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「自然を守る仕事」バックナンバー

0242017.02.21UPそれぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす-公園スタッフ・中西七緒子さん-

四季を通じてさまざまな花が楽しめる植物公園

中西七緒子(なかにしなおこ)さん
中西七緒子(なかにしなおこ)さん
1995年11月、静岡県三島市生まれ。高校卒業後、東京環境工科専門学校に進学。
2016年4月から西武造園株式会社に就職、入社式の直前に小田原フラワーガーデンへの配属が決まった。
毎朝、歩いて通勤していると、近所の子どもたちから「フラワーガーデンのお姉さんだ!」と声がかかる。そんな地域とのふれあいを楽しんでいる今日この頃だ。
最近のブームは、休みの日に楽しむ、小田原散策。カフェ巡りを中心に、小田原の魅力を捜し歩いている。“地元”小田原の活性化に、フラワーガーデン勤務の立場から貢献していきたいと話す。
専門学校では植物よりも主に水生生物を勉強してきた。プロとして言い訳にはしたくないが、園芸植物は種類も多く、今まさに猛勉強中!

 小田原フラワーガーデンは、神奈川県西端の小田原西部丘陵の斜面に位置する敷地面積42,188m2の植物公園。メイン施設の「トロピカルドーム温室」には熱帯植物が茂り、公園面積の半分ほどを占める「渓流の梅林」では約200品種の花ウメが咲き誇る。ドーム温室前の広場周囲に広がる「バラ園」や、渓流沿いに広がる「花しょうぶ」など、一年中、さまざまな花が入れ替わりながら盛りを迎えている。
 園内には普通車140台分の無料駐車場も用意されているが、公共交通機関では、小田原駅東口から出ている伊豆箱根バス「フラワーガーデン行き」に乗って30分ほどの「フラワーガーデン前」下車すぐ、もしくは小田原駅から3両編成・単線軌道の伊豆箱根鉄道に乗り換えて5駅、乗車時間約10分の飯田岡駅が電車では最寄り駅になる。ただし、飯田岡駅からは約1.6kmの登坂を歩いてくることになる。開けた田園地帯の間に設定された、散策路「諏訪の原・西部丘陵ウォーキングコース」を通って、途中、眼下に広がる小田原市街や対面に連なる丹沢山塊の峰々を望む気持ちのよいウォーキングを楽しみながら約20分の行程だ。
 コース案内に沿って県立おだわら諏訪の原公園を抜けていくと、小田原フラワーガーデンのメイン施設、トロピカルドーム温室の骨組みが見えてくる。陸橋で車道の上を超える連絡通路から入場すると、「渓流の梅林」の200品種480本のウメの木が来訪者を出迎えるように早咲きの花を咲かせていた。
 「小田原フラワーガーデンは、平成7年に小田原市が開設した公園です。この公園の指定管理を受けている小田原フラワーガーデンパートナーズの代表企業が、私が入社した西武造園株式会社で、公園の管理・運営全般を受け持っています。構成企業は他に、広報や集客を担当する伊豆箱根鉄道株式会社と、園内の植生管理を担当する地元の造園会社・株式会社加藤造園があり、3社が役割を分担しています」
 そう話すのは、2016年4月から新卒として同園で働き始めてもうすぐ1年になる、中西七緒子さん。西武造園株式会社は、西武グループの中でも造園に特化した会社として、設計や企画、施工、管理・運営まで、緑に関する一連の事業を展開している。中西さんは、その中の管理・運営部門の一員として、小田原フラワーガーデンにおける、主に来訪者向けに開催するイベントの企画運営や友の会ボランティアのコーディネートを中心としたソフト対応に従事している。さらに、西武造園全体の環境教育公園の取り組みとして実施している「はち育」の担当者として、セイヨウミツバチの飼育管理や年1回開催のはち育イベントなどミツバチを用いた環境教育も行っている。公園の立地や施設を生かしながら、さらなる公園の魅力向上に寄与することをめざして、幅広い仕事内容で、楽しくも充実した日々を送っていると笑顔を見せる。

