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「地域の健康診断」バックナンバー

0062012.08.14UP小学生が地域を育んだ-広島県庄原市比和町三河内地区-

「たたら」の郷、比和町三河内(みつがいち)

三河内風景
三河内風景

 広島県庄原市比和町は「古事記」でイザナミを埋葬した「比婆山」(幻の「ヒバゴン」がいると騒がれた山)がある場所です。この比和町に属する三河内は、「砂子」「鍛冶屋」「かなくそ」「かんな」などの屋号も残っており、古くは「韓鍛冶部(からかぬちべ)」に由来した「神戸(かんべ)」あるいは「韓戸(からべ)」と呼称され、千年以上前から製鉄を生業にする民が生活していたことをうかがわせます。
 江戸時代には「鉄穴流し(かんなながし)」という砂鉄採集が大規模に行われていました。鉄穴流しは、岩石中にある砂鉄を川や水路の流れを利用して、比重の差によって土砂と砂鉄に分離して、鉄のみを取り出す手法です。そのため下流域に河川を埋めてしまう大量の土砂が堆積しました。土砂を有効に利用するため、そこを整地して田畑をつくり、たたらの工人たちの食糧を補う耕地としました。
 「鉄穴残丘(かんなざんきゅう)」と呼ばれている森のような小さな丘も、「たたら製鉄」の名残です。花崗岩に多く含まれる鉄を、鉄穴流しで砂鉄として取り出し、その砂鉄を加熱して溶かすやり方が「たたら製鉄」です。固くて崩せない花崗岩の岩がそのままポツリポツリと残り、時代を経て森や畑と変わり、美しい現在の棚田風景となりました。

ヒゴダイを復活した小学生

 昭和20年代ころまで、農業では牛や馬が、耕す・運ぶために重宝されました。糞尿も有機肥料として大事な資源になりました。そのため道路や水路の際や草地の草、そして田んぼの畦草は牛馬の餌であり、土手などは一年中見事に刈り揃えられ、美しい田園風景が拡がっていました。近年、省力大型化を旨とする機械化や化学肥料の利用など農業生産の変化から、使役のために牛馬を飼育することもなくなり、餌としての土手草は必要とされなくなりました。
 そして、里山の草地や田畑の土手の草刈りは、手が掛かる厄介な作業としか見られなくなり、舐めるように刈られて、美田を誇った農村風景が次第に姿を消していきました。
 三河内も例外ではなく、昭和30年代に耕耘機の普及と対照的に土手や草刈り場が放置され、この地域で「ぼにばな(=「盆花」)」として手向けられていたヒゴダイやオミナエシ、ワレモコウなどの貴重な植物が絶滅しかけていました。
 環境省レッドリストで絶滅危惧種に指定されている「ヒゴダイ」は、キク科ヒゴダイ属の多年生植物で、九州の阿蘇山周辺の草原に多く自生していたため、漢字表記では「肥後躰」と書きます。アザミに似た葉っぱでトゲを持ち、1m以上直立した先端に青い球形の花が咲きます。
 三河内地区では絶滅しかけいたヒゴダイを地区内の一人が保存しており、たまたま三河内小学校の校長先生が、種をもらい学校で育てていましたが、2000年にある大学准教授が「国内に二千株しか残っていない大事な花」と学校で話したことがきっかけとなり、子どもたちによる保存活動に着手しました。
 子どもたちがヒゴダイを「地域の宝だ」と盛り上がる中で、校長先生も「総合的な学習の時間」で、地区の誇りを持続ける子どもたちの活動として位置づけ、小学校ぐるみで一生懸命に育て、さらに家庭へ種を配布しました。「ぼにばな」をスーパーなどで求めていた住民も「昔はこんな花を土手から取ってきて飾っていた」と振り返る機会となっていきました。
 数年の児童の活動は、地域住民を巻き込み、地域の保存活動団体「ヒゴダイの会」が結成されたのです。三河内地区は、「ぼにばな」と「たたらの郷」になるという快挙を成し遂げました。

 大人のちょっとした「きっかけづくり」や「場づくり」で、大事な資源の継承や地域の担い手が自然にできていく。そして子どもたちが「ここが好きだ」と誇りを持って言える地域になる。こうした取り組みが少子高齢化の進行を防ぐ最も良い施策ではないでしょうか。

2000年ヒゴタイの花観察
2000年ヒゴタイの花観察

2003年ヒゴタイの苗移植
2003年ヒゴタイの苗移植


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」-広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」

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