6月14日に中国浙江省開化県で開催された第20回東アジア農業遺産学会(ERAHS)作業会合で、今年9月に中国で開催される第10回ERAHS会議の開催計画が決定されました。その前日の6月13日には「開化山泉流水養魚システムの保全と振興に関するシンポジウム」が開催されました。
5月27日にはFAOが「日本におけるGIAHSのモニタリングと評価: ベストプラクティス、課題、そして得られた重要な教訓」と題したウェビナーを開催しました。
6月19日に農林水産省は、世界農業遺産・日本農業遺産の認定等に関する募集結果について公表しました。
今回は、第20回東アジア農業遺産学会(ERAHS)作業会合、FAOのウェビナーを中心に、最近の農業遺産をめぐる動きについて紹介します。
6月14日に中国浙江省開化県で開催された第20回東アジア農業遺産学会(ERAHS)作業会合で、今年9月に中国で開催される第10回ERAHS会議の開催計画が決定されました。作業会合には、中国、韓国の代表とともに、日本からはERAHS日本事務局を務める国連大学OUIKの富田揚子プログラムコーディネーターとナビゲーターが出席しました。
ERAHSは、2013年に当時の日中韓の農業遺産の研究者が設立した「学会」です。毎年、中・日・韓の順に持ち回りで年次会合を開催しており、これまでに3巡しました。「学会」という名がついていますが、研究交流だけでなく、農業遺産認定地域の人的交流も重要な目的としています。日中・日韓の関係は、今もそうですが、政治的、外交的に困難な時期も多い中で、「学会」という名の下にさまざまな困難を乗り越えてきました。
当初は研究者が自発的に始めたERAHSですが、年を追うごとに国の支援もいただくようになり、昨年8月に韓国で開催された日中韓農業大臣会合で採択された共同声明に、世界農業遺産やERAHSが明記されました。共同声明には、気候変動等の脅威にさらされている農業遺産システムの価値を保全するための協力が明記され、ERAHSに合わせて政府間の会合を開催することが確認されました。昨年、韓国の済州島で開催されたERAHSの中で行われた政府間会合では、環境に関連して、日本から、GIAHSは、環境と調和した持続可能な農林水産業の在り方として極めて重要で意義があるもの、FAOの生物多様性に関する戦略や行動計画等にもGIAHSの重要性を位置づけることが必要という趣旨の発言がありました。
さて、第10回ERAHS会議は、当初の計画よりも1日後ろにずれて、9月19日(土)から22日(火)まで、中国湖南省の新化県で開催されます。日本ではこの期間はちょうど秋のシルバーウイークの5連休に当たっており、ナビゲーターのように他に仕事を持っている者には都合がいいのですが、業務として参加される方はちょっと大変かもしれません。フライトもけっこう混んでいて、価格も高めに設定されているようです。
主な日程は、9月19日(土):受付・到着、9月20日(日):開会式、基調講演、テーマ別セッション、9月21日(月):基調講演、テーマ別セッション、現地視察、第21回ERAHS作業会合、9月22日(火):帰国に向け出発となっています。昨年、ERAHSで初めて公式に開催された「中央政府会議」の第2回の開催も予定されています。
中国湖南省の新化県には、2018年に世界農業遺産に認定された「中国の南部山岳丘陵地域における棚田システム」の一部である「紫鵲界の棚田」があります。ナビゲーターは昨年9月に現地を訪問しており、そのようすはエコレポ39号で紹介しました。この棚田システムは、生物多様性の保全、水資源の循環利用、土壌・環境保全を通じて、農業生産と自然環境保全を両立させる持続可能な農業モデルであり、生態系サービスの維持に大きく貢献しています。
https://econavi.eic.or.jp/ecorepo/eat/757
中国の世界農業遺産は遠隔地にあることが多いのですが、ここも例に漏れず、上海から空路で約2時間の長沙空港から、さらに車で3時間かかるところにあります。
今の日中関係には大変難しい面がありますが、そのような中でも現地の主催者は精一杯努力してくれています。何とか成功することを願っています。
第20回ERAHS作業会合
ERAHS作業会合の前日の6月13日には「開化山泉流水養魚システムの保全と振興に関するシンポジウム」が開催されました。
シンポジウムでは、日中韓の4名の専門家が農業遺産の保全の進展について基調講演しました。日本からはナビゲーターが、日本における世界農業遺産と日本農業遺産の進展、持続的な保全管理戦略、日本の内水面漁業に関する農業遺産の事例として世界農業遺産の岐阜県長良川上中流域の「清流長良川の鮎-里川における人と鮎のつながり-(2015)」、滋賀県琵琶湖地域の「森・里・湖(うみ)に育まれる漁業と農業が織りなす琵琶湖システム(2022)」、日本農業遺産の新潟県中越地域の「雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム(2017)」の3地域を紹介しました。中でも、中越地域の事例は淡水養殖という点で開化の農業遺産と共通点があります。
後半はパネルディスカッションで、国連大学OUIKの富田さんが能登の事例なども交えながら、開化の農業遺産に関して経験の共有と提案を発表しました。
シンポジウムに先立ち、午前中には開化の農業遺産の現地調査を行いました。
「浙江開化山泉流水養魚システム」は、中国浙江省開化県に伝わる、山林が涵養する清らかな山泉・渓流水を利用した伝統的な流水式養魚システムで、養殖の歴史は1000年以上とされています。2020年には「第五次中国重要農業文化遺産」に選定されました。