渓流の梅林では、ちょうど早咲の花が開き始めている頃だった。

イベントを通じて、少し深く植物のことを知ってもらう

 中西さんが担当する園内イベントは、四季折々のさまざまな花が咲き誇る同園の特徴を生かしたクラフト講座が中心だ。リースづくりや香袋になるポプリづくりなど、概ね30分ほどで完成する簡単な無料の講座が多い。子どもから高齢者まで誰でも気軽に参加できて、クラフト体験に没頭する時間を楽しんだり、簡単にできる割に案外本格的なお土産を喜んだりする。楽しみ方は人それぞれだが、そんな中で、少しでも素材となる植物のことを深く知ってもらう機会にしてほしいというのが中西さんたち主催者の思いだ。
 「年間どの季節にご来園いただいてもイベントを開催しているようにしています。今、ちょうど早咲きのウメが咲いていますが、毎年1月下旬から3月上旬に開催している梅まつりの期間中にはウメをテーマにしたさまざまなイベントを予定しています。週末や連休に合わせたイベントもあります。1月の連休イベントでは、多肉植物のテラリウム作りや、ビオラの押し花をデコパージュという技法を使って飾る小物入れづくりのほか、小学生以下を対象に呼びかけたかるた大会では、トロピカルドームの植物の特大サイズのかるたを取り合いました」
 ちょうど、温室前のホールではパンジー・ビオラ展。「多肉植物・サボテン販売月間」も1月恒例で、花の開花や展示と連動させたイベントを仕掛けている。

梅まつりのチラシ。
梅まつりのチラシ。

1月の3連休イベントのチラシ。
1月の3連休イベントのチラシ。

パンジー・ビオラ展のチラシ。
パンジー・ビオラ展のチラシ。


パンジー・ビオラ展の様子。
パンジー・ビオラ展の様子。

パンジー・ビオラ展に合わせて小田原市内の天然酵母パン屋さんとのコラボで開発した、「ビオラぱん」。
パンジー・ビオラ展に合わせて小田原市内の天然酵母パン屋さんとのコラボで開発した、「ビオラぱん」。


葉っぱのたたき染めエコバッグ作りのイベント。園内で採れた植物をトートバッグに乗せ、ハンマーで叩くと、布に葉の色素が移り、植物模様のオリジナルエコバッグができあがる。みずみずしい葉っぱもあれば、カサカサとしている葉、香りがある葉などさまざま。そんな植物それぞれの特徴を五感を通して感じ取ってもらうこともねらいのひとつだ。今回使用した植物は、マリーゴールド、ベニバナトキワマンサク、ヤブガラシ、メドーセージ、フェンネル、アメジストセージ。
葉っぱのたたき染めエコバッグ作りのイベント。園内で採れた植物をトートバッグに乗せ、ハンマーで叩くと、布に葉の色素が移り、植物模様のオリジナルエコバッグができあがる。みずみずしい葉っぱもあれば、カサカサとしている葉、香りがある葉などさまざま。そんな植物それぞれの特徴を五感を通して感じ取ってもらうこともねらいのひとつだ。今回使用した植物は、マリーゴールド、ベニバナトキワマンサク、ヤブガラシ、メドーセージ、フェンネル、アメジストセージ。

 今は公園長が主に実施しているガイドツアーも、ゆくゆくは中西さんが担当できるようにと、今、猛勉強中だ。
 「入社前、専門学校生時代に主に勉強してきたのは、植物よりも水生生物でした。もともと植物に詳しかったわけではありませんし、当園は園芸植物の品種がとても多いので、まだまだわからないことだらけ、本当に難しい世界です」
 梅まつりの期間中にも、ガイドツアーは予定されているし、5月頃から咲き始めるバラ園のガイドツアーも恒例行事だ。
 「小田原というとウメが有名なんです。梅干しに加工する実を採る木がたくさんあって、白い花が咲き誇る光景を思い浮かべる人も多いかもしれません。でも、フラワーガーデンのウメの木は花ウメが中心になっていて、ピンクの色鮮やかな花が特徴的です。品種も多く、早咲きの花から遅くに花を開かせるものまで時間差で色づいてきます。5月になると春バラがとてもきれいに咲き始め、バラを目当てのお客様も数多く訪れます。しっかり勉強して、ガイドツアーにも対応できるようになるのが当面の目標です」

