長崎県のほぼ中央の大村湾に接し、長崎空港がある人口約93,000人の大村市。大村湾に突き出した半島に築城された「玖島城(くしまじょう)」は、藤原純友を祖とするキリシタン大名「大村純忠」が作ったもので、天守閣はなく板敷櫓のみの平山城です。現在、城の一帯は大村公園として整備されており、天然記念物のオオムラザクラや菖蒲など季節折々の花が季節を賑わせます。
市の北部丘陵地帯にある福重地区は、昔から果樹と花の農業が盛んな一帯で、約40年前から始めた梨狩りやブドウ狩りに観光客が殺到していましたが、農業の後継者不足や高齢化、遊休農地の増加などの課題がでてきました。
そこで地区の40名ほどで協議会を結成し、具体的に第三セクターによる活性化組織を目指したところ、自分で借金してまでやりたくないメンバーが次第に欠け、最後に8名だけが残りました。
結成当時は「盃を傾けて逃げ遅れた8名」と揶揄されましたが、残った8名はナシ、ブドウ、カーネーション、ミカン、桃、養豚など多種多彩な農家であったことが、その後の展開に幸いしました。
平成8年、「あんな場所で成功するはずがない」と言われた坂道の沿道に、ビニールハウスを立て、直売所「新鮮組」をスタートさせ、翌年にはアイスクリーム工房「手づくりジェラードシュシュ」をオープン。地元の野菜や果樹を使用したジェラードアイスは、見事に当たり、初日から1000人を越える人が訪れる大ヒット商品となりました。農業を基本とした事業の目処も付いたことで、さらなる六次産業の推進と農業後継者の確保育成を図るため、平成10年に「(有)かりんとう」(現「(有)シュシュ」)を設立するに至りました。
現在の「おおむら夢ファーム・シュシュ」は、ビニールハウス直売所を立ち上げた場所から徒歩で数分、坂道を登った大村湾が一望できるところにあり、長崎空港から車を使用して15分程度で到着します。シュシュ(フランス語の「お気に入り」)は、平成12年、総事業費4億円を掛けて建設した施設です。
主な施設は直売所の「新鮮組」、「手づくりジェラードシュシュ」、地元の小麦や米粉使用の「パン工房」、日本農業新聞主催の「一村逸品大賞」で金賞を取ったプリンが人気の「洋菓子工房」、取りたてイチゴで大福づくり体験ができる「イチゴ狩りハウス」、旬の地元食材をふんだんに使ったランチバイキングから冠婚葬祭までできる「ぶどう畑のレストラン」と順次開設し、六次産業化による地域活性の拠点施設となっています。年間49万人が訪れるまでになり、平成20年には農産物加工所を建設し、ジュースやジャム、ケチャップとして加工して、直売所販売や通信販売をしています。
農業塾は団塊世代の帰農推進として平成19年に開校。月1回年間12回の塾には、これまで6期・210名が参加しています。塾では農産物の栽培指導から農機具の使い方、そば打ち、炭焼きなどのカリキュラムを実施。さらに塾生と地域の農業後継者との交流で「荒れた農地を宝の山にしよう!」と荒廃農地を活用した芋焼酎を造り販売するまでになりました。またジャンボニンニクも生産し、特産のナシをブレンドした焼肉のタレを作るなど加工・販売に取り組んでいます。
そしてシュシュ生産者会員38人を主体とした「大村市グリーン・ツーリズム推進協議会」を設立し、(有)シュシュがボランティアで事務局を務め、観光農園や各種イベントや体験のPR、農家民泊の調整、問い合わせなどの対応をしています。
専業農家8戸の構成員ですが、現在シュシュで働く従業員は80人。特筆すべきは、約8割が若い女性スタッフであることです。
山口社長は当初から「お客様からアイデアの種をいただく一方、女性に喜ばれる施設でなければ、お客様は増えない」と考え、「女性の視点」を大切するため社員採用を進めてきた結果です。
店内のポップから商品パッケージのデザイン、そして情報発信など企業でも外注している部門を女性の採用で内製化し、オリジナリティと女性目線の展開が、これからさらに発展する基盤となると思います。
「私どもの目的は観光客数を増やすことではない。儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒。最終的には日本の農家にプラスになるような経営でなければ意味がない」
と言う山口社長がたいへん心強く見えた瞬間でした。
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