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「世界農業遺産(GIAHS)」バックナンバー

0202021.03.02UP農林水産省が世界農業遺産への認定申請承認3地域、日本農業遺産の認定7地域を決定(前編)

 2021年2月19日(金)、農林水産省は、世界農業遺産(GIAHS)への認定申請に係る承認を行う3地域及び日本農業遺産の認定を行う7地域の決定を発表しました。
 また、1月26日(火)には、FAOが「世界農業遺産と生態系回復」と題するウェビナーを開催しました。

 今回は、世界農業遺産の申請承認地域と新たな日本農業遺産認定地域の決定を中心に、最近の農業遺産をめぐる動きについて、2週に分けて紹介します。

農林水産省が世界農業遺産への認定申請承認3地域、日本農業遺産の認定7地域を決定

 農林水産省は、2021年3年1月27日に行った世界農業遺産等専門家会議の評価結果を踏まえ、2月19日(金)に、世界農業遺産への認定申請に係る承認及び日本農業遺産の認定を行う地域の決定について発表しました。
 世界農業遺産への認定申請を承認されたのは次の3地域です。

  1. ①山形県最上川流域「最上川流域の紅花システム ~歴史と伝統がつなぐ山形の「最上紅花」~」
  2. ②埼玉県武蔵野地域「大都市近郊に今も息づく武蔵野の落ち葉堆肥農法」
  3. ③島根県奥出雲地域「たたら製鉄が生んだ奥出雲の資源循環型農業」

 これらの地域については、今後FAOへ申請を行い、FAOにおいて審査を受けることとなります。
 また、日本農業遺産に認定されたのは次の7地域です。

  1. ①富山県氷見地域「氷見の持続可能な定置網漁業」
  2. ②兵庫県丹波篠山地域「丹波篠山の黒大豆栽培 ~ムラが支える優良種子と家族農業~」
  3. ③兵庫県南あわじ地域「南あわじにおける水稲・たまねぎ・畜産の生産循環システム」
  4. ④和歌山県高野・花園・清水地域「聖地 高野山と有田川上流域を結ぶ持続的農林業システム」
  5. ⑤和歌山県有田地域「みかん栽培の礎を築いた有田みかんシステム」
  6. ⑥宮崎県日南市「造船材を産出した飫肥林業と結びつく「日南かつお一本釣り漁業」」
  7. ⑦宮崎県田野・清武地域「宮崎の太陽と風が育む「干し野菜」と露地畑作の高度利用システム」

 これらの地域については、2021年3月17日(水)に農林水産省講堂で認定証授与式を行う予定だそうです。

 次回の世界農業遺産への認定申請に係る承認及び日本農業遺産の認定に関する募集は、2022年早々を予定しているとのことです。
 発表のあった日には、ナビゲーターのところに、申請に際してアドバイスを行ったいくつかの地域から喜びのメールが届き、ナビゲーターからもお祝いのメールを返信しました。
 それでは、農水省の発表資料をもとに、ナビゲーターのエピソードを交えながら、各地域について簡潔に紹介します。

山形県最上川流域「最上川流域の紅花システム ~歴史と伝統がつなぐ山形の「最上紅花」~」

 山形県最上川流域では、古くから染料利用を目的とした紅花が生産されてきました。今回FAOへの世界農業遺産の申請が承認されたのは、その紅花生産と染色用素材である「紅餅」への加工技術が約450年にわたり一体的に受け継がれてきた農業システムで、これは世界的にも珍しいといえます。
 ナビゲーターが初めてこの地域を訪問したのは2013年3月で、世界農業遺産に関する講演をさせていただきました。ただそのときはまだ具体的な農業遺産申請の計画はありませんでした。その後も何度かこの地域を訪問しましたが、本格的に世界農業遺産申請のアドバイスをするために訪問したのは2019年7月で、このときは二日間かけて、いくつかの現地を案内していただきました。ちょうど紅花の開花期で、各地で紅花まつりが開催されていましたが、このとき強く感じたのが、県民の方々の「紅花愛」ともいうべき紅花に対する深い思い入れです。栽培面積がそれほど大きいわけではなく、また、生産地が点在しているにもかかわらず、地域における紅花の存在感には大きなものがありました。
 その後もオンラインで何度かお話しする機会があり、申請が県の行政のリードで進められていたので、できるだけ地元の方々を前面に出すようにというようなアドバイスをさせていただきました。
 これからFAOに世界農業遺産の申請をされるわけですが、ぜひこの県民の「紅花愛」に裏付けられたユニークな紅花システムを世界に発信していただきたいと思います。