参加者一人一人の声を大事に

紫色が鮮やかなアメジストセージの前で説明する中西さん。ハーブとしても使われるアメジストセージは、ビロードのようなふわふわとした感触の花が特徴的な植物だ。
紫色が鮮やかなアメジストセージの前で説明する中西さん。ハーブとしても使われるアメジストセージは、ビロードのようなふわふわとした感触の花が特徴的な植物だ。

 入社して約1年が経ち、「すごくすごく楽しい毎日です!」と中西さんは笑顔を見せる。
 イベントの進行の仕方は、人それぞれだが、押さえるべきポイントはある。
 「大事なのは、それぞれのイベントで何を伝えたいかという点です。園内の植物を使ったクラフト講座でも、“かわいい作品ができてよかった”だけで終わるのではなく、例えば素材となる植物のことをお客様に噛み砕いてお伝えするようにしています。“実はこの植物、特定外来生物なんです”と言って、外来種の問題についてお話ししたりと、少しだけ植物に深くかかわってもらうための話をしています。まだまだ不慣れなこともたくさんありますが、お客様にどれだけ満足して帰っていただけるかが今一番の関心事です」
 参加者は毎回違うため、同じような話をしても響き方は全然違ってくる。小田原フラワーガーデンのイベントは、多くの場合、対象年齢を制限していない。高齢者から、ベビーカーを押している母親世代の参加や幼稚園児の親子も訪れる。近所に住む小中学生が1人で参加するケースも少なくはない。
 「専門学校時代に学んだ環境教育は、小学生向けや中学生以上などプログラムの対象年齢がしっかり決まっていました。でも、ここではいろんな年齢の方10-20名を一斉に、イベントとして進行しています。お客様ひとり一人の知りたいことは違いますから、反応を見ながら話の内容を変えるのが大変でもあり、おもしろくもあります。小さい子どもたちは話が長いとすぐに飽きておしゃべりを始めてしまいます。そんなときは、あまり植物の詳しい話はせずに、もっと視覚的に楽しめる内容に変えていますし、逆に植物のことが好きで来ている大人の方が多いときには、植物のうんちくを披露すると喜んでくださいます。話の内容だけではなく、雰囲気づくりも大事です。ベビーカー連れのお母さんは、赤ちゃんが泣き出しちゃうことも多く、まわりの目も気になって、集中して参加するのが難しいと思うのです。でも、ここではそれもよしとして、アットホームな雰囲気でできるように心がけています」
 参加者の声を大事にすることで、参加者一人一人の満足度が変わるし、次回以降によりよいイベントを提供するヒントをもらうことにもなる。満足気に作品を持ち帰る参加者たちの表情こそが、今の中西さんにとって最高の手応えになっている。そのためにも、積極的にイベント進行を担当して、慣れていきたいと話す中西さんだ。

専門学校時代の海外実習で目の当たりにした密猟問題は、野生下で生きる動物たちへの思いを強くした

 高校生までは、愛玩動物、特に犬が好きで、将来は犬にかかわる仕事をしたいと思っていた。転機になったのは、高校3年生の春。麻布大学から教職の実習生として来ていた先生の授業で、シカ問題など国内の里山で起きている野生動物たちの話を聞いたのが、野生動物について興味を持つきっかけになった。ちょうど進路を固める時期と重なり、より詳しく野生動物のことを学びたいと、東京環境工科専門学校に入学した。
 「私の中では、人生を変えてくれた先生として、今でも印象深く思い出します。それまで愛玩動物一心に勉強してきましたから、その先生の授業を聞かなかったら、今の職場で働いていることもなかったと思います」

