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「地域の健康診断」バックナンバー

0502023.04.11UP地域丸ごと地球の学び舎

国境離島の対馬

肉眼で釜山が見える韓国展望台

 長崎県対馬は日本海の玄界灘に位置し、2万7千人が暮らす国境離島です。古事記の国産み神話で「大八島国」の1つ「津島」と表記され、魏志倭人伝にも倭の一国「対馬国」としての記述が見られるなど、古来より有名な島であったことがわかります。
 日本と韓国の狭間に浮かぶ島は良港もあり、大陸と日本の中継地として、遣隋使や遣唐使の休憩地になり、その後も朝鮮使節団が必ず立ち寄るなど、賑わいをみせていました。
 直線距離で韓国とたった50kmに位置し、釜山の夜景が見られるなど国境離島のリアルを実感できます。二度に渡る元寇と最初に戦った地であり、太平洋戦争時も戦艦武蔵の巨砲を設置するなど、常に国境離島の最前線にあり、古来より外交・防衛の先端を担ってきたのです。
 もともと田畑が少なく食料生産にも苦慮していた対馬は交易が命綱でした。ところが日韓は、豊臣秀吉の朝鮮侵攻以来、国交断絶が続いていたため、徳川幕府の成立期のどさくさに紛れて、互いが反省しているという偽の国書を日韓双方に送る高リスクの外交を展開、朝鮮王朝との関係修復を画策して、成功裡に導きました。歴史に翻弄された対馬は近年、韓国からのインバウンド観光で賑わいをみせていたものの、コロナ禍による渡航制限で、この3年間は観光客が蒸発。苦しい経済状況が続いています。

統廃合になった地元の小学校を再活用

 対馬最北端に位置する佐護(さご)地区は、天然記念物のツシマヤマネコが生息し、多くの渡り鳥が飛来する自然豊かなエリアです。しかし過疎化・少子化の波が押し寄せ、児童数は激減。1891年開校の伝統ある佐護小学校は、2013年に統廃合となりました。
 電気が灯らなくなった学校は寂しい、何とかしたいと農家の平山美登(よしのり)さんが思っていた2019年、熊本県出身の高野清華さんが隣地区の佐須奈に移住してきました。
 高野さんは島根県隠岐での地域づくりや熊本県山都町で廃校活用などの「地域コーディネーター」で、地元にどっぷりと浸かって活躍していました。対馬には、学生時代から環境、人権などの活動をベースに「平和で持続可能な社会づくりをしたい」との夢を実現したいと移住してきて、非営利型の株式会社「対馬地球大学」を設立しました。
 そして旧佐護小学校を地区の活性化の拠点にすべく、地区の方々と一緒に「ふるさとづくり佐護笑楽校」を創設。校舎の改修を行い、現在は「ふるさと佐護笑楽校」の運営を担うなど地元の欠かせない存在となりました。

ツシマヤマネコ

高野さん(右)と椎野さん


環境、住民、来訪者と連帯する「対馬地球大学」

佐護笑楽校

 対馬地球大学は地域全体をフィールドに「地域丸ごと、地球の学び舎」のキャッチフレーズで、観光・教育ビジネスを展開しています。国境離島でツシマヤマネコなどの固有種が生息する自然や、日本一漂着物が多い海岸線の現状、さらに国境離島で平和を考えるなど、目の前のリアルな環境をそのまま伝え、学ぶことができます。島の特性を活かした環境をテーマに学ぶのに、最適な土地で、「教育事業」をメインに「飲食事業」「宿泊事業」「体験事業」を実施しています。
 地域をフィールドにして、暮らしから生き方を1年間かけて学ぶ「教育事業」は、様々な大学と連携し、内外の専門家を講師として、持続可能社会の担い手を育てています。
 2階の音楽室を改修した「さごんキッチン」は金~日の限定営業ですし、かつ訪問するには大変なエリアにもかかわらず、地域の旬の料理が味わえる体にも優しい地産地消レストランとして、対馬島内の各地からランチや弁当を求めてやってくる人気店です。
 通常の廃校活用事例では、高齢者に配慮して1階の教室を飲食で活用することも多いため、なぜ不便な2階にレストランを設置したのかを聞くと、以前に豪雨で1階まで水に浸かることがあったことから、安全な2階に開設したことがわかりました。

 話を伺って、「対馬地球大学」が地区内外の多様な主体を縦横斜めに紡ぐ「ビジョンを共有し実践する場づくり」の役割を果たしていることが理解できました。大学の地元出資者で「ふるさとづくり佐護笑楽校運営会」会長の平山美登さんも、移住者である高野さんを信頼し、徹底的にバックアップしています。市担当部局の幹部も「地域活性化や雇用のモデルになってほしい」と期待を寄せていました。
 いま「対馬地球大学」は、佐護の人たちが地域を想い、誇りや生きがいを暮らしに取り戻すとともに、訪れる人たちもその生き様に触れて感動する「生き様ツーリズム」や相互に学び合う「歓交」まちづくりの拠点となることをめざしています。


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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