京都アニメーション(以下・京アニ)の放火により34名の尊い命が奪われました。心からお悔やみを申し上げます。この京アニは「けいおん!」「涼宮ハルヒの憂鬱」などテレビアニメで丁寧な作画や演出力から「京アニクオリティー」と呼ばれていました。
その京アニが2007年に制作した埼玉県久喜市を舞台とする「らき☆すた」は聖地巡礼による町おこしの成功例の一つとされます。今年も「鷲宮神社」の祭礼では「京アニの復活を祈願したい」とファンによる「らき☆すた」神輿が登場し練り歩きました。
その後、長野県上田市を徹底的にロケハンして描いた2009年公開の「サマーウォーズ」や千葉県大洗町を舞台とした「ガールズ&パンツァー」(通称ガルパン)など、人気を博したアニメにファンによる聖地巡礼が現在も続いています。
内閣府もこうしたアニメの聖地巡礼が世界的にも注目されているとして、クールジャパン・コンテンツとして積極的に推進しています。外国人にとって魅力的な日本のサブカルチャーで、アニメ産業は「クール・ジャパン」戦略の起点となるつつあります。海外にも多くのファンが存在する「アニメ聖地」は、ハコモノに依存しない新たな地域振興策として脚光を浴びていますが、一方で、コンテンツの表層だけ依存した結果、失敗しているケースもあります。
近年ではアニメ「君の名は。」の大ヒットで、飛騨市古川町は突然、若い女性たちが訪れる聖地巡礼のブーム到来で、田舎の普通のまちの生活環境は大きく変わりました。
仕掛けたわけではないのですが、ある日突然に観光客が現れ、町の普通の図書館の館内写真を撮る現象が日常化していった「君の名は。」の聖地、古川町では戦略も受入体制も後手に回ったのは仕方ありませんが、まずは地域がそのコンテンツを活用して、どのような観光を組み立てるかの戦略づくりが必要です。
2014年に放映された「結城友奈は勇者である(通称ゆゆゆ)」は、大ヒットのメジャー作品ではありませんが、舞台となった観音寺市は、2017年2月、同市ではアニメ製作会社からのサポートを受け、観音寺中学校(もちろん舞台の学校)の体育館で「讃州中学文化祭 in 観音寺市」を開催。監督を始め製作陣や声優が勢揃いした大々的なファンイベントには、1,400人が訪れるという快挙となりました。
市で掌握している聖地巡礼者は、2016年が1,500人以上で2018年には3,000人を大きく超えています。2017年からは市内の名所を巡るスタンプラリーや声優によるコンサート、5人のメインキャラクターの生誕祭をファンと一緒に開催しています。イベント前後でもJR観音寺駅前から観光案内所にファンが溢れ、普段では余っていたレンタサイクルが、借用済みになる状況でした。
イベントを主催した市では、製作会社から版権許可をもらい、商店街などと協議を重ね公式グッズの製作販売を希望した商店に「ゆゆゆ×観音寺コラボグッズ」の許可を与えたことで、町中で様々なグッズ販売が可能となり経済効果も毎年のように上がりました。2018年では6,000万円との情報もあります。
観音寺市は次のステージへ向かう過渡期に入っています。アニメをきっかけとして市内宿泊施設は土日に限らず、平日もファンと思われる人たちが宿泊しています。さらにイベント時だけでなく市を再訪し、地元ファンとの交流やうどん屋巡り、銭形まつりなど別のイベントにも参加するまでになっており、その効果は見逃せません。
「ゆゆゆ」のポスターがファンを呼び、天空の鳥居がインスタ映えで有名になり、テレビで開運絶景神社第一位となった「高屋神社」があり、近年では訪日客も増加しているとのことです。瓢箪から駒のようですが、このようにアニメコンテンツを、地域の観光資源に繋ぐことや地元を巻き込んでいくことが、継続性を担保する第一歩です。
とは言うものの基本は、ファンの自主性を尊重せずに、中途半端な受入側の作品への思い入れで仕掛けやお膳立てすることは失敗に繋がりますので、官民挙げて本気モードの受入体制づくりが必要でしょう。
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