アフリカ実習の主な活動場所となった、NPO「Care for Wild」の施設にて。同施設で主に保護しているのはサイ。体の小さな子サイだけではなく、野生下でも充分生きてゆける若いサイの飼育もしている。密猟が激化して、野生に返しても殺されてしまう可能性が高いためだ。
アフリカ実習の主な活動場所となった、NPO「Care for Wild」の施設にて。同施設で主に保護しているのはサイ。体の小さな子サイだけではなく、野生下でも充分生きてゆける若いサイの飼育もしている。密猟が激化して、野生に返しても殺されてしまう可能性が高いためだ。

 進学先の専門学校では、今の仕事のベースになるさまざまなことを学んだという中西さんだが、中でもいまだに強く印象に残っているのが、選択実習として参加した、南アフリカでの海外実習だった。バイトで貯めたお金はすっかりなくなってしまったが、お金では替えられない貴重な経験ができたとふりかえる。
 「南アフリカのサバンナを見たいという好奇心半ばで参加した海外実習でした。きっと学生時代にしか行けないんだろうなという思いもあって決意しました。でも、間違いではありませんでしたね。本物のサバンナは動物園で見るよりもはるかに広大でとても感動しましたが、それとともに、サイやライオンなど動物園でお馴染みの野生動物たちの現実を目の当たりにした大きな衝撃は、旅行者気分を吹き飛ばす貴重な経験になりました」
 実習のメインテーマは、野生動物の密猟の現状、特に角を目当てに密猟されるサイの保護と対策が中心だった。
 「サイの角の成分が難病にも効くという、科学的根拠のない話が信じられてしまって世界中で取引されているのです。サイの角には血が通っていないので、普通に切ればサイを死なせずに済みますが、密猟者は根元からザックリ切り取るため出血死してしまうのです。そうした現状を訴えている人たちが、南アフリカで活動のため立ち上がっています。アフリカ出身の人もいますが、世界中からボランティアが集まって、サイの世話などさまざまな形でかかわっていました。日本では動物園に行けば簡単に野生動物を見ることができます。でもそんな動物たちが野生下ではどんな現実に直面しているのかを私たちはほとんど知りません。もっと知るべきことがあるんじゃないかと強く感じた実習でした」
 実習の主な活動の場となったのは、主にサイを保護している施設。体の小さな子サイだけではなく、野生下でも十分生きていける若いサイも飼育されていた。密猟が激化して、野生に返しても殺されてしまう可能性が高いためだ。他にも人が傷つけたさまざまな動物たちが保護されていた。
 密猟者の中には、貧しい暮らしの中でやむにやまれず犯罪に手を染める人たちもいる。対策の一環として、生息地保全のための会社を立ち上げて雇用を生み出し、社会復帰を促す活動もあった。密猟問題の根源にアプローチするそんな取り組みを通じて、遠い国の野生動物の問題を深く考えさせられるとともに、身近にとらえるきっかけになった。

職場の中の人と仲良くしているだけでは、この仕事はやっていけない

 小田原フラワーガーデンの利用者は、花を見に来る人たちはもとより、花への興味よりもイベントの内容に惹かれて参加したという人、体を動かしたいとバドミントンのラケットなどを持って来る人たちなどさまざま。それぞれの目的で公園を訪れている人たちだから、対応次第では、笑顔で帰ってもらえるかどうかが左右されることもある。
 「例えば、この園の中で唯一の有料施設のトロピカルドーム温室は、65歳以上のお客様の場合、免許証などの公的証明書をご提示いただければ、無料で入場できます。ただ、65歳以上の方でも、中には“持っていないよ。持っていないけど、顔でわかるだろう”とおっしゃる方もいます。確かにわからなくもないのですが、やはり決められたことですからご提示いただく必要があります。ただそこで、“規則ですから”と言うだけでは、“いや、かたいね!”と怒って帰って行かれてしまいます。そんなときでも、言い方ひとつで、少しは違った気持ちになってもらえるかもしれません」
 中西さんがよく言うのは、“とても65には見えませんよ、お若いですね”と見た目だけで判断することのむずかしさを説明しつつ、“他のお客様にもお願いしていますから”と当人との1対1の関係だけでない運用への理解をお願いすること。ちょっとした言葉遣いによって、言われた側の感じ方も随分と変わってくることを実感する毎日だ。


