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「自然を守る仕事」バックナンバー

0032010.08.03UP生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩-野生生物調査員・桑原健さん-

自然を身近に感じながら仕事ができる喜び

桑原健さん
桑原健さん。1979年神奈川県生まれ。2008年に(株)環境指標生物に就職、植物(維管束植物)専門の野生生物調査員として勤務中。

 道路やダム、発電所などの開発事業が行われるとき、それが周辺環境にどのような影響を及ぼすかを事前に調査することが、事業者側には義務づけられている。
 「いわゆる環境アセスメントですね。うちの会社ではその中の生物調査を請け負っていて、僕は植物の調査を担当しています。開発予定地へ出かけ、植物相植生を詳しく調べるのが主な仕事です」
 と話す桑原健さん。
  春から秋は現地調査、冬は調査結果をもとに資料作成、というのが大まかな年間スケジュールだという。現場は人気のない山奥から、都心の河川まで様々。河原や森の中で、一つひとつの植物の種類を調べ、書きとめる地道な作業が続く。特に真夏の河川敷はとても暑く、消耗が激しい。
 「いわゆる“3K”職場ですよ(笑)。でも、自然を身近に感じながら仕事をしたい人には、これほど楽しい仕事はない。『こんな植物、初めて見るぞ』という発見もけっこうあります。それに自然を守りたいなら、まずはそこにどんな植物が生え、どんな生きものたちが生息しているかを知らなければならない。生物調査の仕事は、自然を守るための第一歩だと僕は思っています」

現場での樹木調査(毎木調査)の様子
現場での樹木調査(毎木調査)の様子

雨の日は記録用紙をビニールにくるみ、その中に手を入れて記入していく
雨の日は記録用紙をビニールにくるみ、その中に手を入れて記入していく

自分の好きなことを仕事にしたいと転職

学生時代に北アルプスで高山植物パトロール。30日間で100種類以上の植物を覚えた
学生時代に北アルプスで高山植物パトロール。30日間で100種類以上の植物を覚えた

 学生の頃からアウトドア好き。ツーリングやトレッキングを通して、北海道や本州の自然に親しんだ。自然を守りたいという気持ちが芽生えたのは大学4年のとき。バイト先のアウトドアショップで(財)日本自然保護協会(NACS-J)の活動を知り、会員になった。
 「もう少し踏み込みたいと、NACS-J主催の自然観察指導員の講習会に行ったら、何も語れない自分に愕然としました。フランスの歴史家・ミシュレの『われわれが虫を恐れ、嫌がる度合いは、われわれの無知に比例する』という言葉を知って衝撃を受けたことも重なって、自分は自然について何も知らない、ということにこのとき改めて気づきました」
 一度はメーカーに就職したものの、野生生物を調査する“仕事”が世の中に存在することを知って転職を決意。東京環境工科専門学校の野生生物調査学科に入学した。植物を専門に決めたのは、学校で斡旋された林野庁の高山植物パトロールに出かけたときだった。
 「北アルプスの山々で、短い夏に一気に咲く高山植物の美しさと、場所によって植生がガラリと変わる面白さを肌で感じてとりこになりました。滞在した30日間に100種類以上の植物を覚えました。今から思えば大した数ではありませんが、そのときは0からのスタートだったのでとても大きかった。以来、今日まで植物への興味が尽きることはありません」

理想だけでなく、現実とつながることも必要

事務所の棚には、多数の専門書が並ぶ
事務所の棚には、多数の専門書が並ぶ

 生物調査会社へ就職し、初めて一人で担当したのは埼玉の里地調査だった。改変予定地の20m×20m程度の範囲を10箇所以上調べた。
 「調査では絶滅の危機にある野生生物を記載した、環境省の『レッドデータブック』に出ているような植物が見つかることもあります。その場合、計画の調整や植物の移植など、その種を守るための対策をクライアントに提案するのも僕たちの役目。ひとつの生物種が絶滅するかどうかが僕たちの調査にかかっていると思うと責任を感じます」
 開発予定地で「レッドデータブック」に掲載されている植物が見つかっても、計画そのものがなくなることは、ほとんどないのが現実だ。
 「人間が暮らすうえで、開発は不可避だと思います。だったら、その中でできるだけ自然環境を壊さないようにするのが僕たち調査員の仕事だと思う。理想を掲げることも大切ですが、現実とつながることも必要だと思うんです」
 最近は、自然保護の観点からの環境教育などの仕事も増えてきた。自然を守るためにその地域の生きものを調査する仕事もするようになった。
 「自分たちが住む地域の自然を守ることはやはり大切です。いつか、生物調査員として培った知識や経験を生かし、地域の自然保護活動をリードしていける人になりたいですね」