山形県置賜で講演するナビゲーター(2013年)

山形県置賜で講演するナビゲーター(2013年)

山形の紅花畑

山形の紅花畑


山形の紅花

山形の紅花

紅花まつりと紅花娘

紅花まつりと紅花娘


埼玉県武蔵野地域「大都市近郊に今も息づく武蔵野の落ち葉堆肥農法」

 埼玉県武蔵野地域では、水が乏しく栄養分が少ない土地が多いため、平地に林を作り出し、落ち葉を集めて堆肥とする伝統的な「落ち葉堆肥農法」を営んできました。特徴的な景観と生物多様性が育まれ、大都市近郊にも関わらず、現在に至るまで受け継がれているシステムです。
 ナビゲーターがこの地域を初めて訪問したのは2014年1月で、その後、さまざまなかたちで10回近くは訪問していると思います。大都市東京の近郊にこれだけの伝統的な農業が残っていることはすごいことだと思うのですが、実際には大都市近郊ならではの悩みも抱えておられ、なかなか地域がまとまりませんでした。それでも三芳町の林伊佐雄町長をはじめ関係者の方々は決してあきらめることなく、何度も何度も世界農業遺産への挑戦を続けてこられました。
 林町長は、ナビゲーターが事務局を務めている東アジア農業遺産学会(ERAHS)にも、町長としての激務の中、毎回、ご参加いただくなど、常に世界に目を向けておられます。また、世界農業遺産の中で都市近郊の伝統農業に注目してもらうために、「宣化のぶどう栽培の都市農業遺産」としてすでに世界農業遺産に認定されている中国の河北省張家口市の宣化区との交流を続けておられ、ナビゲーターもこれをお手伝いしています。
 今回、ようやくFAOへの世界農業遺産の申請が農水省に承認され、長年の努力が実りました。ぜひ世界農業遺産の認定を実現され、世界農業遺産の中に都市近郊の伝統農業という新しいジャンルを築いていただきたいと思います。

武蔵野のランドスケープ

武蔵野のランドスケープ

武蔵野の耕地の様子

武蔵野の耕地の様子


落ち葉を集める平地林

落ち葉を集める平地林

落ち葉堆肥

落ち葉堆肥


島根県奥出雲地域「たたら製鉄が生んだ奥出雲の資源循環型農業」

 島根県奥出雲地域では、鉱山跡地を棚田に再生し、採掘のために導いた水路やため池を再利用するなど、独自の土地利用により稲作や畜産を中心とした複合的な農業が営まれてきました。今回、FAOへの世界農業遺産の申請が承認されたのは、このたたら製鉄が生んだ資源循環型農業システムです。
 実はナビゲーターは農水省に採用されて2年目の1980年に、「農村派遣研修」という制度でこの地域で1か月間、和牛農家に寝泊まりして研修を受けたことがあり、この地域はたいへん思い出深いところです。2016年8月に奥出雲町農業遺産推進協議会の設立に際しての講演のために現地を訪問し、あらためて「たたら製鉄」によって生まれた水田や水路、水田にぽっかりと浮かぶ「残丘」などに感銘を受けました。
 これからFAOへの世界農業遺産の申請に向けて、「生きている遺産」としてのたたら製鉄が生んだ資源循環型農をうまく説明し、ぜひ認定を実現していただきたいと思います。

かんな流し跡地に広がる水田

かんな流し跡地に広がる水田

かんな流しの水路を転用した農業水路

かんな流しの水路を転用した農業水路


水田に残る「残丘」

水田に残る「残丘」

奥出雲町農業遺産推進協議会設立総会(2016年)

