NHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」のモデルの蓬莱島がある大槌町は、3.11東日本大震災による大津波で1,200名を越える町民が尊い命を奪われ、賑わいのあった街は壊滅しました。3階建ての町庁舎も津波に襲われ、町長・幹部ほか行政職員33名が犠牲になりました。あれから2年半、復旧復興に向けたインフラの槌音が各所で響いています。
この復興計画は3ヶ月という短期間で住民の復興協議会に提示されました。防潮堤の嵩上げや土地利用区分などを盛り込んだものですが、復興を急ぐあまり、行政主導の決定案に対して住民への周知が不足したことで、町民の間に疑義や不満が噴出しました。これは一方的に行政が悪いのではなく、多くの職員が犠牲になったため、震災後に地元人材が決定的に不足するなかで、住民とのコネクションもなく、風土や地区の事情を知らない他地域からの行政職員の応援に頼らざるを得なかったからです。
平成23年11月11日、復興計画は行政と町民で合同プロジェクトの運営を行い、事業を試行することで信頼を勝ち得なければいけないと判断。未来の大槌町の「あるべき協働のカタチ」を具現化するため、町民や専門家を含め幅広い知識や行動力を結集する「一般社団法人おらが大槌夢広場」が設立されました。
最初に手を付けたのが「おらが大槌復興食堂」と震災に関する資料を集めた「復興館」の開設でした。大槌町に支援で訪れる人へのおもてなしと大槌の将来を語り合えるサロンとして、さらに雇用機会を提供する意味を込めた交流拠点には、町の復興計画や人々の動きを知らせる「大槌新聞」や震災前の町の記憶を辿るジオラマ、災害時の写真などが置かれています。
同法人のメイン業務は“皆が共に夢を見つけ、育て、叶える場所です。そのために人が人を育て、人がまちをつくる事業を行っています”という理念からくる「人づくり」からの「まち育て」です。震災後に勃興したビジネスは、どこからか拾ってきた模倣や改変した商品・サービスで、将来を見据えたとき過当競争になることが懸念されました。地元住民にも「雇用されること=働くこと」という固定観念がありました。まずはこれらの考え方を変える必要がありました。
そこで「おらが大槌夢広場」では、ビジネスを高度化する、ニュービジネスにチャレンジしたい人をバックアップすることに着手しました。震災によりやむなく失業状態になった人や、故人の思いを実現したい人など、従来型のコミュニティ・ビジネスでは採択されにくい案件も想定されます。被災地の実情が考慮されないありきたりの戦略や手法の起業家育成セミナーでは、お茶を濁す程度でリアルな仕事づくりとなりません。
この課題を打開するには、“志やビジョンに裏打ちされた起業家精神で、革新を事業体の文化に昇華させること”が重要と判断し、起業者の育成過程では成長ステージや地域特性、被災地ならではの事情を考慮しながら、一人一人ハンズオン型のサポートとしました。
そのひとつの事例で、復興食堂で働いていた28歳の若者が2013年2月に、イタリアンレストラン「バールリート」を赤浜にオープンしました。まだまわりは津波の爪痕がそのまま残り街からは外れた立地でしたが、仲間の支援もあって、開店時から若者を中心に中高生たちが多く訪れ賑わっています。オーナーは「震災が自分を変えた。自分たちのような若手が良い町にして、人がたくさんきてもらえるようにしたい。チャレンジの見本になりたい」と力強く言います。
さらに同法人は子どもたちに蓄積する喪失感や焦燥感などの感情を払拭して地域の未来を託したいと「こども議会」の運営という実にユニークな取り組みをしています。
20?25名の女子高生を集め毎月実施する「こども議会」では、大槌の復興に向かって自分たちは何ができるか、より若い世代の子どもたちをどう集めるかなど試行錯誤の中で毎回真剣に論議しており、2012年は4回の議会を経て町長に3つのプロジェクトを提案しました。この活動から“内陸×沿岸”の女子高生料理対決やガールズコレクションへの招待といったスピンオフ企画も飛び出しました。
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