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「地域の健康診断」バックナンバー

0092013.05.07UP休校・廃校を活用する(1)

廃校を社会的要因と逃げない

昔のままを残す教室(熊本県)
昔のままを残す教室(熊本県)

閉校の時間で止まった時計(岐阜県)
閉校の時間で止まった時計(岐阜県)

 廃校に係わりだしたのは2007年からですが、毎年廃校となる学校が増加していることに少子化を実感しています。ここ数年の廃校発生数(文部科学省データ)をみると平成16年の577校をピークに毎年450から500強の小中高校が廃校となっています。出生率が下がり、国内全体が少子高齢化となっているのだから仕方がないと諦めるのは簡単ですが、それらを要因とする地域社会の歪みは多大です。さらに平成の市町村大合併や地方財政の悪化により学校統合などで廃校が顕著となりました。
 「廃校」、何とも悲しい言葉です。学校は住民とともに歴史を刻み生きてきた場所であり、地域アイデンティティの核です。そのため廃校に至るまで、その学校区で様々な葛藤があったことでしょう。
 「子どもの声が消え、地区そのものが死んでしまったような感覚がした」
 命を削り取られたような“つぶやき”を廃校となった地区で聞きました。しかし、昨今の地方を取り巻く厳しい状況から、身を切る思いで休校・廃校を地域住民が選択しています。
 休校や廃校は大切な地域資源ですが、活用しなければ活性化のツールにならないし、コストのみ掛かる無用の長物です。行政とすれば財政が逼迫している状況でもあり、できれば取り壊して土地を転売するほうが得策です。しかし大規模施設を取り壊す財源はありませんし、地域のシンボルで拠り所である学校が消えることは抵抗があります。
 地域の活力を削ぐ結果となってまでは強行できないと思いますが、使用するには維持費が掛かりますし、従前のままでの活用も難しく改修しなければなりません。行政は苦渋の選択を迫られ、できるだけ結論を先延ばしし財産も教育財産からいつか一般財産に移行し、塩づけ状態で月日が経つことを祈るわけです。

活用の実態

飯田市杵原学校(国指定文化財)
飯田市杵原学校(国指定文化財)

 全国の廃校で建物が現存しているのは約3300校で、その約7割は何らかで活用されています。使用実態は新たな教育施設として生まれ変わったものや地域コミュニティの拠点から、美術館、宿泊機能を有した観光拠点ほか千差万別で実にバラエティに富み、地域個性が反映されています。
 文化的歴史的に価値がある木造校舎であれば保存活動も熱心ですが、最近の傾向は築20?30年程度の鉄筋コンクリート造りで、耐震基準に満たない校舎などの遊休化が目立ってきました。
 文化財的価値を有せず個性のない校舎でも用途は様々にあります。ユニークさで話題になった栃木県那珂川町の旧町立武茂小でのトラフグ養殖や新潟県の越後妻有(十日町市と津南町)で開催している「大地の芸術祭」における廃校活用などは極端な事例ですが、自然学校やツーリズムの拠点として改修して活用しているところもたくさんあります。とはいうものの地域愛の欠如した感のある活用は運営上で様々な問題が発生するのでご注意願いたい。

絵本になった小学校(新潟県)
絵本になった小学校(新潟県)

アイスクリーム工場へ変貌した学校(北海道登別)
アイスクリーム工場へ変貌した学校(北海道登別)

廃校は自らの責任、だから自ら活用を

大規模施設の廃校で活用に苦慮(山形県)
大規模施設の廃校で活用に苦慮(山形県)

 廃校をそのまま保存などという卒業生たちのノスタルジーで残すほど、市町村財政に余裕はありません。休校・廃校を地域の未利用資源として捉え、被害者意識の地域エゴでなく、地域の将来像(地域が生き残ること)を住民が考え、共有し、住民が行動し、未利用施設を有効活用することが今問われているのです。そのために廃校自身も運営や財源を含めて自立することが求められます。つまり廃校を活用することは地域への社会貢献となるのです。
 できない理由探しをするのではなく、できること探しをしなければ、いつまでたっても利活用はできません。学校へ通う子どもがいなくなったのは社会的要因が大きいのですが、その一因に、子弟を都市へ送り出してしまった親世代の責任もあるのです。
 まず大切なことは廃校にしないように子どもを産み育てる環境を整えることです。そして廃校となっているところは、廃校を新たな地域拠点として雇用を発生させ、暮らすことができる環境をつくることです。

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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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