2019年10月8日、山梨県峡東地域、滋賀県琵琶湖地域、兵庫県兵庫美方地域の3地域がFAOへ世界農業遺産の申請書類を提出し、11月11日から14日までFAOで開催された第10回科学助言グループで評価が行われました。
2019年6月5日、中国山東省夏津県で「世界農業遺産の動的保全と発展を通じた農村の活性化に関する国際シンポジウム」に出席し、合わせて河北省渉県を訪問しました。
7月28日には、公益財団法人日本財団の招聘により来日されていたミャンマーのカイン州政府首相ら一行と世界農業遺産の申請に向けた相談を行いました。
また、9月11日に、「静岡の茶草場農法」世界農業遺産茶草場農法テラスオープン記念フォーラムに出席しました。
11月16日?17日には、中国の農業遺産専門家に同行して山梨県峡東地域を訪問しました。
今回は、日本の3地域のFAOへの世界農業遺産の認定申請を中心に、中国や日本国内の農業遺産地域の状況などについて紹介します。
2019年9月27日、農林水産省で令和元年度第3回世界農業遺産等専門家会議が開催され、2019年2月に世界農業遺産への認定申請に係る承認を受けた3地域(山梨県峡東地域、滋賀県琵琶湖地域及び兵庫県兵庫美方地域)について、内容確認及び検討が行われました。検討に当たっては、FAOへ提出する英語版申請書類について、地域からの説明及び質疑応答が行われたということです。
その結果、2019年10月8日、山梨県峡東地域、滋賀県琵琶湖地域、兵庫県兵庫美方地域の3地域がFAOへ世界農業遺産の申請書類を提出しました。
FAOでは、11月11日から14日まで第10回科学助言グループ(SAG)が開催され、日本の3地域のほか、ブラジル1地域、中国4地域、イラン1地域、韓国2地域、スペイン1地域、チュニジア2地域の合計14地域について評価が行われました。評価の結果としては、すべて「評価中」(under evaluation)とされたようです。
今回、評価の対象となったのは、以下の14地域です。
ブラジルの「ブラジル・ミナスジェライス州エスピニャソ山脈の農業遺産システム:野生花採種者に管理されたランドスケープにおける移牧、生物多様性及び文化」、中国の「伝統的慶元シイタケ栽培システム」、「内蒙古のアルホルチン草原遊牧システム」、「安渓鉄観音茶栽培システム」、「太行山脈の渉県畑作テラスシステム」、イラン・イスラム共和国の「エスタハバーンの天水イチジク果樹園遺産システム」、日本の「淡水魚と農業のための琵琶湖システム」、「山梨県峡東地域の果樹栽培」、「但馬牛のための家族農業システム」、韓国の「タミャン竹畑農業システム」、「チェジュ海女漁業システム」、スペインの「オルタ・デ・バレンシアの歴史的水景観」、チュニジアの「ガル・エル・メルのラムリ作物」、「ジェッバ・エル・オリアの独創的空中庭園システム」。
なお、今回から、FAOの科学助言グループ(SAG)の委員に交代があり、武内和彦先生が退任され、新たに、世界農業遺産等専門家会議の副委員長も務めておられる東京大学の八木信行教授が選任されました。
日本の3地域は、今後、申請書の内容が適正と認められると、科学助言グループにより指名された専門家による現地調査が行われ、必要に応じて申請書の修正などが行われ、最終的に認定の可否が決定されることになります。
中国共産党夏津県委員会及び夏津県人民政府は、2019年6月5日(水)、山東省夏津(シャージン)県夏津会議センターにおいて、「世界農業遺産の動的保全と発展を通じた農村の活性化に関する国際シンポジウム」を開催しました。
国際シンポジウムには、中国政府(農業農村部)、中国の農業遺産分野の専門家、中国の農業遺産地域約20地域の関係者のほか、海外からもFAOのヌリア・サンガリェゴ上級顧問、世界農業遺産基金代表で元FAOのGIAHS事務局長のパルビス・クーハフカン氏、ナビゲーターを含む東アジア農業遺産学会(ERAHS)関係者らが招かれ、約140名が参加しました。
