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「地域の健康診断」バックナンバー

0142014.06.24UP儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒

盃を傾けて逃げ遅れた8名の同志

 長崎県のほぼ中央の大村湾に接し、長崎空港がある人口約93,000人の大村市。大村湾に突き出した半島に築城された「玖島城(くしまじょう)」は、藤原純友を祖とするキリシタン大名「大村純忠」が作ったもので、天守閣はなく板敷櫓のみの平山城です。現在、城の一帯は大村公園として整備されており、天然記念物のオオムラザクラや菖蒲など季節折々の花が季節を賑わせます。
 市の北部丘陵地帯にある福重地区は、昔から果樹と花の農業が盛んな一帯で、約40年前から始めた梨狩りやブドウ狩りに観光客が殺到していましたが、農業の後継者不足や高齢化、遊休農地の増加などの課題がでてきました。
 そこで地区の40名ほどで協議会を結成し、具体的に第三セクターによる活性化組織を目指したところ、自分で借金してまでやりたくないメンバーが次第に欠け、最後に8名だけが残りました。
 結成当時は「盃を傾けて逃げ遅れた8名」と揶揄されましたが、残った8名はナシ、ブドウ、カーネーション、ミカン、桃、養豚など多種多彩な農家であったことが、その後の展開に幸いしました。

「おおむら夢ファーム シュシュ」のオープン

 平成8年、「あんな場所で成功するはずがない」と言われた坂道の沿道に、ビニールハウスを立て、直売所「新鮮組」をスタートさせ、翌年にはアイスクリーム工房「手づくりジェラードシュシュ」をオープン。地元の野菜や果樹を使用したジェラードアイスは、見事に当たり、初日から1000人を越える人が訪れる大ヒット商品となりました。農業を基本とした事業の目処も付いたことで、さらなる六次産業の推進と農業後継者の確保育成を図るため、平成10年に「(有)かりんとう」(現「(有)シュシュ」)を設立するに至りました。
 現在の「おおむら夢ファーム・シュシュ」は、ビニールハウス直売所を立ち上げた場所から徒歩で数分、坂道を登った大村湾が一望できるところにあり、長崎空港から車を使用して15分程度で到着します。シュシュ(フランス語の「お気に入り」)は、平成12年、総事業費4億円を掛けて建設した施設です。
 主な施設は直売所の「新鮮組」、「手づくりジェラードシュシュ」、地元の小麦や米粉使用の「パン工房」、日本農業新聞主催の「一村逸品大賞」で金賞を取ったプリンが人気の「洋菓子工房」、取りたてイチゴで大福づくり体験ができる「イチゴ狩りハウス」、旬の地元食材をふんだんに使ったランチバイキングから冠婚葬祭までできる「ぶどう畑のレストラン」と順次開設し、六次産業化による地域活性の拠点施設となっています。年間49万人が訪れるまでになり、平成20年には農産物加工所を建設し、ジュースやジャム、ケチャップとして加工して、直売所販売や通信販売をしています。

シュシュ全景
シュシュ全景

パン・アイス工房に行列
パン・アイス工房に行列

農業塾の開塾とグリーン・ツーリズムで後継者づくり

 農業塾は団塊世代の帰農推進として平成19年に開校。月1回年間12回の塾には、これまで6期・210名が参加しています。塾では農産物の栽培指導から農機具の使い方、そば打ち、炭焼きなどのカリキュラムを実施。さらに塾生と地域の農業後継者との交流で「荒れた農地を宝の山にしよう!」と荒廃農地を活用した芋焼酎を造り販売するまでになりました。またジャンボニンニクも生産し、特産のナシをブレンドした焼肉のタレを作るなど加工・販売に取り組んでいます。
 そしてシュシュ生産者会員38人を主体とした「大村市グリーン・ツーリズム推進協議会」を設立し、(有)シュシュがボランティアで事務局を務め、観光農園や各種イベントや体験のPR、農家民泊の調整、問い合わせなどの対応をしています。
 専業農家8戸の構成員ですが、現在シュシュで働く従業員は80人。特筆すべきは、約8割が若い女性スタッフであることです。  山口社長は当初から「お客様からアイデアの種をいただく一方、女性に喜ばれる施設でなければ、お客様は増えない」と考え、「女性の視点」を大切するため社員採用を進めてきた結果です。
 店内のポップから商品パッケージのデザイン、そして情報発信など企業でも外注している部門を女性の採用で内製化し、オリジナリティと女性目線の展開が、これからさらに発展する基盤となると思います。
 「私どもの目的は観光客数を増やすことではない。儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒。最終的には日本の農家にプラスになるような経営でなければ意味がない」
 と言う山口社長がたいへん心強く見えた瞬間でした。

農業塾
農業塾

山口社長
山口社長


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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