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「地域の健康診断」バックナンバー

0152014.09.02UP持続する過疎山村

消滅可能性都市?

 日本創成会議が「消滅可能性都市896全リスト」を発表して以降、様々な物議を呼んでいます。896市町村の内、523町村は人口1万人以下ですが、単純に過疎地の人口減少問題と捉えるのではなく、子どもを産める年代がいるかどうかという点では気になるところです。
 先頃世界遺産に登録された「富岡製糸場」は女性の大きな働き口でした。養蚕という主要産業があり、地方ごとに経済が循環し、雇用の受け皿となっていたことで、大都市に働き手が集中する必要がなかったのです。

小谷村大網(おたりむらおおあみ)集落のおもてなし

 白馬連峰を西に望む長野県の北西、新潟県と接する小谷村。V字型峡谷で森林率88%の山間地域にあり、1,298世帯、人口3,111人(2014.5末)の山村です。件の「消滅可能性都市896全リスト」で45位に挙げられた村は今、地縁コミュニティを中心に外部から人材を呼び寄せ、暮らしや文化から新たな山村を創造しています。
 新潟県廻りでなければ入ることができない大網集落は、44戸(78人)で高齢化率61.54%、子ども6人で毎年の積雪が3mの豪雪地帯です。
 大網集落では北小谷小学校大網分校が平成5年に閉校したことで、行く末に危機感を募らせた住民が、英国発祥の非営利冒険教育機関である(公財)日本アウトワード・バウンド協会長野校(OBS)を誘致しました。登山ガイド養成を得意とするOBSですが、長野校では自然体験の人材育成だけでなく、地域の暮らしや農林業に積極的に参加し、集落民との絆ができてきました。そして、ここから3万人を超える自然体験のリーダーが巣立つ中で、卒業生の一部がそのまま大網集落に定着する傾向が出てきました。
 現在、OBSをきっかけに都市から次々と若者が移住し、結婚し、子どもが生まれつつあります。集落に定住した若者・家族は15名までになりました。集落の祭で動くのはOBSの人とOB・OGが中心になるなど集落には欠かせない存在となりつつあります。
 「ここは千石街道の要所。塩の道として栄えたときは各地から移住してきた。元々の住民も入れ替わったんだから、これから新しい住民に変わっていけば良い。ポジティブな面を出していけば良いだけだ」と集落の住民は言います。
 このような考えのもと当時、受け入れの中心だった50代の住民は、都市からきた若者を支え、集落の暮らしに馴染ませてきました。
 「20年も経つとお世話になった方々は皆、高齢者。今まで支えてもらってきたけど、これからは私たちが支える番」と定住した若者は力強く言いました。

定住した若者たち(提供:前田聡子さん)
定住した若者たち(提供:前田聡子さん)

真冬の火祭りの主体はOBSと移住者の若者が担う(提供:前田聡子さん)
真冬の火祭りの主体はOBSと移住者の若者が担う(提供:前田聡子さん)

「くらして」と「つちの家」

つちの家
つちの家

 「大網地区が元気になっていく」ことを目的に村が、平成26年3月末に元々あった空き家をリノベーションした交流施設「つちの家」を整備しました。164m2の小さいけれど集落の誰でも気軽に寄れる場所、みんなのやりたいことを実現する場所、外来者の宿泊場所として、ここに集う人々が種をまき、芽を出し成長していく学びの場になること。ここに暮らす人々が、しっかりと根を張り力強く生きていくと言う思いを込めて名付けたそうです。
 「つちの家」は、OBS出身のOB・OG4名で立ち上げた任意団体「くらして」が指定管理を受けました。
 「くらして」の思いをここに転載します。

 私たちはここに暮らす人たちに魅力を感じ、自分が最後に暮らしていく場所を“ここ”と決めた。
 他人のために何のためらいもなく差し伸べられる「おじちゃん、おばちゃんたちの手」に、何度も何度も助けられ心を温めてきた。
 おじちゃんおばちゃんたちが私たちの理想。
 おじちゃんおばちゃんの様に、あったかい百姓になりたい。
 この土地に根を下ろし、人や土からたくさんの栄養を吸収して豊かに育つ木々のように、この場所で暮らす。

「くらして」のメンバー(提供:前田聡子さん)
「くらして」のメンバー(提供:前田聡子さん)


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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