トロピカルドーム温室。
トロピカルドーム温室。

温室の中は密林ジャングルの雰囲気たっぷり。
温室の中は密林ジャングルの雰囲気たっぷり。


 イベントなどの企画運営とともに、ボランティアの担当も中西さんの仕事の一つだ。
 「小田原市内に住んでいるおじいちゃん・おばあちゃんたちが多いのですが、月に3-4回程度のボランティア活動として、園内の花壇などにパンジーなどの植え付けから花柄摘みなど、広大な公園の管理のお手伝いをしていただいています」
 高齢者が多く、性格もそれぞれのボランティアだから、親しみを出しつつ節度ある言葉遣いで話しかけるなど、少しでも気分よく作業してもらえるように意識して接している。
 「まだ1年目ですが、いろんな人にかかわれるようになりましたね。職員同士ではわかってもらえるようなことも、きちんと説明しないと伝わらなかったり、気分を害したりすることになりかねません。職場の中だけで仲良くしているのでは、この仕事はやっていけないんですね。いろんなお客様がいろんな思いで来ていて、性格もお一人お一人違いますから、それぞれに合わせて対応していくことが必要です。それこそが、お客様に公園で楽しんでいただくために、私がすべきことではないかと思います。これに関しては、もうずっと、一年間悩み続けていることです」

“小田原にある植物園”ということの意味を噛み締めつつ

 同園の象徴でもある、高さ22m・直径40mのトロピカルドーム温室では、約30種類の熱帯・亜熱帯の花木が来訪者を迎え入れる。熱帯ムード満点の温室内は、普通に見ても十分に楽しめるが、より楽しんでもらうため、子どもたちに向けて仕掛けているのが、『アロア・ワッド探検隊』というセルフガイドの企画だ。
 「温室の中の植物は、日本では見られないような、ちょっと異世界の植物を見ることができます。植物に興味のない子どもたちにとっては遠い存在かもしれませんが、少しでも興味を持ってもらえるように、ドーム内のさまざまな場所に謎の女性植物学者『アロア・ワッド』という架空の人物が登場します。子どもたちは、アロア・ワッドさんが出題する、温室内のさまざまな植物に関するミッションに挑戦して、正解するとスタンプが1個ゲットできるという仕組みです。最初は、ミッションボードに載せた植物の写真の実物を探すことからスタートして、特徴的な形の葉っぱや花を探したりしていきます。スタンプを貯めるとバッジがもらえて、さらにたくさんバッジを集めると正隊員の称号が与えられ、その子どもたちにはまた違ったミッションを展開していきます。 “学び”とはちょっと違った、植物と楽しくかかわってもらうための展開を通して、子どもたちはどんどん植物に詳しくなっていきます」
 リピーターの子どもたちには、なるべく名前を覚えて積極的に話しかけている。

