「ワーケーション」とは、「Work(仕事)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語で、普段の職場とは異なるリゾート地や地方等で、テレワークによる業務をしながら、休暇取得等を行う仕組みです。
政府主導の「働き方改革」が 難航する中で、2020年7月、当時の菅官房長官(現首相)が言及したことで、一躍トレンドワードになりました。
2021年度の国家予算では、観光庁だけでなく、経済産業省や農林水産省などでもワーケーション関連予算が成立し、GoToキャンペーンの代替えのように、経済活性化への貢献が期待されています。
観光分野では以前から進められていましたが、この施策に呼応して、ホテルや旅行会社でも、長期滞在割引の提供やコワーキング・スペースとの連携など、様々な「ワーケーション・プラン」が打ち出されています。
度々の緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置の発令で終わりが見えない企業は、ビデオ会議やテレワークによる在宅勤務を一般的なワークスタイルとして定着させつつあるものの、オンオフがはっきりせずFace to Faceによる出張もままならない社員の間には、コロナ禍前には4000万人にも相当すると言われた「心の病予備軍」が、さらに増加しています。
このような背景もあり、ワーケーションによって、社員のコロナ・ストレスが軽減され、またモチベーションも上がるというメリットが理解されれば、本気でワーケーションを実施したいという企業も現れるでしょう。
私は、コロナ禍となる前に、地方で先行するシェアオフィスやコワーキング・スペースを調査していました。
秋田県五城目町のBABAME BASE(五城目町地域活性化センター)や、鳥取県八頭町の隼ラボは、ともに廃校を活用し、以前から積極的にシェアオフィスを推進していました。
ソフトウェアやシステム開発、グラフィックデザインの制作等を行う企業をターゲットとした、和歌山県田辺市の「秋津野ガルテン」が運営するサテライト型オフィス「秋津野グリーンオフィス」や、都内のIT関連企業やテレワークに適した業態の企業や学術研究機関をターゲットとした、鹿児島県錦江町のサテライトオフィスなどは、大都市の企業を誘致するワーケーション先進事例と言えるでしょう。
また、富山県小矢部市では、駅前の空きビルをリノベーションしたシェアオフィス、「める・びる」が開設されており、地域の廃校や空きビル、商店街などでもワーケーションの実施が可能であること裏付けています。
ワクチン接種が遅々として進まない中で、会食は制限され、会議などがすべてオンライン化されるなど、厭世感が出始めています。社員の心理的安心感やモチベーションアップを考えると、企業にはより柔軟な働き方の提案が求められます。
現在は大都市部の空きビルや空きスペース、高級ホテルなどがワーケーションの現場として売り出されているのみで、企業も地方まではワーケーションを拡げようとしない傾向にあります。地方では需要を見込むのが難しいためですが、地方にワーケーションを根付かせるタイミングは今かもしれません。そうであるなら、地方の良さを目一杯ワーケーションのパッケージに組み込むことが大切でしょう。自然環境や温泉、地域オリジナルの体験や移住に繋がるような暮らし方などのエッセンスを盛り込んだ受入環境の整備を行い、大都市にはない地方ならではの新たなワークスタイルを提案することが重要となります。
いつ回復するか不透明なインバウンド市場を当てにするのではなく、国内旅行市場の需要喚起を促す一助として地方でのワーケーションを推進するなら、GoToトラベルのような短期助成の政策でなく、恒久的な観光政策としていただき、コロナ後のムーブメントを創り出すことを期待しています。
表情が読み取りづらいマスク着用やソーシャルディタンスが日常化し、都市の方々や若者から不評の「濃いつながり」が、何となく恋しい状況ではないでしょうか。