このシステムは、山間部の湧水や渓流水を利用することで清浄な水環境を維持し、流域の森林や水源環境の保全に貢献しています。また、自然の流水を活用した低環境負荷型の養殖により、水質汚濁やエネルギー消費を抑えています。さらに、地域の自然環境に適応した養魚技術によって生態系との共生を実現しており、水資源の持続的利用と生態系保全を両立する、持続可能な地域資源管理の優れた事例と評価できます。
養殖しているのは主に草魚です。草魚は名前のとおり、主に草を食べて育ちます。流水で育てられた草魚はまったく臭みがなく、とてもおいしかったです。
草魚とともに緋鯉も混ぜて飼っていますが、これは、緋鯉は外敵に目立つので結果的に草魚を守れることと、雑食性なので草魚が食べないものも食べるからだそうです。
たしかにすばらしい伝統的なシステムだと感じましたが、このような小規模では十分な収入が確保できないのではないかと聞いたところ、やはり若者は都市部に働きに行き、家に残った者はお茶の生産や養蜂で主な生計を立てているとのことでした。
中国の農業遺産は、このように全体としては大規模化や近代化を進めながら、一部に伝統的なシステムを残し、それを強調することによって全体のブランド価値を上げるというものが多いように感じられます。
5月27日に、FAOが「日本におけるGIAHSのモニタリングと評価:ベストプラクティス、課題、そして得られた重要な教訓」と題したウェビナーを開催しました。
FAO日本連絡事務所から、農林水産省による継続的な支援への謝意が述べられるとともに、GIAHS認定地域の増加に伴い、認定後の活動や成果を継続的に把握するモニタリング・評価の重要性が高まっていることが説明されました。
続いてFAO GIAHS事務局から、2024年の調査では多くの認定地域がモニタリングを実施している一方、より体系的な評価制度への支援ニーズが高いことが報告されました。現在は各国・地域ごとに手法が異なるため、今後はSDGs等と整合した共通のモニタリング・評価枠組みを整備し、「モニタリング・評価・改善」のサイクルを確立する必要性が示されました。
東京大学の八木教授からは、日本における世界農業遺産・日本農業遺産のモニタリング制度が紹介されました。日本では認定後にアクションプラン(保全計画)を実施し、5年ごとの評価を行っています。専門家や行政担当者による現地訪問等を通じて進捗や課題を確認し、地域との対話を重視した「友好的なモニタリング」が特徴とされました。
また、日中韓の東アジア農業遺産学会(ERAHS)では、研究者や農業者が成果や課題を共有し、相互学習の場として機能していることが紹介されました。
事例として、佐渡の「トキと共生する佐渡の里山」が取り上げられました。生物多様性に配慮した農業やブランド米の販売、環境教育などが進められており、トキの個体数は2011年の49羽から2023年には532羽へ増加したことが報告されました。
中国からは、青田の稲魚共生システムを中心に、国家レベルのモニタリング制度が紹介されました。年次報告やデータ管理システムを活用し、「計画した活動が実施されたか」「期待した成果が得られたか」を重視した評価を行っていることが説明されました。また、現場負担を抑えるため、簡潔で比較可能な共通指標の必要性が指摘されました。
質疑応答では、日本の「友好的なモニタリング」の意義や地域特性に応じた柔軟な評価の必要性が議論されました。また、提案書作成等における自治体支援の重要性や、モニタリングは地域を評価するためではなく保全活動を支援するための仕組みであるとの認識が共有されました。
FAOのウェビナーの様子(動画、日本語訳)は以下のウェブサイトで公開されています。
https://www.youtube.com/watch?v=LK-600DkPfI
農業遺産の評価においては、認定基準の一つである「農業の生物多様性」が重要な柱の一つであり、国連大学等が2022年に発表したGIAHSのモニタリング評価に関する手引書では、①農業生物多様性は、重要種に関する生物多様性調査(基本)、遺伝的多様性・在来品種・作物/家畜/水産生物の種および品種(高度)、②農業生物多様性への脅威は、動植物の侵入に関する報告(基本)、絶滅危惧種・動植物の侵入による農業被害(高度)、③農業生態系は、農業生態系区分・農業生態系の保全及び改善(基本)、災害からの復旧・被害軽減及びレジリエンス(回復力)強化策・気候変動への適応策及び緩和策(高度)について評価することとされています。
http://collections.unu.edu/eserv/UNU:8681/GIAHS_M_E_Manual_2022_Web.pdf
FAOのウェビナー
6月19日に、農林水産省は、世界農業遺産・日本農業遺産の認定等に関する募集結果について公表しました。
申請地域名と農林水産業システムの名称は以下のとおりです。
1. 三重県鳥羽・志摩地域:海女漁業の持続的な資源管理システム
2. 三重県伊勢志摩地域:伊勢志摩のアコヤ真珠養殖システム
3. 大阪府泉佐野地域:樫井川流域の隆起扇状地と共存する多様な水利農業システム
4. 兵庫県北播磨・六甲山北部地域:兵庫の酒米「山田錦」生産システム
5. 愛媛県南予地域:愛媛・南予のリアス海岸景観システム
大阪府泉佐野地域は世界農業遺産と日本農業遺産、それ以外の地域はすでに日本農業遺産に認定されているので世界農業遺産の認定を目指します。
今後、一次審査(書類審査、2026年8月頃)、現地調査(9月頃から11月頃まで)、二次審査(12月頃)を経て、2027年1月頃に承認・認定地域の決定が行われる予定です。
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