謎の女性植物学者・アロア・ワッドのトロピカルドームという世界観を作りあげる。
謎の女性植物学者・アロア・ワッドのトロピカルドームという世界観を作りあげる。

『アロア・ワッド探検隊』のミッションボード。
『アロア・ワッド探検隊』のミッションボード。

『アロア・ワッド探検隊』によるレポートの例。

ドーム内の壁には、アロア・ワッドによる植物の記録の数々が飾られている。
ドーム内の壁には、アロア・ワッドによる植物の記録の数々が飾られている。

謎の女性植物学者『アロア・ワッド』の間。
謎の女性植物学者『アロア・ワッド』の間。


 小田原フラワーガーデンは、花の時期を中心に東京や横浜から自家用車やバスツアーなどで大挙してやってくる人たちがいる一方で、地元小田原市内の人たちを中心に、公園のリピーターも多い。
 「都会に住む友達からは“小田原ってどこ?”と言われることもあって、そんなふうに言われると、この公園の職員として、小田原を盛り上げていきたいなという思いが強くなります。今、小田原では若い人たちが中心になって、まちを盛り上げていこうと頑張っていますから、そんな方たちと連携しながら、植物とかかわる小田原フラワーガーデンの特徴を生かして、かかわっていきたいですね」
 駅周辺にある商店街では、活性化策の一環として、商店街のお店はもちろん、周辺の団体・企業が軽トラに積める範囲で出店する「軽トラ市」を定期的に開催している。簡単な食事や食料品を提供・販売したりイベントで盛り上げたりする試みで、小田原フラワーガーデンもクラフトのイベントなどを用意して参加している。
 「“地域の人に愛される公園”というのがとても重要なポイントだと思います。私たちも地域の一員として、公園の立場から地域を盛り上げていく役割を担っていければと思っています。当園にはトロピカルドーム温室もあって、ヒスイカズラがメインの植物の一つになっています。3月頃から咲き始めますから、“ヒスイカズラと言えば小田原フラワーガーデンだよね”と言ってもらえるような、小田原市内外でも認知を高めていきたいのです。“小田原の”というのが重要だと思います。私もここで働くようになって、本当にこの地域を好きになりました」
 静岡県三島市出身だから、地元・三島で働きたいという思いもあったという中西さんだが、今はもっと小田原のことを知って、まちを盛り上げるために頑張っている人たちといっしょに、小田原の活性化に役立ちたいという思いを強くしている。


公園スタッフ・中西さんの七つ道具

公園スタッフ・中西さんの七つ道具

  • カメラ…facebookやブログの更新も担当しており、開花状況など園内の植物の現状をとらえて情報発信するためのツールとしてカメラは欠かせない。
  • 図鑑…植物の世界はとてつもなく大きく、まだまだ知らないことだらけ。わからないことに出会ったらまずは図鑑で調べることを習慣化している。
  • 手帳…新入社員として初めて社会に出たこともあり、社会人として知っておくべきことをメモして覚えるようにしている。研修時のメモに使ったり、フラワーガーデンの仕事の仕方の記録をしたりと、常に持ち歩き、気になったことは何でも書き込んでいる。“吸収の年”を一年目の目標として掲げ、一度教えてもらったことは2度聞かないように心がけてきた。
  • 名刺…リュックの中には必ず入れて、常に持ち歩く。今は公園長について回ることが多いが、役所をはじめ、市内の企業やメディアの人たちと会う機会も徐々に増えてきて、名刺を配る場面も多くなっている。地元企業とのコラボレーションによる事業の展開をめざして、まずは小田原の人たちに顔と名前を覚えてもらうのが大事だ。
     1月のパンジー・ビオラ展では、エントランススペースで、市内で自家製天然酵母パンを作っているパン屋さんとのコラボで、特設展示に合わせたフラワーガーデンオリジナルの「ビオラぱん」を企画・販売した。エディブルフラワー(食べられる花びら)として、ビオラの花びらを乗せた色鮮やかなパンになった。
  • コンプライアンスカード…西武グループの社員に配られているもの。名刺大に折り畳めるから、名札ケースの中に入れて携行。基本的なことだが、常に初心に立ち返って誠実な対応をめざすための拠り所としている。
  • オレンジジャンパー…小田原フラワーガーデンのスタッフ全員で揃えているコーポレートカラー。このジャンパーを着用しているだけで、フラワーガーデンの一員として背筋が伸びる。
  • ブラックボードのペン…土日祝日に営業しているカフェへお客様を呼び込むために出しているブラックボードを担当するようになって、使っているもの。ウメの花の時期には「梅ソフトアイス」を出したり、ヒスイカズラの開花時期には「翡翠のしずくフロート」を出したりと、植物の形状や色彩に合わせた、視覚的に楽しめる季節のメニューを提供している。
     ボードの書き込み次第で人の集まりも違ってくるから責任重大だ。

