高知県高岡郡津野町にある『森の巣箱』は、旧葉山村で廃校となった床鍋小学校をリニューアルした、宿泊もできる木造複合交流施設です。
2005年に東津野村と葉山村が合併した津野町は、高知県の中西部に位置します。四国山地の懐に抱かれた林野率約90%の地で、中央部を東西に国道197号線と新荘川が流れ、その道と川沿いに集落が点在しています。
旧葉山村は1950年の8,300人強を人口ピークに、合併前には約4500人弱と半減しました。そのため国道沿線にあった村内の小中学校は1960代から統合が繰り返されました。国道から外れた村南部にあった床鍋小学校は、最後まで残りましたが、1983年の統合で廃校となりました。
この床鍋集落で、以前より過疎高齢化に危機感を抱いていた住民が1996年に立ち上がりました。
「現状では集落は過疎化、高齢化がすすみ、このままでは消滅のおそれがあるから、活性化の取組みを行いたい」と村に助言を求めつつ、まずは自分たちができる活動からと道路の支障木伐採を開始。
2000年には高知県のソフト事業『集落再生パイロット事業』の採択を受けて、自ら集落の課題と魅力を掘り起こし、地域の将来像『集落再生プラン』を住民主体で策定しました。このなかで集落に「自分たちが欲しかったもの」「あれば良いもの」が盛り込まれたのです。
地域づくりでは通常「あるものさがしをしよう」という考え方で進めますが、床鍋集落では「コンビニがないから欲しい」「居酒屋がないから欲しい」、交流事業をしたいから「宿泊施設が欲しい」「風呂が欲しい」という、“ないもの・欲しいもの探し”が、“あるもの探し”といっしょに話し合われたわけです。
そして2003年4月、集落活動と交流の拠点『森の巣箱』が誕生しました。施設には、日用品や食品、直売所機能を有した「集落コンビニ」や食堂兼居酒屋(夜はまさにイギリスの田舎のパブ)が開設され、2階は宿泊できるよう和室にリノベーションされました。
このような地域合意の手順を踏んだため、『森の巣箱』は、コンビニは常勤職員、食事と接待は集落の女性、清掃は男性が行うなど集落民全員がオーナーであり従業員としての意識を強く持っています。2007年には、過疎地域自立活性化優良事例として『総務大臣賞』を受賞しました。
新潟県上越市浦川原区横住にある『月影の郷(さと)』は、月影小学校をリノベーションした宿泊体験交流施設です。
かつて300名もの児童がいた小学校は、過疎高齢化の波に飲まれ、2001年3月に閉校。さらに村そのものも2005年に上越市へ吸収合併され、住民にとっては二重にアイデンティティを失うことになりました。
当時の村長は、懇意であった法政大学教授に施設を再生活用ができないか相談を持ちかけ、法政大学渡辺研究室、横浜国立大学北山研究室、早稲田大学古谷研究室が大学連携の共同プロジェクトが始動。日本女子大学篠原研究室が加わって女子学生が入ったことで、多少ギクシャクしていた大学連携も円滑になり、リノベーションの計画段階から工事施工過程、施設運営準備と継続的に大量の学生が関わる仲で再生していきました。
設計や展示に対するアイデアは各所に活かされています。学生のセルフビルドによる手の込んだ雪囲いに、ちょっとユニークな机、ロフト付きの宿泊室に、細長いいろり等々が作られました。「地元の人の高齢者に配慮していない」「もっと簡単な作り方がある」など笑いながらの苦情も、互いに信頼関係を構築しつつの学校リノベーションであったことを伺わせます。特に3階は学生たちの独壇場による農村展示室となりました。ユニークな農機具の展示や表現を駆使し、デザインにもこだわっているため、他地域で見る民具展示より数段面白いと感じました。今も継続して学生が関わり、何かを創造してメンテナンスも行っています。どこか、スペインのサグラダファミリアを想像してしまいました。
多数のプロジェクトメンバーや複数のチームが創り出した学校は、趣のある小学校名を残すとともに、元教室を改装して「学校に泊まる」という懐かしさと新しさを同居させて、2005年に再生オープンしました。
2012年度は6,000人が利用するも、収益面ではまだまだの状況。月影の郷運営委員会代表は、「どこの廃校も、今の人たちは愛着を持って携わるが、次世代にはなかなか関心を持たれない。今は活動を支えている人たちが頑張っているが、高齢化してきています。行政に頼らない組織として、自力で健全な経営をするため、未来を切り拓く話し合いをしています」と話します。
他の地域にも通じた、大きな課題だと思います。
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