厚生労働省が6月に発表した2020年の人口動態統計によれば、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が1.34となり、5年連続の低下している状況です。
地方自治体では何とか人口減を緩和しようと、一生懸命に大都市からの移住・定住を促しています。たしかに最近ではコロナ禍という外部要因もあり地方移住の流れも出ていますが、大きなムーブメントとは言えません。
子育てしやすい条件は、教育と医療が充実しているかが重要な要件ですが、地元では幼稚園や保育園、小中学校が閉鎖され、どう考えても子育てしやすいとは言えません。
文部科学省の発表では、平成14年から令和2年にかけて8,580校(令和3年5月1日現在)が廃校となっています。財政健全化とか効率ばかりに目がいってしまい、子育てや移住施策が「ちぐはぐ」なのです。
休廃校する上で「友達がいないと可哀想」は、地元やPTAへの表向きの説明ですが、本質は都道府県や市町村の苦しい台所状況にあります。しかし統廃合で校舎を新増築すれば、平均で20億円前後、既存施設を使う場合でも600万円弱かかるばかりでなく、通学範囲の拡大に伴い通学バスの確保が必要となります。
新築には国から補助金が出ますが、廃校の跡地利用をするとなれば、自前で数億円の財政支出を伴うなど、どう考えても地方財政の健全化とかけ離れているのです。自治体財政が逼迫している状況では、取り壊して土地を転売するほうが得策ですが、取り壊しを選択しても古い施設はアスベスト除去だけで大変な費用を要するため活用できない廃校も増加しています。
福知山市は廃校施設を、改修などをせず転貸や転売をする手法を取っています。これを良い悪いで論じるつもりはありませんが、廃校も大切な地域資源であり、活用しなければ活性化のツールになりません。何もせず塩漬け状態で朽ち果てるのを待っているよりは良いでしょう。
川合地域にある旧河合小学校は、平成27年に閉校しましたが施設の跡地利用が進まず、住民の心のシンボルが朽ち果ててしまう状況でした。この状況を打破したいと住民有志がカワイ・リバース・プロジェクトを立ち上げ廃校活用に乗り出しました。リバースには「川」と「復活」そして「逆転」の意味を込め、これからワクワクする場を創りたいとの思いを込めたそうです。
廃校は市の支援はなく資金も無いため、何も足さずそのままで貸館としました。あくまでも管理するのみで、そこで借りたものが何をするかには一切口を出さないことで、経費を節減しつつ住民には川合地区には「できることはある」「魅力がたくさんある」とみせたのです。
代表の土佐祐司氏は、廃校活用は1つのツールであり、ゴールとして考えていません。図を見れば明らかなように、地区の活動をSDGsの目標に当てはめ、ゴールを「誰もが住み続けられる村コンパクトINAKA」としていることです。施設はいずれ老朽化し使用できなくなるでしょうが、そのときに最終目標に達していれば、地区の課題は解決しているでしょう。
川合地区の持続的社会に向けた旅路を伴走するカワイ・リバース・プロジェクトです。
1999年に閉校した豊里小学校は、2000年に「綾部市里山交流研修センター」として生まれ変わり、その運営は市職員が行っていましたが、同時にNPO法人「里山ねっと・あやべ」を設立し、里山を活用した都市農村交流や定住促進、さらに次世代の子供たちと地域を繋げることを目的に活動してきました。
しかし施設が老朽化し安全が担保できないと判断した市は、様々な検討をする中で、校舎を取り壊し新たな拠点を設置することとしました。この決定に至った大きな要素は、「里山ねっと・あやべ」の根気強い活動が、地域に不可欠な機能であると認知されたからであり、施設そのものでなく地域ポテンシャルを向上してきたことと想像できます。地区の歴史的文脈から、常に実現したいビジョンに向けて、NPOが中心となり具体的な活動を模索し、ソーシャルイノベーションを生み出したと思えました。
全国でも廃校活用の先で、新たな施設を設置する事例はありません。廃校活用の未来を感じさせる新たなケースでしょう。
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