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「地域の健康診断」バックナンバー

0462022.03.29UP地域の価値創造-サスティナブル・ツーリズム-

新たな旅のトレンド

 2020年以降、新型コロナウイルスの影響により、オーバーツーリズムと言われたインバウンドは消滅し、国内旅行も緊急事態宣言やまん防により、地方の観光は壊滅的な打撃を受ける一方で、ワーケーションなど、新たな旅のトレンドがいくつか生まれてきた。
 また地域や個人を応援するエシカル消費や災害ボランティアなど、多様な考え方が浸透し出している。
 さらにコロナ禍におけるソーシャルディスタンスが福に転じ、自然に親しむキャンプやアドベンチャー・ツーリズムなどのニーズが高まっているとともに、地球温暖化を身近な危機と捉えるようになったことで、自然環境や地域、歴史文化などに配慮したサスティナブル・ツーリズムも徐々に浸透してきている。

SDGsやサスティナブル・ツーリズムへの理解は十分か?

 こうした中、地域自治体の対応には温度差があり、観光客誘致のために活動を活発化させる自治体と、亀のように首をすくめ嵐が過ぎ去るのをただ待っている自治体に二極化しているように思う。
 凪を待つ自治体は、補助金・交付金をはじめとする国への依存度が高いところが多い傾向もあるように思われる。これは首長の資質によるものが大きいが、職員も目の前のルーチンワークで毎月の安定した給与に安住しているのではないだろうか。

 行政も住民も基本的にSDGsやサスティナブル・ツーリズムへの理解が十分とは言えない。
 どれほど苦しい財政でも自治体職員の資質向上を重視しなければ、地域は衰退していくばかりだ。地方自治体はSDGs的視点で職員自身の視座を高めることや見つめなおす機会を与えることが重要だ。
 そうした学びによって職員に行動変容が起きれば、地域自体が必ず変化するはずだ。
 例えば岡山県西粟倉村では、各課でSDGsの目標を設定し、自分が所属する課では「こういうことを目標に仕事をしています」と窓口に掲げ、住民に理解を求めている。
 行政内部で何らかの計画を作っても住民へのPRが不足すれば、自分の暮らしと行政の業務に齟齬が生じてしまうが、西粟倉村の取組はその点で非常に判りやすい。
 「カラーホイール」と呼ばれる流行のSDGsマークを胸に着用しても、住民には理解されない。ある意味グリーンウォッシュと言っても過言ではない状況である。

西粟倉村が各窓口に掲げるマイSDGs宣言


「資源消費型」観光からの脱却

 経済発展と環境の双子の課題を解決するために生まれたのがSDGsである。パンデミックにより、世界中の人々がそのSDGsの重要性を認識するようになった。
 従来の観光は「資源消費型」である。旅行業界も地元資源に依存し、消費することで自らの糧としてきた。ある意味で旅行業界の「不都合な真実」である。
 コロナ禍で県外ナンバー車が嫌われ、大都市からの観光客が忌避された根っこにあったのは、観光は自分たちの生活を脅かすだけで、何のメリットも与えてくれなかったという意識だったろう。
 そうした中で現地のコミュニティへの配慮を重視する旅行者や「本物の体験をしたい、文化遺産の保護が不可欠」と考える人が増加しているのである。
 しかし一方で、サステイナブルな宿泊施設が少ないことや現地での体験が陳腐であり不満を抱いているのも事実である。

 SDGsでは「地球上の誰一人取り残さない」をスローガンに掲げているが、現在、パンデミック下であまりにも多くの人々が取り残されている。
 世界的にはウイルスの脅威や気候変動、戦争などの被害を最小限に食い止め、経済を復元していく「グリーンリカバリー」の実現が重要となっている。
 地方で行わなくてはいけないのは、地域環境の保全や歴史文化の継承をすることである。
 そのために実施するのがサスティナブル・ツーリズムだ。
 サスティナブル・ツーリズムが地元住民に理解されれば、日常から地域全体で情報発信する体制が整う。住民が無敵の地域セールスマンにもなる。
 イベントでの観光プロモーションではなく、地域の観光素材を見直し、持続的な観光コンテンツに昇華することである。

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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」-サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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