山東省夏津県は、「山東夏津黄河故道古桑樹群システム」として2018年に世界農業遺産に認定されており、ナビゲーターは2017年に浙江省湖州市での第4回東アジア農業遺産学会(ERAHS)会合の前に、一度、現地を訪問したことがありました。
国際シンポジウムでは、ナビゲーターは、「日本における世界農業遺産」について基調講演を行うとともに、「農業遺産の促進と休閑農業の発展」(「休閑農業」はグリーンツーリズムなどレクリエーション農業の意味)をテーマにしたパネルディスカッションのパネリストを務めました。
中国山東省夏津県での国際シンポジウムに先立ち、6月3日(月)から4日(火)まで、中国重要農業文化遺産で、世界農業遺産の候補にもなっている中国河北省渉(シャー)県の「河北渉県旱作棚田システム」の現地視察とコンサルテーションを行いました。
渉県は、河北省の西南端に位置する邯鄲(ガンタン)市の中にある県で、西は山西省、南は河南省との境界をなしており、人口約40万人を擁しています。河北省、山西省、河南省にまたがる太行(タイハン)山脈にあるので、県域の大部分は中山間地域です。ここの農地は、中国語では「旱作棚田」と呼ばれますが、水田はまったくなく、いわゆる日本でいう段々畑のようになっています。その面積は17,600ヘクタールにも及び、壮大な景観を構成しています。
畑は石垣で支えられており、石の文化が継承されています。畑では特産のクルミや中国山椒のほか、キビ、トウモロコシ、大豆、黒ナツメなどが栽培されています。
日本人と中国人の文化の違いだとは思いますが、日本人はありのままの姿を見るのを好むのに対して、中国人は人工的なものを加えることにあまり抵抗感がないように感じました。たとえば、現地を訪問したときも、農家が畑で農作業をしている姿を見ることはあまりなく、私たちが訪れた畑は植物園のようにきれいに手入れされて、植物の名札がつけられていました。壮大な段々畑にも一面にカラフルな旗が飾られるなど、日本人としては少し違和感がありました。
都市部から離れた山間地域にあるこの歴史のある広大な段々畑をどのように持続的に管理していくか、世界農業遺産への認定が大きな鍵になると思われます。
7月28日(日)に、公益財団法人日本財団の招聘により来日されていたミャンマーのカイン州政府首相ら一行と世界農業遺産の申請に向けた相談を行いました。
カイン州は、かつてはカレン州と言われ、住民のほとんどはカレン族で、反政府闘争の激しい地域でした。日本財団は、ここで2016年に薬草資源センターを設置し、ノニ、ムクナ、ウコンなどの薬草を栽培しています。その活動の中で、世界農業遺産の認定を受けられないかという話が出てきたそうです。カイン州政府のトップは知事ではなく「首相」と呼ばれるそうで、農業や環境などの行政を担当する責任者も部長ではなく「大臣」と呼ばれるそうです。
そのカイン州政府の首相や大臣らに、どのようにすれば世界農業遺産の認定を受けられるか相談に乗ってあげてほしいという依頼でした。いろいろと議論する中で、カイン州にはインと呼ばれる木があり、その産物はさまざまな用途に利用され、持続的な土地利用に重要な役割を果たしていることが話題になりました。そこで、伝統的な知識を活かして、インを中心とする森林を管理するとともに、その森林の中で換金作物等の栽培を行うことにより、森林を保全しつつ、持続的に利用するシステム(「カイン州の持続的森林管理システム」)を考えてみてはどうかと提案しました。
地元に持ち帰って検討するということでしたが、首相もかなり積極的だったので、ミャンマーで初めての世界農業遺産の認定につながればと期待しています。
9月11日(水)に、「静岡の茶草場農法」世界農業遺産茶草場農法テラスオープン記念フォーラムが開催され、ナビゲーターも講師としてお招きいただきました。
海外出張からの帰国便の到着が少し遅れたために、事前に茶草場農法テラスを見学することはできませんでしたが、記念フォーラムには十分に間に合い、「世界農業遺産の意義とその活用」と題して、日本、中国、韓国での農業遺産の活用事例や、お茶を含む農業遺産認定地の事例などについてお話しさせていただきました。
