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「地域の健康診断」バックナンバー

0442021.10.19UPヒトを呼ぶパワー(前編)

「田園回帰」の潮流

 長野県飯田市で1998年より始めたワーキングホリデーいいだ。当時、若い世代を中心に都市部から地方へ移住しようとする「田園回帰」の潮流が見えていました。新幹線沿線(東海、北陸、東北)で都内に1時間以内で到達するエリアにIT系を中心としたベンチャー企業を興す若者の東京脱出が見受けられたのです。
 こうした移住者たちは“わざわざ都心にいる必要はない”と考えており、コロナ禍でテレワークが進捗する現在の先駆けのような存在でした。

 また、現代農業2005年8月増刊『戦後60年 若者はなぜ、農山村に向かうのか』(農文協)では、農山村に向かう若者を多く取材し、その要因を分析しています。曰く、終身雇用・年功序列を基本として再生産されてきた戦後の企業社会が一転、雇用の柔軟化と称した雇用形態そのものの変更で、派遣・契約社員、パート・アルバイトなど安価で交換可能なパーツ労働力が大幅に増加したと論じています。取材を担当した甲斐良治氏は、「企業社会に文化としての労働はないことを知った若者たちが、農山漁村の高齢者とともに、新しい文化としての労働を創造しつつある」と書いていました。
 こうした傾向は総務省の「地域おこし協力隊」制度により、ますます顕著な動きとなっており、内閣府が2014年に行った調査によると、都市住民の3割が農山漁村地域に定住してみたいと答えており、2005年に比べて増加しています。


美作市は年齢を問わない受入で活動を活性化

 60歳代以上でも定年退職後の居住地としてUIJターンを想定している方が増加しています。そうした方々は大卒以上で、かつ様々なノウハウを有していることが特徴です。

美作市上山集落の棚田

美作市上山集落の棚田

 美作市地域おこし協力隊の活動で全国的に有名なのは、上川集落の棚田保全活動でしょう。活動の詳細は様々な記事で取り上げられていますので、ここでは書きませんが、その上川集落に大規模な野焼きができると知り、41歳で隊員募集に応募した某氏。目指したのは上川集落で里山保全と薬草による地域医療の活動でした。地域おこし協力隊に着任するまで、全国津々浦々の山・川・海の植物分類と植生管理の研究・調査を仕事にしていましたが、腰を落ち着け里山再生を実践したいと集落に移住し、棚田保全をベースにマイクロモビリティの導入ほか様々な成果を出しています。


上山集落の棚田に導入されたマイクロモビリティ

上山集落の棚田に導入されたマイクロモビリティ

 地域おこし協力隊制度の初期、大学を中退して2011年に美作市地域おこし協力隊員として赴任した藤井裕也さんも、着任1年目は棚田再生で、ひたすら草を刈り続ける毎日を送ったと言います。在任中から積極的に地元の困り事仕事を引き受け、地区住民の信頼を得ていきました。
 在任期で苦労したことを踏まえて、後任の地域おこし協力隊員をサポートしたいと「山村エンタープライズ」を立ち上げました。空き家をシェアハウスにして、さらに「人おこし」で若者の自立を支援する業務をしながら、2015年にNPOとして活動を拡げていきました。
 行政サービスが行き届かなくなるこれからの時代、いろんなことができるポテンシャルを地域おこし協力隊員は秘めていると藤井さんは言います。
 2016年には「人おこしシェアハウス」を開設。カウンセラーや心療内科医、 臨床心理士、 社会福祉士などの専門家に、 地域の企業や農家、お坊さん、地域の高齢者を結集した「ひきこもり支援」の新しいモデルが成果を出しつつあります。


山村エンタープライズの拠点施設

山村エンタープライズの拠点施設

シェアハウス全景

シェアハウス全景


 筆者はこのたび、美作市内の元地域おこし協力隊員のところを回りましたが、とにかく実践能力の高い方々ばかり。藤井さんは、「岡山県美作市の地域おこし協力隊は全国最強」と言い切りますが、そう言うだけのことはあります。
 66歳で岡山県美作市に地域おこし協力隊員として入った方がいます。隊員としては全国最年長でしたが、東京都職員として広報や都心開発、財政、人事ほか様々な業務を経験し、その知見は過疎山村でも大いに役立ちました。隊員時代は観光協会事務局長として多彩なイベントや観光拠点の開発を担い、69歳で卒業した現在は古民家をリノベーションした地域拠点の「山村茶屋」を経営しています。伺ったときにはお目にかかれず、詳細のことを拝聴できなかったので再訪の機会を狙っているところです。
 藤井さんがいう「最強」とは、“過疎地区を盛り上げる多種多様な方法を持ち合わせていること”です。山間集落で、現役の地域おこし協力隊だけでなく、定住したOBたちが有機的に連携し、様々なソーシャルビジネスを展開しています。
(後編に続く)


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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