農林水産省は、1月25日から6月8日までの間、世界農業遺産・日本農業遺産の認定等を希望する地域を募集しています。
また、国連大学UNU-IASは、韓国農村振興庁(RDA)と共同で、新たに「GIAHSモニタリングと評価のためのマニュアル ─テクニカルレファレンス─」を発行するとともに、3月10日に韓国農村振興庁(RDA)、国連食糧農業機関(FAO)とともに合同ウェビナー「世界農業遺産システム(GIAHS)のモニタリングと評価 : 諸国とGIAHS地域の経験」を開催しました。
今回は、農林水産省による世界農業遺産・日本農業遺産の認定等希望地域の募集、国連大学による「GIAHSモニタリングと評価のためのマニュアル」の発行やウェビナーの開催を中心に、最近の農業遺産をめぐる動きについて紹介します。
農林水産省は、1月25日から6月8日までの間、世界農業遺産への認定申請に係る承認及び日本農業遺産の認定を希望する地域を募集しています。
世界農業遺産は、世界的に重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域(農林水産業システム)を、国際連合食糧農業機関(FAO)が認定する制度で、日本では現在11地域が認定されています。また、日本農業遺産は、我が国において重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域(農林水産業システム)を農林水産大臣が認定する制度で、現在22地域が認定されています。それぞれ独立した制度ですが、実態としては日本農業遺産に認定された地域の中から世界農業遺産の認定申請を行う地域が選ばれています。
農林水産省による認定等希望地域の募集は2年ごとに行われており、前々回の2018年の募集では、世界農業遺産への申請を行う3地域、日本農業遺産を認定する7地域が、また、前回2020年の募集でも、世界農業遺産への申請を行う3地域、日本農業遺産を認定する7地域が決定されました。以前は、世界農業遺産の認定は、申請から1-2年で実現することが多かったのですが、コロナ禍の影響により、2019年にFAOへ世界農業遺産への申請書類を提出した山梨県峡東地域、滋賀県琵琶湖地域、兵庫県兵庫美方地域でさえ、まだFAOのGIAHS科学諮問グループ(SAG)による現地調査を行うことができず、認定に至っていません。最近、コロナウイルスの感染状況も落ち着きを見せており、何とか早く現地調査が行われるように願っています。
農林水産省によると、今回の募集に係る審査については、8月頃に一次審査(書類審査のみ)の結果発表、9月-11月頃に現地調査、12月頃に二次審査(プレゼンテーション)来年1月頃に結果発表が行われるとのことです。
ふたを開けてみなければわかりませんが、コロナ禍のせいか例年に比べてナビゲーターのところへの申請に関する相談も少なく、今回、どのくらいの応募があるのかちょっと不安です。今から新たに検討するというのは難しいと思いますが、これまで応募したにもかかわらず僅差で認定に至らなかった地域などは、申請内容を修正することによりチャンスが生まれるのではないかと思います。
国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)は、3月に韓国農村振興庁(RDA)と共同で、新たに「GIAHSモニタリングと評価のためのマニュアル ─テクニカルレファレンス─」を発行しました。
このマニュアルは、世界農業遺産(GIAHS)地域のモニタリングと評価(M&E)プロセスの設計と実施のための技術的な指針を提供するもので、2018年から韓国農村振興庁(RDA)と共同で実施してきた研究プロジェクト「農業遺産システムにおける特性分析および保全管理に関する技術の導入」の成果の一つです。
このマニュアルでは、(1)GIAHSの管理者、政府、GIAHSへの申請に関心を持つ人々を支援するための効果的なモニタリング・評価(M&E)のプロセスを設計し実施する方法に関する技術的なガイダンス、(2)M&Eの役割、原則、基準、指標、M&Eプロセスの設計・実施の手順について解説しています。
GIAHSのモニタリングと評価の重要性については、以前から指摘されてきたところであり、日本においても、世界農業遺産・日本農業遺産の認定地域は、保全計画に基づく活動状況及び成果について自己評価を行い農水省に報告するとともに、保全計画の最終年度又はその前年度に、世界農業遺産等専門家会議による評価が行われ、認定地域は評価結果を次期保全計画に反映することとされています。
評価結果は「認定地域における更なる保全・活用に向けた助言」として農水省のウェブサイトの認定地域紹介のところで公表されていますが、A4版1枚程度の簡潔なものです。