奥出雲町農業遺産推進協議会設立総会(2016年)


 世界農業遺産(GIAHS)への認定申請に係る承認が行われた3地域は、これからFAOへの申請作業、FAOの科学アドバイザリーグループ(SAG)での審査などが待ち受けており、ある意味でまだスターラインに立ったばかりだといえます。緊張感を維持しつつ、世界農業遺産の認定までしっかり対応していただきたいと思います。

FAOが「世界農業遺産と生態系回復」と題するウェビナーを開催

FAOのウェビナー「世界農業遺産と生態系回復」

FAOのウェビナー「世界農業遺産と生態系回復」

 農林水産省の発表にさかのぼること約1か月の1月26日(火)にFAO主催のウェビナー「世界農業遺産と生態系回復」が開催されました。国連では、2021年から2030年を「国連生態系回復の10年」と定め、国連環境計画(UNEP)と国連食糧農業機関(FAO)が主導して、ランドスケープや湖、海などの生態系の劣化を転換させ、生態系の機能を取り戻す「生態系回復」に取り組んでいます。


FAOのウェビナーで講演する徳島大学の内藤直樹准教授

FAOのウェビナーで講演する徳島大学の内藤直樹准教授

 今回のウェビナーは、その関連イベントとして開催され、中国、日本、ペルー、モロッコ、スペイン、タンザニアの世界農業遺産(GIAHS)サイトの代表者が、天然資源の持続可能な利用と生態系サービスの種類と機能に関する経験と課題を共有し、GIAHSが「国連生態系回復の10年」の目的にどのように貢献できるかを探りました。
 日本からは、徳島大学の内藤直樹准教授が、「静岡の茶草場農法」と「にし阿波の傾斜地農耕システム」を事例に、半自然草地(人と自然のハイブリッド環境で形成された二次的自然)から収穫された草の使用方法を説明し、これらの半自然草地が豊かな生物多様性を保全し、生態系の回復に貢献することを強調しました。
 国連関係では、現在、2030年に向けた具体的行動指針の「持続可能な開発目標」(SDGs)、2019年~2028年の国連「家族農業の10年」、2021年~2030年の国連「海洋科学の10年」などが動いており、世界農業遺産もこれらの取組に貢献することが求められています。


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バックナンバー

  1. 001「世界農業遺産とは?」
  2. 002「新潟県佐渡市で第2回東アジア農業遺産学会を開催」
  3. 003「先進国で初めて認定された、日本の世界農業遺産」
  4. 004「世界農業遺産に日本の新しい3地域が認定」
  5. 005「世界農業遺産認定の活用とその成果」
  6. 006「世界農業遺産のモニタリングと評価」
  7. 007「世界農業遺産の新たな進展」
  8. 008「日本農業遺産の初めての認定」
  9. 009「日本農業遺産の認定地域の紹介」
  10. 010「中国湖州市で第4回東アジア農業遺産学会を開催」
  11. 011「宮城県大崎地域が日本で九番目の世界農業遺産に認定」
  12. 012「静岡県わさび栽培地域と徳島県にし阿波地域が世界農業遺産に認定」
  13. 013「和歌山県みなべ・田辺地域で第5回東アジア農業遺産学会を開催」
  14. 014「3地域が世界農業遺産の申請を承認、7地域が新たに日本農業遺産に認定」
  15. 015「韓国ハドン郡で第6回東アジア農業遺産学会を開催」
  16. 016「日本の3地域がFAOへ世界農業遺産の認定を申請」
  17. 017「農林水産省が世界農業遺産・日本農業遺産の認定希望地域の募集を開始」
  18. 018「12地域が世界農業遺産・日本農業遺産の一次審査を通過」
  19. 019「コロナ禍の中での世界農業遺産」
  20. 020「農林水産省が世界農業遺産への認定申請承認3地域、日本農業遺産の認定7地域を決定(前編)」
  21. 021「農林水産省が世界農業遺産への認定申請承認3地域、日本農業遺産の認定7地域を決定(後編)」

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