2020年以降、新型コロナウイルスの影響により、オーバーツーリズムと言われたインバウンドは消滅し、国内旅行も緊急事態宣言やまん防により、地方の観光は壊滅的な打撃を受ける一方で、ワーケーションなど、新たな旅のトレンドがいくつか生まれてきた。
また地域や個人を応援するエシカル消費や災害ボランティアなど、多様な考え方が浸透し出している。
さらにコロナ禍におけるソーシャルディスタンスが福に転じ、自然に親しむキャンプやアドベンチャー・ツーリズムなどのニーズが高まっているとともに、地球温暖化を身近な危機と捉えるようになったことで、自然環境や地域、歴史文化などに配慮したサスティナブル・ツーリズムも徐々に浸透してきている。
こうした中、地域自治体の対応には温度差があり、観光客誘致のために活動を活発化させる自治体と、亀のように首をすくめ嵐が過ぎ去るのをただ待っている自治体に二極化しているように思う。
凪を待つ自治体は、補助金・交付金をはじめとする国への依存度が高いところが多い傾向もあるように思われる。これは首長の資質によるものが大きいが、職員も目の前のルーチンワークで毎月の安定した給与に安住しているのではないだろうか。
行政も住民も基本的にSDGsやサスティナブル・ツーリズムへの理解が十分とは言えない。
どれほど苦しい財政でも自治体職員の資質向上を重視しなければ、地域は衰退していくばかりだ。地方自治体はSDGs的視点で職員自身の視座を高めることや見つめなおす機会を与えることが重要だ。
そうした学びによって職員に行動変容が起きれば、地域自体が必ず変化するはずだ。
例えば岡山県西粟倉村では、各課でSDGsの目標を設定し、自分が所属する課では「こういうことを目標に仕事をしています」と窓口に掲げ、住民に理解を求めている。
行政内部で何らかの計画を作っても住民へのPRが不足すれば、自分の暮らしと行政の業務に齟齬が生じてしまうが、西粟倉村の取組はその点で非常に判りやすい。
「カラーホイール」と呼ばれる流行のSDGsマークを胸に着用しても、住民には理解されない。ある意味グリーンウォッシュと言っても過言ではない状況である。
経済発展と環境の双子の課題を解決するために生まれたのがSDGsである。パンデミックにより、世界中の人々がそのSDGsの重要性を認識するようになった。
従来の観光は「資源消費型」である。旅行業界も地元資源に依存し、消費することで自らの糧としてきた。ある意味で旅行業界の「不都合な真実」である。
コロナ禍で県外ナンバー車が嫌われ、大都市からの観光客が忌避された根っこにあったのは、観光は自分たちの生活を脅かすだけで、何のメリットも与えてくれなかったという意識だったろう。
そうした中で現地のコミュニティへの配慮を重視する旅行者や「本物の体験をしたい、文化遺産の保護が不可欠」と考える人が増加しているのである。
しかし一方で、サステイナブルな宿泊施設が少ないことや現地での体験が陳腐であり不満を抱いているのも事実である。
SDGsでは「地球上の誰一人取り残さない」をスローガンに掲げているが、現在、パンデミック下であまりにも多くの人々が取り残されている。
世界的にはウイルスの脅威や気候変動、戦争などの被害を最小限に食い止め、経済を復元していく「グリーンリカバリー」の実現が重要となっている。
地方で行わなくてはいけないのは、地域環境の保全や歴史文化の継承をすることである。
そのために実施するのがサスティナブル・ツーリズムだ。
サスティナブル・ツーリズムが地元住民に理解されれば、日常から地域全体で情報発信する体制が整う。住民が無敵の地域セールスマンにもなる。
イベントでの観光プロモーションではなく、地域の観光素材を見直し、持続的な観光コンテンツに昇華することである。
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