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「地域の健康診断」バックナンバー

0332019.02.26UP福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる-飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-

本当に子育てに消費税を使うか

教育機関に対する総支出の対GDP比(2015年)(「図表でみる教育(Education at a Glance)OECDインディケータ」より作成)

教育機関に対する総支出の対GDP比(2015年)(「図表でみる教育(Education at a Glance)OECDインディケータ」より作成)

 「今の場所に保育園があるから我が子を預けてパートに行けるが、遠くなれば仕事を辞めないといけない」
 これでは「女性の活躍」どころか、共働きさえできない貧困家庭づくりになりかねません。
 「学校にいく年齢になったので、自分が生まれ育った環境の良い田舎に引っ越してきたが、学校が無くなればUターンした意味が無くなる」
 と、ふるさとに未来を託せない話も聞きました。

 地域創生は、地域に帰ることができる、好きな地域で暮らすことができるようにすることですが、肝心の自治体自身が帰る魅力を削ぎ、働く環境を悪くしているのでは、どれほど素晴らしい再生計画を立案しても、画竜点睛を欠きます。
 日本は先進国でも最低の教育予算です。これでは少子化を食い止めることなんてできません。
 福祉や子育て、教育に回すと言っていた消費税のアップ分は、子育てや地域の担い手づくりへ予算の重点配分を行い、持続する「ふるさと」づくりに回してくれるか不明です。


地域防災と地域福祉は一体

高齢化の推移と将来推計(出典:平成30年版高齢社会白書)

高齢化の推移と将来推計(出典:平成30年版高齢社会白書)

 日本の高齢化率は2060年に39.9%になるとの推計があります。これはあくまで日本全体のことであり、私たちの地域は50%を超えているかもしれないし、既に50%を越えている集落も存在します。
 「年寄りばかりで動けない。もう構わないでくれ。頑張れと言われても無理だ」と、自ら動かない集落や地域もあります。それらは、行政がサービス業を自称して高コストの依存体質を作ってしまったことが要因ですが、ただ行政に依存するのは問題だとして、高齢化率50%を越える集落や地域でも、創意工夫を凝らし、公益的任務を担って集落の維持保全に努めている地域も増加しています。
 中山間地域の最大の課題は、地域防災と地域包括ケアシステムです。しかし行政組織ではそれぞれの部署が独自に実施していて連携は見られません。いざ災害となったときには隣近所の支え合いが命綱です。そして支え合いが重要なのは、日常の高齢者の見守りも同様なのですが、行政の防災担当は地域包括ケアのことは知らないし、福祉担当は「防災は自分の管轄ではない」と思っています。さらに買い物難民や空き屋の対策は、これまた各々別の部署が所管しているのが実態です。これら福祉・防災の受益者は同一にも係わらず、別々の計画を策定し、それぞれ細分化しての業務は不効率ばかりかリスクが増すばかりです。


飯田市千代地区の取組

 飯田市で山村振興地区の指定を受けている『千代地区』には、二つの保育園と学校があります。平成15年、少子化から千栄保育園に通う園児が10人未満に落ち込んだため市より統合もしくは民営化の提案がされました。しかし住民は「閉園することは、子育て環境の悪化に繋がり、いずれ小学校閉校に向かう」と千栄地区の将来を考えて存続民営化を選択しました。
 当時の園長は「保護者との会合は、多いときには週に3回、夜の12時過ぎになったこともよくあった。『千栄』も『千代』も一つの地域の意識が全員にあった。保護者も保育園の民営化の影響や保育の質に不安があるも、地域が守ってくれるという安心感があった」と言います。
 自治会は早急な結論を出さず「千代地区保育園問題特別委員会」で1年間民営化について検討を重ね、千代保育園・千栄保育園を民営化することを決定、各世帯の出資と都市部ふるさと会からの出資1000万円を基本財産に「社会福祉法人 千代しゃくなげの会」を設立しました。
 「千代の子どもは千代で育てる」とする自立した考え方は持続するための第一条件でした。
 人口減少や高齢化は待ったなしでやってきます。しかし逆転の発想で見れば、福祉分野は量的・質的に確実な雇用や関連ビジネスの宝庫です。現在の福祉施設の劣悪な環境を克服し、経済的にも魅力ある就労環境を創り出すために、飯田市千代地区のように、地元で資金を集め、投資し、循環させることで、人口減少を食い止める大きな要素になるに違いないでしょう。

千代自治会が運営する千代保育園

千代自治会が運営する千代保育園

千代自治会が運営する千栄保育園

千代自治会が運営する千栄保育園


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」-飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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