000万人を突破しました。観光庁「平成26年訪日外国人消費動向調査2015年」によれば、訪日外国人が期待することの第1位は日本の食(76.2%)で、外国人が好きな料理の第1位も日本料理(66.3%)が挙げられています。
国内旅行者のみならず訪日外国人が期待する食の素材と文化を両方有しているのが地域です。そこに巨大なテーマパークや世界遺産が存在していなくても十分に観光客に訴求する資源を持っているのです。
ここに着目した山形県鶴岡市では「鶴岡食文化推進協議会」を設置し、「鶴岡ふうどガイド」や「鶴岡のれん」「庄内酒まつり」など食文化の体験ツアーや在来作物や山菜のレシピ集の発行ほか食の情報発信を行いつつ、市民の食育を通じた健康づくりや農林水産現場の理解促進、さらに郷土愛を育む活動を展開し、「ユネスコ創造都市ネットワーク」の食文化分野で、日本初の加盟が認定されました。
観光を基軸とした地方創生が盛んですが、地域の食を活用した一過性のブームとならない地域ブランドの構築は地域住民の日常生活の向上が一番でしょう。
和食と言うと懐石などの高級日本料理を思い浮かべがちですが、御飯とだし(昆布や焼き干、鰹節など)が基本としたごく一般的な家庭料理が大切なことと思います。
ただ最近の家庭料理は化学調味料や酸化防止剤などがたっぷり入ったものが多いので注意したいと思います。
(2017.01.11)
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