必須アイテム

桑原さんの“七つ道具”
桑原さんの“七つ道具”

 現地調査で背負うリュックの中には、ルーペやコンパスなどが入った「ポーチ」と、調査記録を記入するための「画板」、植物調査員必携の「図鑑」、撮影した場所が特定できる「GPSとデジカメ」、そして「剪定ばさみ」、「根掘り(スコップ)」、「雨合羽」などが入っている。
 森や藪に分け入る現地調査では、長袖・長ズボンに長靴をはいて帽子を被る。「暑いので首にはタオルも巻いています。外での仕事ですが、こういう格好なので、生物調査の中でも植物の場合は意外と日に焼けない(笑)」

ある1日のスケジュール(現地調査2日目)

06:30 現場近くにとった宿で起床。朝食をすませて現地へ出発。

08:00 調査開始。山の中は2人1組で歩くのが基本。その場で種類がわからない植物があれば採取し、ビニール袋に入れて持ち帰る。

11:00 適当な場所を探して昼ごはん。「荷物にならないコンビニのおにぎりが多い。僕の定番はタラコとシーチキンのおにぎり、そしてカレーパンです」

12:00 調査を再開。山奥で行う調査の場合は崖から落ちたり、熊に襲われたり、危険な目に遭うことも。「とにかく安全第一だと思っています。体調管理や危険回避は責任を持ってやっています」

17:00 調査終了。「植物の調査は日暮れまでですが、鳥や動物を担当する人は夜も調査があります」

18:00 宿に戻って夕食&入浴。

20:00 持ち帰った植物を新聞紙上に広げて、図鑑を片手に“同定大会”スタート。「翌日の調査に差しさわりが出ないよう、できるだけ早めに切り上げるように心がけていますが、深夜に及ぶ日もあります」。最後に翌日の調査計画を立てて終了。

22:00 就寝。「仕事の入り方にもよりますが、植物の調査が可能な春から秋にかけてのシーズンには、月の半分から3分の1は現地に出かけています」

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このレポートへの感想

写真が欲しかったです
でもわかりやすかった!!
(2019.12.18)

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(2016.02.11)

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(2016.02.11)

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バックナンバー

  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」 -インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」 -ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」-野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」 -森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」 -NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」 -野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」 -造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」 -公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
  26. 026「昆虫を飼育するうえで、どんな場所に棲んでいて、どんな生活をしているか、現地での様子を見るのはすごく大事」 -昆虫飼育員兼インタープリター・腰塚祐介さん-
  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
  28. 028「生きものの魅力とともに、生きものに関わる人たちの思いと熱量を伝えるために」 -番組制作ディレクター・余座まりんさん-
  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」 -ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-
  33. 033「人の社会の中で仕事をする以上、人とかかわることに向き合っていくことを避けては通れない」 -ネイチャーガイド・山部茜さん-
  34. 034「知っている植物が増えて、普段見ていた景色が変わっていくのを実感」 -植物調査員・江口哲平さん-
  35. 035「日本全国の多彩なフィールドの管理経営を担う」 -国家公務員(林野庁治山技術官)・小檜山諒さん-
  36. 036「身近にいる生き物との出会いや触れ合いの機会を提供するための施設管理」 -自然観察の森・解説員 木谷昌史さん-
  37. 037「“里山は学びの原点!” 自然とともにある里山の暮らしにこそ、未来へ受け継ぐヒントがある」 -地域づくりNPOの理事・スタッフ 松川菜々子さん-
  38. 038「一方的な対策提案ではなく、住民自身が自分に合った対策を選択できるように対話を重ねて判断材料を整理する」 -鳥獣被害対策コーディネーター・堀部良太さん-

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