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「地域の健康診断」バックナンバー

0162014.11.18UPしたたかに生きる漁村

 大分県臼杵市は県南部に位置し、温暖多雨の南海型と瀬戸内海型が混在する気象で、多彩な農水作物がある食素材の宝庫です。人口4万人弱ですが、その歴史は古く、キリシタン大名で有名な大友宗麟が築城した臼杵城や江戸時代の町並み、武家屋敷などが残る城下町からは、「春は名のみの風の寒さや 谷のうぐいす 歌は思えど?」の「早春賦」を作詞した吉丸一昌さんが生まれました。

何とかしてえなぁ

 市中心部から海岸沿いの綴れ折りの狭隘な道を車で30分ほど走らせると深江漁港に到着します。そこの深江小・中学校は平成20年(2008)3月に閉校しました。閉校が決定したとき、地区民は仕方ないと思う一方で、自分たちが学んだ学校が消えれば地区の拠り所がなくなる、コミュニティも地区への愛情が希薄になってしまうと苦慮していました。
 廃校当時、深江区長会会長の薬師寺正治さんは、「自分たちの学校が幽霊屋敷になるのを見たくない。何とかしてえなぁ」という地区の思いを市側に申し込み、期限付きで無償貸与を受けることとなりました。とは言っても光熱費などの維持費は地区の負担です。区長会で廃校活用の検討をする中で、長く活動するために、何らかの経済活動を行える拠点がよいとの結論となり、生産組合「磯端会議(いそばたかいぎ)」を設立しました。

磯端会議の挑戦

 20戸足らずの小さな漁村で同校の卒業生6人のメンバーからなる「磯端会議」は、「思い出深い校舎が、やがて朽ち果てるのは、あまりにも寂しい。地域の人たちがここに集まり、にぎやかになれば」との思いから「住民が井戸周辺に集まる井戸端会議」に因み名付けました。
 事業の初期投資はほぼ薬師寺さんの出資とのことですが、目の前が海という立地を活かして、1階の校長室や職員室を含む8教室に直径1.2mのタライ600個を並べ、55,000個のアワビを養殖する前代未聞の事業に着手しました。養殖しているのは、「エゾアワビ」と「メガイアワビ」を掛け合わせた混合種の「ハイブリット種」稚貝(25?35ミリ)。病気に強く、7?8cmの一口サイズになるまで育てて出荷しているそうです。購入して早速に食べましたが、肉厚で美味でした。
 かつての学び舎で、現在はアワビがすくすくと成長し、卒業していくため「学校アワビ」としてその人気は徐々に広がっています。

教室でアワビを養殖する
教室でアワビを養殖する

校長室もあわびの養殖場
校長室もあわびの養殖場


地域で輝き隊が作った「学校あわび」の看板
地域で輝き隊が作った「学校あわび」の看板

 「学校アワビ」の大垂れ幕は大分大学経済学部の学生の「田舎で輝き隊!」が作成したものです。「田舎で輝き隊!」は、大学における座学だけではなく、地域の生の声を聞き、様々な体験から学ぶ現場主義の活動で、臼杵以外でも班を作り、大分県内の農山漁村に飛び出しています。地域も学生との連携で元気になっています。


 「磯端会議」の取り組みは、これだけに留まらず実験的にウニ養殖や太刀魚の天ぷら、魚のすり身製造(アジや太刀魚など)といった水産物加工を行いつつ、学校前では写真のような「無人販売」をしたり、車で街やイベントに出かけてアワビや地元でとれた野菜、魚介類を販売したりしています。

すり身から開発したGYOSONコロッケ
すり身から開発したGYOSONコロッケ

販売車はGYOSONマークにクレームが付き、磯端会議マークに変更
販売車はGYOSONマークにクレームが付き、磯端会議マークに変更


まちの魚っとステーション
まちの魚っとステーション

 牛乳瓶を魚に変えただけという大手コンビニのロゴを真似たマーク「GYOSON」に本家から「やりすぎ」との苦言もあるようですが、洒落っけたっぷりでしたたかな取組は「あっぱれ!」。

 6月から天気が良ければほぼ毎週行われている地引き網も人気ですが、「学校を拠点に地域で喜ばれる取組みを続けたい」とする磯端会議は、今後こうした取組みのほか学校の2、3階を利用してパソコン教室や料理教室など開催していきたいとのことでした。


学校がご近所さんも集まる場に
学校がご近所さんも集まる場に

毎回人気の地引き網体験
毎回人気の地引き網体験


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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