一日のスケジュール

6時起床

7時半に家を出て、坂道を30分ほどかけて歩いて出勤。途中、近所に住む子どもたちとあいさつを交わすのが、通勤の間の密かな楽しみだ。

8時、職場に到着。
8時半の始礼までの間、園内の植物を観察したり、本日行う業務を確認したりして、余裕を持って始礼を始められるようにしている。

8時半-9時、園内の掃除。主に温室内の落ち葉掃きやトイレ掃除をスタッフで手分けしている。
SNSやブログの更新も、この時間帯に作業している。写真を撮るには、朝のうちの方が光の具合もよい。
9時の開園後は、事務作業をしながら、イベント準備なども進める。

12時-13時が昼休み。

13時から、午後の業務開始。事務作業やイベントのある日はその対応に。
毎週金曜日は、13時半-16時の間、友の会のボランティアさんたちと、花壇管理や花柄摘み、剪定などの季節に応じた作業に取り組む。
花壇をにぎわすパンジーはボランティアさんたちが種から育てて植え付けている。

17時から、日報作成に取り掛かる。
園内の植栽管理作業の内容を担当スタッフから聞いたり、イベント実施時には参加人数を記録したりする。一番大事にしているのが、お客様の声。要望や苦情、喜びの声など、すべて事細かにスタッフ全員から聞き取って記録する。こうした声を大切にしているからこそ、積極的に会話をすることにもつながるし、公園のよりよい成長のための素材にも生かしていける。

17時半の終礼に合わせて、業務終了。新人ということもあって、時間外勤務をしないよう、すぐに帰るようにしている。

18時頃には帰宅。ゆっくり食事をとって、22時には就寝。

フラワーガーデンは月曜日が定休日。このほかはスタッフ間でシフトを組んで休みをもらっているが、花の開花によって繁忙期と閑散期が割とはっきりと分かれる。
最近は地元・小田原を知るため、カフェ巡りなどするようになった。仕事につながるような新たな情報収集をしていきたいと、休みの間も仕事のことで頭がいっぱいだったりする。