東京農業大学の藤川智紀教授からは、「茶草場農法の生産性向上効果の科学的な検証と茶業振興への活用」について講演がありました。また、世界農業遺産「静岡の茶草場農法」推進協議会からは、茶草場農法実践者認定制度も軌道に乗り始め、活動支援に還元できるようになったこと、新たなビジネスモデル、景観の改善、ロゴマーク、応援制度、国内外でのPR活動、ボランティア受入支援制度、グリーンツーリズム、生物多様性調査、さまざまなイベントなどに積極的に取り組んでいることが報告されました。
ナビゲーターは、東アジア農業遺産学会(ERAHS)の日本事務局を務めていることもあり、以前から、中国や韓国との農業遺産地域の交流に関する仲介役を多く引き受けています。今年になってからも、9月には世界農業遺産に認定されている中国の内モンゴル自治区のアオハン地域が同じ雑穀を栽培している徳島県にし阿波地域と交流したいということでそのお世話をし、10月には日本農業遺産に認定されている埼玉県の武蔵野地区の三芳町長らが同じ都市農業で世界農業遺産に認定されている中国河北省の宣化地区と交流したいということでそのお世話をしました。
このほかにも、国内外で開催される農業遺産関係の国際シンポジウムの講師の仲介も多く引き受けています。招待する側は講師が確実に来てくれないと困るし、招待される側も飛行機代など経費を確実に支払ってもらわないと困るので、誰か信頼できる仲介者が必要なのだということだと思います。
今回は、山梨県から、国際セミナーを開催するので、中国のERAHS代表のミン・チンウェン教授を講師に招きたいというお話がありました。さっそくミン教授に連絡して了解をもらい、日程の調整、ビザの取得など準備は順調に進んでいたのですが、1週間ほど前になって突然、ミン教授から来日できなくなったという連絡がありました。急に政府首脳の海外訪問に同行しなければならなくなったとのことでした。大切な国際セミナーの講師に穴をあけるわけにはいかないので、ミン教授に次いで中国の農業遺産に詳しいERAHS中国事務局長のジャオ・ウェンジュン准教授に代役をお願いしました。幸いジャオ准教授が快く引き受けてくれたので、事なきを得ました。
11月16日(土)?17日(日)に、ナビゲーターも同行し、ジャオ准教授に山梨県峡東地域に来ていただきました。11月17日は、午前中に現地の大善寺、枯露柿生産者、ブドウ園を訪問し、午後から開催された「世界農業遺産セミナー」では、ジャオ准教授に「歴史を継承し、未来を守る:GIAHSプログラム」と題した講演をお願いしました。3百名以上が参加したセミナーは成功裏に終了し、ナビゲーターも胸を撫で下ろしました。
ナビゲーターは、2010年から国連大学において当時の武内和彦副学長の下で世界農業遺産の日本への導入に取り組み、日本はもとより韓国、中国などの世界農業遺産の認定申請や、日本農業遺産の申請のお手伝いをしてきました。ただ、国連大学には、最長でも6年間までしか常勤の勤務ができないという内部のルールがあり、その後の非常勤も2年間までと決められています。このため、ナビゲーターは2019年7月末をもって国連大学との契約が満了しました。
今は、国連大学との直接的な契約関係はありませんが、石川県金沢市にある国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)に置いていただいている「東アジア農業遺産学会(ERAHS)日本事務局」のアドバイザーとして、ボランティアで、東アジア農業遺産学会のお手伝いを中心に、世界農業遺産や日本農業遺産の認定申請や認定後の活動などのお手伝いをしています。
今後とも農業遺産の発展のために尽力してまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
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