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「地域の健康診断」バックナンバー

0482022.09.20UP小田原なりわいツーリズム

小田原の成り立ち

総構の堀

 小田原と言えば、歴史好きには小田原城や小田原評定を連想する方が多いでしょう。「小田原提灯ぶら下げて♪」の歌を思い出す方、食いしん坊の方はカマボコが浮かぶ方もいるでしょう。

 現在の小田原の城下町は戦国時代の北条早雲が、相模国を統一したときで、NHK大河ドラマで描かれた鎌倉幕府執権の北条氏とは縁もゆかりもありません。

 豊臣秀吉による小田原攻めまでは、平城(ひらじろ)でありながら、延長9kmの外郭をぐるりと囲んだ「総構(そうがまえ)」が、長期籠城戦でも自給自足が可能であり、全国の大名に総動員を掛けた秀吉軍以外は包囲もできず、難攻不落と言われました。

 のちに前田利家が金沢の城下町を整備する際、同様に総延長は約9km総構えを採用していますし、徳川家康も江戸城下町の整備で、総構えの考え方を取り入れるなど、先見性のある城構えだったと言えます。

 古くから東海道の宿場町として発展しており、現在も鉄道や幹線道路、さらに駿河湾を控える小田原港があり恵まれた環境に加え、明治時代には政財界の要人や文化人をはじめ多くの著名人が、小田原に別邸を構え交流による歴史文化を育んできました。

 しかし一大商業集積地であった中心市街地も、人口減少や店舗の撤退など次第に衰退していきました。

 その解決策の1つとして、「なりわい交流館」や「街かど博物館」を核とした「まちあるき」体験を市民中心で進めています。


小田原なりわいツーリズム

案内人の平井丈夫さん

 「なりわい」とは、漢字で「生業」と書き「せいぎょう」と読み、生計を立てていくための仕事です。元々は「なりわざ」と読んでおり、「技能」が根本であることから、自営業を営む者が中心の言葉です。

 小田原市ではそれを「なりわい」と表現し、その定義を「日々の暮らしをより豊かにする営みと風土」としています。

 市では小田原城の再建や駅前の再開発などのハード事業で観光客の受入環境を整えながら、街中に残っていた生業や農林水産業、古くから蓄積された文化を活用する方向で、日々の「なりわい(生業)」をメインとした「まちあるき観光」の「小田原なりわいツーリズム」を開始しました。

 小田原の名産は前述した提灯やかまぼこだけでなく、梅干や干物、ろくろや寄せ木の木工、そして昭和当時の発明品「冷凍ミカン」もあります。これらばかりでなく市民の日常に当たり前のようにある食文化が埋もれていたのです。

 本プログラムの肝は、小田原が有する「なりわい」と「暮らす人」です。これは日常の観光化であり、暮らしている人々をリスペクトできないと事業は成立しません。

 「なりわいツーリズム」が、いわゆる観光収入だけを目指すのではなく、生業の活性化を図り、住民の元気を創造しようとする考え方が根底にあるからなのでしょう。

 どこにでもある日常は、実はどこにもない、その地域だけのもので、本質的なモノ・コト・ストーリーに触れる「なりわいツーリズム」を担う案内人の語りには、まちを愛してやまない熱い思いが語りからヒシヒシと伝わってきます。


地域をオープンにすること

小田原駅の提灯

 地域をオープンにするには、まず地域にどのようなメリットをもたらすかを事前に想定し、事業の中にあるべき姿を埋め込む必要があります。

 観光客が「質」や「価値」を追求する傾向が見えています。その高質の観光客は現地での体験に関心が高く、地元の良質な品々を求めます。仕込み方でまちあるき観光は滞在時間を延長させることができ、お金を落としてくれます。

 古くより栄えた産業(生業)文化に触れてもらう「なりわいツーリズム」に参加してくる観光客は、地元ガイドを活用したり、ローカルな飲食店に立ち寄ることで、滞在時間や消費額が伸びるなど中小の地元店にとっても重要なお客様となります。

 地方は相変わらず旅行者の数のみにフォーカスしていますが、アフターコロナでは、オーバーツーリズムの軽減や地域を保全するサステナビリティの確保、さらに地域住民が当事者になることが大切です。

 地域をオープンにした「なりわいツーリズム」は、知的好奇心を満たすプログラムであり、かつ身近に地元の方々と触れ合うことができ、市民の暮らしを大切にした事業です。


小田原城と小田原市街を望む


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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