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  1. 001「身近にある自然の魅力や大切さをひとりでも多くの人に伝えたい」 -インタープリター・工藤朝子さん-
  2. 002「人間と生き物が共に暮らせるまちづくりを都会から広げていきたい」 -ビオトープ管理士・三森典彰さん-
  3. 003「生きものの現状を明らかにする調査は、自然を守るための第一歩」 -野生生物調査員・桑原健さん-
  4. 004「“流域”という視点から、人と川との関係を考える」 -NPO法人職員・阿部裕治さん-
  5. 005「日本の森林を守り育てるために、今できること」 -森林組合 技能職員・千葉孝之さん-
  6. 006「人間の営みの犠牲になっている野生動物にも目を向けてほしい」 -NPO法人職員・鈴木麻衣さん-
  7. 007「自然を守るには、身近な生活の環境やスタイルを変えていく必要がある」 -資源リサイクル業 椎名亮太さん&増田哲朗さん-
  8. 008「“個”の犠牲の上に、“多”を選択」 -野生動物調査員 兼 GISオペレーター 杉江俊和さん-
  9. 009「ゼネラリストのスペシャリストをめざして」 -ランドスケープ・プランナー(建設コンサルタント)亀山明子さん-
  10. 010「もっとも身近な自然である公園で、自然を守りながら利用できるような設計を模索していく」 -野生生物調査・設計士 甲山隆之さん-
  11. 011「生物多様性を軸にした科学的管理と、多様な主体による意志決定を求めて」 -自然保護団体職員 出島誠一さん-
  12. 012「感動やショックが訪れた瞬間に起こる化学変化が、人を変える力になる」 -自然学校・チーフインタープリター 小野比呂志さん-
  13. 013「生き物と触れ合う実体験を持てなかったことが苦手意識を生んでいるのなら、知って・触って・感じてもらうことが克服のキーになる」 -ビジターセンター職員・須田淳さん(一般財団法人自然公園財団箱根支部主任)-
  14. 014「自分の進みたい道と少しかけ離れているようなことでも、こだわらずにやってみれば、その経験が後々活きてくることがある」 -リハビリテーター・吉田勇磯さん-
  15. 015「人の営みによって形づくられた里山公園で、地域の自然や文化を伝える」 -ビジターセンター職員・村上蕗子さん-
  16. 016「学生の頃に抱いた“自然の素晴らしさを伝えたい”という夢は叶い、この先はより大きなくくりの夢を描いていくタイミングにきている」 -NPO法人職員・小河原孝恵さん-
  17. 017「見えないことを伝え、ともに環境を守るための方法を見出すのが、都会でできる環境教育」 -コミュニケーター・神﨑美由紀さん-
  18. 018「木を伐り、チップ堆肥を作って自然に返す」 -造園業・菊地優太さん-
  19. 019「地域の人たちの力を借りながら一から作り上げる自然学校で日々奮闘」 -インタープリター・三瓶雄士郎さん-
  20. 020「もっとも身近な、ごみの処理から環境に取り組む」 -焼却処理施設技術者・宮田一歩さん-
  21. 021「野生動物を守るため、人にアプローチする仕事を選ぶ」 -獣害対策ファシリテーター・石田陽子さん-
  22. 022「よい・悪いだけでは切り分けられない“間”の大切さを受け入れる心の器は、幼少期の自然体験によって育まれる」 -カキ・ホタテ養殖業&NPO法人副理事長・畠山信さん-
  23. 023「とことん遊びを追及しているからこそ、自信をもって製品をおすすめすることができる」 -アウトドアウェアメーカー職員・加藤秀俊さん-
  24. 024「それぞれの目的をもった公園利用者に、少しでも自然に対する思いを広げ、かかわりを深くするためのきっかけづくりをめざす」-公園スタッフ・中西七緒子さん-
  25. 025「一日中歩きながら網を振って捕まえた虫の種類を見ると、その土地の環境が浮かび上がってくる」 -自然環境コンサルタント・小須田修平さん-
  26. 026「昆虫を飼育するうえで、どんな場所に棲んでいて、どんな生活をしているか、現地での様子を見るのはすごく大事」 -昆虫飼育員兼インタープリター・腰塚祐介さん-
  27. 027「生まれ育った土地への愛着は、たとえ一時、故郷を離れても、ふと気付いたときに、戻りたいと思う気持ちを心の中に残していく」 -地域の森林と文化を守るNPO法人スタッフ・大石淳平さん-
  28. 028「生きものの魅力とともに、生きものに関わる人たちの思いと熱量を伝えるために」 -番組制作ディレクター・余座まりんさん-
  29. 029「今の時代、“やり方次第”で自然ガイドとして暮らしていくことができると確信している」 -自然感察ガイド・藤江昌代さん-
  30. 030「子ども一人一人の考えや主張を尊重・保障する、“見守り”を大事に」 -自然学校スタッフ・星野陽介さん-
  31. 031「“自然体験の入り口”としての存在感を際立たせるために一人一人のお客様と日々向き合う」 -ホテルマン・井上晃一さん-
  32. 032「図面上の数値を追うだけではわからないことが、現場を見ることで浮かび上がってくる」 -森林調査員・山本拓也さん-
  33. 033「人の社会の中で仕事をする以上、人とかかわることに向き合っていくことを避けては通れない」 -ネイチャーガイド・山部茜さん-
  34. 034「知っている植物が増えて、普段見ていた景色が変わっていくのを実感」 -植物調査員・江口哲平さん-
  35. 035「日本全国の多彩なフィールドの管理経営を担う」 -国家公務員(林野庁治山技術官)・小檜山諒さん-
  36. 036「身近にいる生き物との出会いや触れ合いの機会を提供するための施設管理」 -自然観察の森・解説員 木谷昌史さん-
  37. 037「“里山は学びの原点!” 自然とともにある里山の暮らしにこそ、未来へ受け継ぐヒントがある」 -地域づくりNPOの理事・スタッフ 松川菜々子さん-
  38. 038「一方的な対策提案ではなく、住民自身が自分に合った対策を選択できるように対話を重ねて判断材料を整理する」 -鳥獣被害対策コーディネーター・堀部良太さん-

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