メインコンテンツ ここから

「地域の健康診断」バックナンバー

0182015.05.26UPコミュニティカフェの重要性

古き良き身近な交流空間「縁側」

 かつて田舎の家々には、必ず「縁側」がありました。それは玄関でないけれど人が訪れる入り口であり、談笑し茶を飲み昼寝をする場所でもあり、時には行商や旅人の雨宿りの無料休憩所にもなっていて、「縁側」は家の中と外を分け繋ぐ、どちらの世界にも属さない公共空間として存在していたのです。
 元来は雨ざらしの「濡れ縁」でしたが、時代劇などをみると縁側に付随した雨戸が付いており、江戸時代に発明されたのでしょう。その戸板は雨風や寒さを防いだり、防犯に役立つだけでなく、担架の代わりや作業台にも応用され重宝されました。
 家が外へ向かって最も開いていたのは、もともと玄関でなく縁側で、縁が深くならないと奥に通されない結界の役目も兼ねていたかもしれません。
 「お茶のみ、お茶ッコ、こびる」など全国各地で様々な呼び名がありますが、午前10時や午後3時頃に近所の親しい人たちを中心に、お茶を飲みながら四方山話に花を咲かせる集いの会がありました。仕事途中の郵便局員や農協の職員をはじめ、面識がなくても「お茶を飲んでいけや」と呼び止められます。地域の祭事や冠婚葬祭に始まり、どこそこで嫁を欲しがっている、あそこの年寄りが寝込んでいるなどの情報から、今年の天候、作柄、興が乗れば下ネタ話まで大らかに語られます。いつしか次の仕事のネタ仕入れにもなっていました。まさに人と人、情報の交流空間であったといえます。
 しかし近代の家からは縁側が消え、古き良き身近な交流空間は、居住空間やプライバシー重視の家に変わり、同時に農村コミュニティも希薄となっていきました。
 現在、それに代わる井戸端会議や情報交換ができる場所が増殖してきました。

雲南市の「笑んがわ市」

笑んがわ市に出店してくる魚屋さんは、もともと移動販売をしていた
笑んがわ市に出店してくる魚屋さんは、もともと移動販売をしていた

 島根県雲南市三刀屋町中野にある「んがわ市」は、まさにその「縁側」を再現した「地域商店」です。昔、縁側で近所の人が寄ってお茶を飲んだりお話ししたりする憩いの場所という「縁側」に「ご縁」と言う意味も込め、この場所で笑いが絶えないように「笑う」という字をあてたと言います。
 平成22年10月に農協合併に伴い、中野地区のJA店舗が閉鎖。地域の農業振興だけでなく暮らしを支えていたJAの支所や生活店舗が消えると、移動手段の無い高齢者の生活に支障が出てきました。近くの小学校や保育園も閉鎖されました。地区中心部は高齢者に限らず、住民が寄り添う拠点が乏しい中での閉店に、地元女性グループが立ち上がりました。
 平成23年6月、空き店舗を利用し、地域の活性化と住民の生きがいや交流の場をつくることを目的として、産直+憩いのスペース「笑んがわ市」がオープンしたのです。

 店舗に隣接するスペースにはお茶コーナーがあり、店舗を運営している地域の女性たちが、それぞれ漬物や煮物などその日持ち寄ったものを食べながら談笑していますが、外部から訪れた方にもお茶代150円をいただき振る舞います。
 「マスコミなどで書いてくれて宣伝にはなったんだけど、近頃外からのお客さんが勘違いして、今日は煮物が無いなど文句を言う。本当にお茶代150円はもらうけど、当番の人たちが自分たち用に持ち寄ったものをお裾分けしているだけなのに」と、この市を仕掛けた石飛真知子さんは、食べ物を要求する場所でないと嘆きます。縁側でお茶をいただく文化を知らない方々には、お金でサービスを受けているとの感覚があるのでしょう。

憩いのスペースには持ち寄りで得意料理や漬け物が並ぶ
憩いのスペースには持ち寄りで得意料理や漬け物が並ぶ

目論見どおり高齢者が集まる
目論見どおり高齢者が集まる


喫茶おはつきに通う看板ばあちゃん
喫茶おはつきに通う看板ばあちゃん

 三重県大紀町野原地区の廃校を活用した「野原工房げんき村」のコミュニティカフェ「喫茶おはつき」も居心地の良い場所らしく、朝から昼まで居座る看板ばあちゃんがいて、住民は会話を楽しみに通ってくるそうです。いつも通ってくる高齢者が訪れなければ、地区の世話役はきっと心配になり家に訪ねるでしょう。
 地域福祉とはそういうもので、田舎こそカフェやサロンが必要であることを如実に物語っています。情報交換や人の関係性を高める空間の必要性を再認識するものでした。


このレポートは役に立ちましたか?→

役に立った

役に立った:3

地域の健康診断

「地域の健康診断」トップページ

エコレポ「地域の健康診断」へリンクの際はぜひこちらのバナーをご利用ください。

リンクURL:
http://econavi.eic.or.jp/ecorepo/together/series/29

バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

前のページへ戻る