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「地域の健康診断」バックナンバー

0492022.12.20UP地産地消エネルギーで地域自立する

世界から遅れる日本

 COP27の「気候行動ネットワーク」で日本は「化石賞」を贈られ、COP26からの不名誉な連続受賞となりました。
 脱炭素社会の実現には再生可能エネルギーの促進が重要ですが、普及に際して長期安定的な電源とするための取り組みや新たな電力販売に対する系統制約の緩和・調整など、様々な制度の障害を乗り越えるための施策が曖昧で明示されていません。
 現状のままではパリ協定の目標達成から大きく後退し、先進国で最低レベルの状況を打開することは不可能です。
 ロシアのウクライナ侵攻がもたらしたエネルギーの不安定化に加え、再生可能エネルギーの導入を加速すべきだった日本政府による強力な導入策は、原発再稼働を明言しただけでした。

 近年は世界中で地球温暖化の影響と思われる大災害が発生しており、日本でも甚大な災害が起きています。大都市はかなり防災対策ができていますが、財政が逼迫している地方の国民の命であり国防の根幹である農山村が被災するケースが多いことが問題です。
 人類は経済発展の旗の下で自然を破壊してきましたが、今はその自然のしっぺ返しに合っているかのようで、国際レベルの取組はもちろん日本でも本気で取り組む必要があります。
 こうした状況を打破するには、ただ国の施策を待つのではなく、地域独自の安心・安全や創意工夫による持続可能な活動が求められるところです。

長野県飯田市の地域環境権

飯田市地域環境権の支援の流れ

 長野県飯田市は、2013年に「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくり条例」を施行しました。これは市民が主体となって区域の自然資源を環境共生的な方法で、再生可能エネルギーとして利用し、持続可能な地域づくりを進めるものです。
 本条例を制定した背景は、エネルギー自治で持続可能なまちづくりを推進するため、地域や市民生活に密接な関わりを持つ日光や森林、河川などの自然資源を再生可能エネルギーとして住民自治の力を発揮する場づくりをすると想定しました。
 基本は、まちの電気屋さんがソーラーパネルを設置し、自治区と協定を締結。売電収益の一部を自治区がもらい、紐付きでない自由な金として創意工夫を促して地区の課題解決を図るものです。
 この条例の基底に置かれている考え方が「地域環境権」です。これは「市民は再生可能エネルギーを利用した調和的な生活環境の下に生存する権利がある」とするもので、市内それぞれの自然環境の特性を活かした地産地消エネルギーを獲得して、環境に貢献しつつ、地域自立を促すものです。市民の創発事業に対して助成する制度ですが、行政が裏からサポートし、本来の自治である「市民が考えて行動する」ことを第一に考えています。
 現在、本事業は累計で20を越えて認定済みで、年間7000万円余の経済効果が発生し、その果実がローカルコミュニティの暮らしを向上させる事業に振り向けられています。
 この条例の第8号で認定を受けた旭ケ丘中学校生徒会は、地元の「おひさま進歩(株)」と協働し、自然エネルギー普及のため自分たちの中学校に太陽光パネルを設置。売電収益は生徒会が中心となり環境教育や地域との活動のために使用しており、地域づくりに昇華させていることに注目していただければと思います。

小水力発電で自立する地区を目指す

ペルトン水車と、陽野ふるさと電力株式会社の江田治雄事業部長(右)

 荒川日野地区は奥秩父の寺沢川渓流沿いに位置し、周囲を標高1,000m超の急峻な山嶺に囲まれおり、水力発電を行うには好条件の立地でした。
 日野地区では遊休農地や荒廃した里山の再生をするため、20数年前に住民総意で発足した「陽野(ひの)ふるさと会」を発足、荒廃し有害鳥獣の生息地と化した里山の再生保全事業をメインに、地域の自然・生活環境の改善や春の道草展や夏の納涼祭、スポーツ広場の造成ほか、都市農村交流を精力的に行ってきました。今後ますます必要とされる活動ですが、会員の高齢化によって実働要員の減少し、安定して継続できる活動が困難となるとの危機感を持ちました。
 大規模な水源がなくても発電がおこなえる小水力発電は自然環境への負荷も少なく、さらに低予算で設置できることから、これを地域資源と捉え、後世に引き継ぐ財産の一つと結論付け、2021年に「陽野ふるさと会」を母体に、住民有志が一人20万円を出資した「陽野(ひの)ふるさと電力株式会社」を設立し、様々な規制や課題をクリアして、小水力発電事業を行うに至りました。
 渓流は取水口も幅1メートルに満たず、発電所まで800メートルを管で導水することになりましたが、それでも発電出力は24時間稼働で49.9kWと102世帯分を毎日発電しており、環境がビジネスになることを証明しています。