今回、国連大学が発行した「GIAHSモニタリングと評価のためのマニュアル」は英文で90ページに及ぶものであり、すぐに日本の世界農業遺産認定地域のモニタリング・評価に導入することはちょっと難しいと思いますが、国際標準ともいえるモニタリング・評価の手法が詳細かつわかりやすく書かれており、今後のモニタリング・評価のあり方を考えるうえで大いに参考になるものと思われます。
いずれにしても英文のままでは日本の関係者に読んでもらうことは難しいので、早く日本語に翻訳する必要があるでしょう。
また、これに関連して、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)、韓国農村振興庁(RDA)、国連食糧農業機関(FAO)は、3月10日、合同ウェビナー「世界農業遺産システム(GIAHS)のモニタリングと評価 : 諸国とGIAHS地域の経験」を開催しました。
ウェビナーでは、FAOの遠藤芳英GIAHS事務局長からアクションプランとそれを忠実に実施するためのモニタリング・評価(M&E)の役割が強調され、中国、日本(八木信行東京大学教授)、韓国、ポルトガルからそれぞれの地域のM&Eにおける組織構造、成功例、課題などの紹介がありました。ナビゲーターにとっては、やはりこの分野の経験の長い中国の体系立ったM&Eの仕組みが印象的でした。
農業遺産認定地域にある特産品や観光地等数多くの魅力ある地域資源を農山漁村の振興に繋げるため、農林水産省は、モデル地域を選定し、食品マーケティング及び旅行商品の企画支援を実施するとともに、事業で得られた知見・成果をとりまとめ、農業遺産認定地域の特産品や認証品の販売展開や旅行商品の造成の際の「手引き」を作成しました。
この「手引き」では、食品マーケティングのモデル地域として岐阜県長良川上中流域、和歌山県有田地域について、農業遺産地域の特産品としての訴求ポイントを把握、整理し、「食品ブランディング」を進めていくための具体的な手法を提案しています。また、旅行商品の企画支援のモデル地域として和歌山県みなべ・田辺地域、宮崎県日南市について、観光資源の整理や旅行商品を開発する上での手法を検討し、具体的な取組事項を提案しています。
ナビゲーターらは、以前から、農業遺産の活用とその効果について、これまでの経験に基づき、①農産物等の付加価値向上とブランド力の強化、②観光(グリーン・ツーリズムなど)への活用、③住民の意識の変化、特に若い世代を含む地域の人々の自信と誇りの回復が重要だというように整理してきました。今回、その道の専門家の方々が、モデル地域について詳細な調査を行い、広く活用できる具体的な手法を提案されたことは大きな意義があると思います。
世界農業遺産(GIAHS)の申請書の評価を行い認定の可否を審査するFAOのGIAHS科学諮問グループ(SAG)の9人の専門家は、事務局長によって2年間の任期で選出されることになっており、新しいメンバーがFAOのウェブサイトで公表されました。
9名のメンバーのうち、パトリシア・ブスタマンテ博士(ブラジル)、八木 信行教授(日本)、ヘリダ・オイエケ博士(ケニア)、スリム・ゼクリ教授(オマーン)の4名は留任で、ホセ=マリア・ガルシア=アルバレス=コケ教授(スペイン)、李暁徳教授(中国)、ノーマ・ルス・バラス博士(メキシコ)、ティツィアーノ・テンペスタ教授(イタリア)、キャサリン・タッカー博士(米国)の3名が新たなメンバーです。このうち、八木信行教授が議長、李暁徳教授が副議長を務めています。
SAGのメンバーは、地域的なバランスだけでなく、専門分野のバランス、男女のバランスなども考慮されているようです。個々のメンバーの意見がGIAHSの認定に大きな影響力をもつので、その議論の動向が注目されるところです。
日中韓の世界農業遺産関係者が学術・地域交流を行うために、毎年、持ち回りで開催する東アジア農業遺産学会(ERAHS)は、一昨年の秋に中国の浙江省慶元県で第7回会合が開催されることになっていましたが、コロナ禍のためにすでに2年間延期されています。
中国の事務局も、さすがに今年は何らかの形で開催したい意向のようであり、中国の関係者は現地で参加し、日本と韓国の関係者はオンラインで参加するという方向で調整中です。
詳細が決まったら、関係者には速やかにお伝えするようにいたします。
2023年の第8回会合は日本の岐阜県での開催が内定しています。このときまでにはコロナ禍が終息し、日中韓3か国の関係者が一堂に会することができることを心から願っています。
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