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「地域の健康診断」バックナンバー

0302018.06.05UP真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)

宇和島の養殖真鯛

 現在の「宇和島の鯛」は、配合飼料や養殖場の環境向上を進めてきた結果、脂ののり具合が天然鯛と遜色のなく、真鯛の養殖で日本一の愛媛県の中核を担うエリアとなっています。
 宇和海は太平洋からミネラルや栄養を豊富に含む黒潮が流れ込む豊かな漁場です。しかし養殖業の発展は赤潮の発生(養殖生命体の老廃物、死骸による塩の過剰供給を指摘する研究者も多い)というマイナスの側面も出てきました。2012年には170万匹の養殖魚が被害に遭い、約12億円の損害がありました。2014年、2015年も約1億円を越え、昨年も約250万円と赤潮の被害は深刻です。

遊子水荷浦(ゆすみずがうら)

遊子水荷浦の段々畑と宇和海の養殖筏
遊子水荷浦の段々畑と宇和海の養殖筏

 宇和島市西部の宇和海に飛び出す三浦半島(蒋淵(こもぶち)半島)の中央部に位置する遊子水荷浦(ゆすみずがうら)は、江戸時代から昭和30年代までイワシ・鯛漁で生計を立てる漁村でした。しかし回遊魚の不漁が続き、魚を捕まえる漁業から“育てる漁業”である養殖業に転換しました。
 天保の時代から開拓されていった段畑(だんばた)は、幅・高さとも1メートルほどの石垣がはるか山頂まで続いており、「耕して天に至る」と形容されています。この絶景は「日本農村百景」「宇和島24景」、平成19年には全国で3例目の「国重要文化的景観」にも選定されており、石垣の段畑と海の景観は、近頃流行の「インスタ映え」します。
 かつてはサツマイモ、そしてジャガイモで高収入のあった段々畑も収入が減り、養殖業が発展すると徐々に耕作放棄地が増えてきましたが、現在は地元の「段畑を守ろう会」が中心となり、ジャガイモ生産を復活し、さらにジャガイモ焼酎の開発、「だんだん祭り」や子どもたちの体験などのイベントを開催し盛り上げています。

山内満子さんの取組

三代目歌吉の店と山内満子さん
三代目歌吉の店と山内満子さん

 遊子に嫁いできた山内満子さんは、遊子漁業協同組合女性部に所属し女性部長や愛媛県漁協女性部連合会副会長、宇和島ブロック漁協女性部連絡協議会会長などを歴任し様々な活動を展開してきました。
 特に平成22年から「遊子ブランド」のPRのためキッチンカーで県内外のイベントに出張する「遊子の台所プロジェクト」は、全国青年・女性漁業者交流大会で「農林水産大臣賞」、さらに農林水産祭の水産部門で「内閣総理大臣賞」ほか8つの受賞をする快挙となりました。今年も大人気の「鯛(Utai)バーガー」を販売する「遊子の台所」キッチンカーには出店依頼がひっきりなしに入っている状態です。
 現在は役職を全て降りて、スリーラインズ(株)代表で頑張る満子さん。山内さんのところの「歌吉鯛」と名付けた鯛は、ゆったりした生け簀でストレスを減らし、かつ時間を掛けた手法を取っているため、天然鯛にひけを取らない「見て美味しく、食べてなお美味しい」が売りです。
 さらに「歌吉鯛」を遣って、世界料理オリンピック銅賞の受賞、JR四国“伊予灘ものがたり”の料理等をプロデュースする近藤和之氏(フランス料理アカデミー会員)に監修してもらい、鯛のデザインを山内敏行氏が手がけた、「愛(め)でたい」という鯛のパイ包みを結婚式のお祝い用に提供しています。
 「三代目歌吉の店」で前菜からメインまで鯛のフルコースを頂きましたが、鯛の美味しさを極めた料理に舌鼓を打ちました。

歌吉鯛
歌吉鯛

鯛のパイ包み「めで鯛」
鯛のパイ包み「めで鯛」

歌吉鯛の各部位の食べ比べ
歌吉鯛の各部位の食べ比べ

絶品の鯛茶漬け
絶品の鯛茶漬け


陸上で海苔を養殖する

 海苔の養殖は徳川家康が奨め、江戸前の海苔が大量に養殖されたことで、庶民の口に入るようになりました。現在の板海苔も江戸時代に和紙製造の手法を参考に発明したものです。
 前述したとおり宇和海は毎年の赤潮に悩まされており、山内さんは赤潮の心配をしなくて良い陸上での海苔養殖を始めました。井戸海水をくみ上げてつくるスジアオノリの「きぬ青のり」は、まだ大量生産とはいきませんが、周年養殖を目指して、絶品の海苔を少しずつ販売できるようになりました。

 将来の子供たちのために、そして「遊子の未来のために」と満子さんは今日も駆け回ります。

陸上での海苔養殖
陸上での海苔養殖

陸上での海苔養殖


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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