「この農産物が我が町の特産品だから、何とか加工して付加価値をつけて売りたい」
1980年に大分県から始まった「一村一品運動」は、国の補助金のあと押しもあり全国各地に拡がりました。しかしせっかく大金をつぎ込んだ農産加工所で作ったものが、必ずしも売れるとは限りません。かくて「一村一品」は「一損一貧」と化し、「赤字雪だるま」を作る原料となったところも少なからずありました。でも補助事業で建設した加工所をストップさせれば、国から補助金の返還を求められるので、閉鎖したくてもできないのです。そこでこれ以上税金投入できないと判断した行政は、根本の原因がわからないままで、経営能力が乏しい地元の農家組合や自治会などに「指定管理者」をまかせ施設を投げ出します。地元では、施設を要望した経緯もあり、仕方なく管理者を受けますが赤字体質は変わりません。
さて加工所・農家組合・行政はどうなるか、読者の皆さんなら先行きは読めますね。
山形県最上郡鮭川村は、その名のとおり鮭が遡上する川があり、山形新幹線の終着駅がある新庄市に隣接しています。
日本の国土の65%を占める中山間地域【*】のひとつで、村には大きな産業や観光地がなく、少子高齢化や地域経済の低迷など地域課題も山積。財政も豊かとはいえません。しかし裏返しでみれば、農業・自然環境・歴史文化など、これからの地域社会に重要なアイテムがそろっているのです。
特に絶滅危惧種の「ギフチョウ」「ヒメギフチョウ」が生息する山の神地区と、全国でも稀な「アオザゼンソウ」が群生する米(ヨネ)地区の「米湿原」は、極めて希少性の高い“生物多様性”を維持しています。その国家的な資源とも言える自然環境は住民も認識していて、地区を総動員して環境の保全に努めながら、古くから環境保全型農業にも取り組んできました。
その一方、都市住民との十分な交流がないために、安心で安全な農産物の販路もなく特産品や加工品開発の取り組みもありませんでした。
消費者が本当に必要とする品質と価格に見合った農産物を提供できていない、充分な評価を得ていないという結論に至った村は、キャンプや体験施設を備えた「鮭川村エコパーク」や「羽根沢温泉」を観光・交流の拠点に、地域の伝統や農産物を活用した観光メニューや体験プログラムの開発に取り組み始めました。有機栽培のブランド米「山の神」「里の神」の販売のほか、福島県猪苗代のホテル『ヴィラ・イナワシロ』の元総料理長で山際食彩工房の山際博美シェフの力を借り、エノキ・椎茸・なめこなどのキノコや食用ほうずき、イチゴを新たな特産品として販売できるよう試作を重ねています。
鮭の卵は保護が目的なのでイクラとして売るわけにはいきませんし、卵採取後の鮭は60km離れた海から遡上するので脂が抜け体は傷だらけで流通に乗る代物ではありませんが、加工品にすればなんとかなるかもしれません。
山際シェフには、試作加工した特産品や鮭を使用した24品の地産地消料理を提案してもらいました。
この秋には東京での試験販売やPRを重ね、買ってくれる消費者の意見や視点、いわゆる消費者ニーズを収集して商品のブラッシュアップをする予定です。
平成の大合併を経て、全国3000以上あった市町村は1,800弱となりましたが、ニュース報道などで「えっ、どこなの?」と思うようなわかりづらい市町村が増えたと思いませんか。
小さくても自立の道を選択した鮭川村には、未開発の資源と人材が豊富に存在しています。この資源を、きちんとマーケティングの視点を持って天下一品の商品として売り出せば一周遅れのトップランナーとなれるでしょう。
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