谷間を縫う導水管

1mに満たない取水口


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バックナンバー

  1. 001「地域を元気にする=観光地化ではない」
  2. 002「地域を元気にする=一村一品開発すればいいわけではない」
  3. 003「地域を元気にする=自ら考え行動する」
  4. 004「縦割りに横串を差す」
  5. 005「集落の元気を生産する「萩の会」」
  6. 006「小学生が地域を育んだ」 -広島県庄原市比和町三河内地区-
  7. 007「山古志に帰ろう!」
  8. 008「暮らしと産業から思考する軍艦島」
  9. 009「休校・廃校を活用する(1)」
  10. 010「休校・廃校を活用する(2)」
  11. 011「アートで地域を元気にする」
  12. 012「3.11被災地のまちではじまった協働の復興プロジェクト」
  13. 013「上勝町と馬路村を足して2で割った古座川町」
  14. 014「儲かる農業に変えることは大切だが、儲けのために農家が犠牲になるのは本末転倒」
  15. 015「持続する過疎山村」
  16. 016「したたかに生きる漁村」
  17. 017「飯田城下に地域人力車が走る」 -リニア沿線の人力車ネットワークをめざして-
  18. 018「コミュニティカフェの重要性」
  19. 019「伝統野菜の復興で地域づくり」 -プロジェクト粟の挑戦-
  20. 020「地元学から地域経営へ 浜田市弥栄町の農村経営」
  21. 021「持続する『ふるさと』をめざした地域の創出に向けて」
  22. 022「伊勢木綿は産業として残す」
  23. 023「北海道最古のリンゴ「緋の衣」」
  24. 024「風土(フード)ツーリズム」
  25. 025「ゆきわり草ヒストリー」
  26. 026「活かして守ろう 日本の伝統技術」
  27. 027「若い世代の帰島や移住が進む南北約160kmの長い村」 -東シナ海に浮かぶ吐喝喇(トカラ)列島(鹿児島県鹿児島郡十島村)-
  28. 028「徹底した子どもへの教育・子育て支援で過疎化の危機的状況を回避(高知県土佐町)」
  29. 029「農泊を再考する」
  30. 030「真鯛養殖日本一の愛媛県の中核を担う、宇和島の鯛(愛媛県宇和島市遊子水荷浦)」
  31. 031「一人の覚悟で村が変わる」 -京都府唯一の村、南山城村-
  32. 032「遊休資産が素敵に生まれ変わる」
  33. 033「福祉分野が雇用と関連ビジネスの宝庫になる」 -飯田市千代地区の自治会による保育園運営の取組-
  34. 034「日本のアマルフィの石垣景観を守る取り組み」 -愛媛県伊予町-
  35. 035「アニメ・ツーリズム」
  36. 036「おいしい田舎「のどか牧場」」
  37. 037「インバウンドの苦悩」
  38. 038「コロナ禍後の未来(1)」
  39. 039「コロナ禍後の未来(2)」
  40. 040「MaaSがもたらす未来」
  41. 041「二人の未来は続いてゆく」 -今治市大三島-
  42. 042「ワーケーションは地域を救えるか」
  43. 043「アフター・コロナの処方箋は地域のダイエット」
  44. 044「ヒトを呼ぶパワー(前編)」
  45. 045「ヒトを呼ぶパワー(後編)」
  46. 046「地域の価値創造」 -サスティナブル・ツーリズム-
  47. 047「廃校活用の未来」
  48. 048「小田原なりわいツーリズム」
  49. 049「地産地消エネルギーで地域自立する」
  50. 050「地域丸ごと地球の学び舎」
  51. 051「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(1)」
  52. 052「廃校活用の可能性と持続可能な社会への貢献(2)」
  53. 053「夢にチャレンジできるまち、実現できるまち」
  54. 054「新たな福祉コミュニティ」
  55. 055「「食料・農業・農村基本法」の改正は食料安全保障の強化!?」

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