また、業務以外の話題や雑談が少ないオンライン会議は、新たなアイデアも浮かびにくく、取りこぼしも増加します。さらに在宅テレワークではネット環境が不安定と、さまざまな問題が噴出しています。
そうした業務に馴染めず、そろそろリアルな業務や交流を切望していたところに、変異型ウイルスが蔓延し出し、ゴールデン・ウィーク(GW)後まで緊急事態宣言やまん延防止重点措置が発令されています。新しい生活様式を強いられる中で、従業員本人だけでなく、その家族全員にコロナ・ストレスが蓄積していきます。
そうした中で、リゾート地でのワーケーション・プランが、続々と出てきました。簡単に言えば「釣りバカ日誌」の浜ちゃんの生活みたいなものです。
遊びや余暇として位置づけられている日本の観光は、コロナ禍によって、フランスをはじめとするEU諸国の社会制度を取り入れ変化・加速化しつつあり、その中でリゾートの新しい価値観が創り上げられているように感じます。
非日常空間での業務は、新たな発想を生むスタートアップになるでしょうし、社員がストレスを発散でき、元気になるはずです。まさにリゾートライフのワーケーションは「心の栄養ドリンク」になるのです。
コロナ禍を機に鬼子のごとく爆誕したワーケーションですが、地方はむしろ「ブレジャー」が良いでしょう。
「ブレジャー」とは、「Business(ビジネス)」「Leisure(レジャー)」 のことで、家族同伴で出張に出かけ、仕事が終わったあとに家族と合流し、レジャーを楽しむもので、「出張休暇」とも言われます。
出張にレジャーを組み合わせ、在宅テレワークとは違う自然豊かな地域環境でオンオフのメリハリをつける家族旅が、長期化する在宅ワークで ぎくしゃくしがちな家族関係の再構築を可能とするかもしれません。
社員のライフスタイルの一部として機能すれば、企業としては働き方改革に繋がるばかりか、福利厚生の面にも寄与するでしょう。そうした働き方を取り入れる企業のイメージは確実に上昇するでしょうし、良い人材が集まり定着するはずです。
大打撃を受けている観光地にとっても、ワーケーションやブレジャーの流れは、地域活性化の大きなチャンスです。しかし、全国各地にまんべんなく有名リゾートがあるわけではありません。
小豆島で進める「ノマド型観光プログラム」や、壱岐島で行った「事業創造型ワーケーション」は二番煎じでない新アイデアとして優れていると思います。
一年で一番観光客が動くGWに大都市が緊急事態宣言下となり、本年も観光地は意気消沈としていることでしょう。
年間の旅行者数平準化は観光分野で長年解決できていない大きな課題です。ある地域では、混雑を避ける「家族のずらし旅」を提案しているところもありますが、ワーケーションやブレジャーが、この課題解決の糸口となるのではないかと期待しています。
最低限、地方で整備しなくてはならないのが、良好なテレワーク環境の職場と、安心・安全な宿泊施設ですが、リフレッシュにつながる休暇を提供できるかどうかが決め手です。新しい生活様式が日常化する中で、人との出会う機会が減少しており、交流を楽しめる要素も求められています。受け入れ側には、できるだけ滞在期間を長くする仕組みが必要です。
私は旧来から「最高の体験プログラムは地域の困り事」と言ってきました。「我が地域は自然豊かですよ」との情報発信のみでは、国内での差別化が難しく、オリジナリティに欠けます。それよりは、「こういう地域課題を一緒に考えてくれませんか」という方が、企業や出張者本人に響くかもしれません。自地域の魅力を再発見すると同時に、課題を見直す中で、暮らしやすい環境や新たな働き方など提案してもらえるような「ブレジャー」は、企業版ワーキングホリデーや企業版ふるさと納税との相性も良いでしょう。つまり、人口減少をはじめとする課題を抱える地方でのワーケーションやブレジャーの実施を新しい生活様式への移行手段として考えてみてはいかがでしょう。いずれにしても地域イメージを明確に打ち出すことが重要です。
ワーケーションやブレジャーが、日本で「文化」として根付く日が来てほしいと願っています。
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