大分県臼杵市は県南部に位置し、温暖多雨の南海型と瀬戸内海型が混在する気象で、多彩な農水作物がある食素材の宝庫です。人口4万人弱ですが、その歴史は古く、キリシタン大名で有名な大友宗麟が築城した臼杵城や江戸時代の町並み、武家屋敷などが残る城下町からは、「春は名のみの風の寒さや 谷のうぐいす 歌は思えど?」の「早春賦」を作詞した吉丸一昌さんが生まれました。
市中心部から海岸沿いの綴れ折りの狭隘な道を車で30分ほど走らせると深江漁港に到着します。そこの深江小・中学校は平成20年(2008)3月に閉校しました。閉校が決定したとき、地区民は仕方ないと思う一方で、自分たちが学んだ学校が消えれば地区の拠り所がなくなる、コミュニティも地区への愛情が希薄になってしまうと苦慮していました。
廃校当時、深江区長会会長の薬師寺正治さんは、「自分たちの学校が幽霊屋敷になるのを見たくない。何とかしてえなぁ」という地区の思いを市側に申し込み、期限付きで無償貸与を受けることとなりました。とは言っても光熱費などの維持費は地区の負担です。区長会で廃校活用の検討をする中で、長く活動するために、何らかの経済活動を行える拠点がよいとの結論となり、生産組合「磯端会議(いそばたかいぎ)」を設立しました。
20戸足らずの小さな漁村で同校の卒業生6人のメンバーからなる「磯端会議」は、「思い出深い校舎が、やがて朽ち果てるのは、あまりにも寂しい。地域の人たちがここに集まり、にぎやかになれば」との思いから「住民が井戸周辺に集まる井戸端会議」に因み名付けました。
事業の初期投資はほぼ薬師寺さんの出資とのことですが、目の前が海という立地を活かして、1階の校長室や職員室を含む8教室に直径1.2mのタライ600個を並べ、55,000個のアワビを養殖する前代未聞の事業に着手しました。養殖しているのは、「エゾアワビ」と「メガイアワビ」を掛け合わせた混合種の「ハイブリット種」稚貝(25?35ミリ)。病気に強く、7?8cmの一口サイズになるまで育てて出荷しているそうです。購入して早速に食べましたが、肉厚で美味でした。
かつての学び舎で、現在はアワビがすくすくと成長し、卒業していくため「学校アワビ」としてその人気は徐々に広がっています。
「学校アワビ」の大垂れ幕は大分大学経済学部の学生の「田舎で輝き隊!」が作成したものです。「田舎で輝き隊!」は、大学における座学だけではなく、地域の生の声を聞き、様々な体験から学ぶ現場主義の活動で、臼杵以外でも班を作り、大分県内の農山漁村に飛び出しています。地域も学生との連携で元気になっています。
「磯端会議」の取り組みは、これだけに留まらず実験的にウニ養殖や太刀魚の天ぷら、魚のすり身製造(アジや太刀魚など)といった水産物加工を行いつつ、学校前では写真のような「無人販売」をしたり、車で街やイベントに出かけてアワビや地元でとれた野菜、魚介類を販売したりしています。
牛乳瓶を魚に変えただけという大手コンビニのロゴを真似たマーク「GYOSON」に本家から「やりすぎ」との苦言もあるようですが、洒落っけたっぷりでしたたかな取組は「あっぱれ!」。
6月から天気が良ければほぼ毎週行われている地引き網も人気ですが、「学校を拠点に地域で喜ばれる取組みを続けたい」とする磯端会議は、今後こうした取組みのほか学校の2、3階を利用してパソコン教室や料理教室など開催していきたいとのことでした。
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