日本創成会議が「消滅可能性都市896全リスト」を発表して以降、様々な物議を呼んでいます。896市町村の内、523町村は人口1万人以下ですが、単純に過疎地の人口減少問題と捉えるのではなく、子どもを産める年代がいるかどうかという点では気になるところです。
先頃世界遺産に登録された「富岡製糸場」は女性の大きな働き口でした。養蚕という主要産業があり、地方ごとに経済が循環し、雇用の受け皿となっていたことで、大都市に働き手が集中する必要がなかったのです。
白馬連峰を西に望む長野県の北西、新潟県と接する小谷村。V字型峡谷で森林率88%の山間地域にあり、1,298世帯、人口3,111人(2014.5末)の山村です。件の「消滅可能性都市896全リスト」で45位に挙げられた村は今、地縁コミュニティを中心に外部から人材を呼び寄せ、暮らしや文化から新たな山村を創造しています。
新潟県廻りでなければ入ることができない大網集落は、44戸(78人)で高齢化率61.54%、子ども6人で毎年の積雪が3mの豪雪地帯です。
大網集落では北小谷小学校大網分校が平成5年に閉校したことで、行く末に危機感を募らせた住民が、英国発祥の非営利冒険教育機関である(公財)日本アウトワード・バウンド協会長野校(OBS)を誘致しました。登山ガイド養成を得意とするOBSですが、長野校では自然体験の人材育成だけでなく、地域の暮らしや農林業に積極的に参加し、集落民との絆ができてきました。そして、ここから3万人を超える自然体験のリーダーが巣立つ中で、卒業生の一部がそのまま大網集落に定着する傾向が出てきました。
現在、OBSをきっかけに都市から次々と若者が移住し、結婚し、子どもが生まれつつあります。集落に定住した若者・家族は15名までになりました。集落の祭で動くのはOBSの人とOB・OGが中心になるなど集落には欠かせない存在となりつつあります。
「ここは千石街道の要所。塩の道として栄えたときは各地から移住してきた。元々の住民も入れ替わったんだから、これから新しい住民に変わっていけば良い。ポジティブな面を出していけば良いだけだ」と集落の住民は言います。
このような考えのもと当時、受け入れの中心だった50代の住民は、都市からきた若者を支え、集落の暮らしに馴染ませてきました。
「20年も経つとお世話になった方々は皆、高齢者。今まで支えてもらってきたけど、これからは私たちが支える番」と定住した若者は力強く言いました。
「大網地区が元気になっていく」ことを目的に村が、平成26年3月末に元々あった空き家をリノベーションした交流施設「つちの家」を整備しました。164m2の小さいけれど集落の誰でも気軽に寄れる場所、みんなのやりたいことを実現する場所、外来者の宿泊場所として、ここに集う人々が種をまき、芽を出し成長していく学びの場になること。ここに暮らす人々が、しっかりと根を張り力強く生きていくと言う思いを込めて名付けたそうです。
「つちの家」は、OBS出身のOB・OG4名で立ち上げた任意団体「くらして」が指定管理を受けました。
「くらして」の思いをここに転載します。
私たちはここに暮らす人たちに魅力を感じ、自分が最後に暮らしていく場所を“ここ”と決めた。
他人のために何のためらいもなく差し伸べられる「おじちゃん、おばちゃんたちの手」に、何度も何度も助けられ心を温めてきた。
おじちゃんおばちゃんたちが私たちの理想。
おじちゃんおばちゃんの様に、あったかい百姓になりたい。
この土地に根を下ろし、人や土からたくさんの栄養を吸収して豊かに育つ木々のように、この場所で暮らす。
Copyright (C) 2009 ECO NAVI -EIC NET ECO LIFE-. All rights reserved.